第416話 行っけぇ~!



アニム王が邪神王を見ながら言う。

「テツ、邪神王のところまで私を連れて行ってくれないか」

え?

俺は一瞬呆けてしまった。

「もう1度、レイソードで攻撃を与えれば何とかなると思うんだ」

アニム王やめてくれ、そんなことをしたらあんた死ぬだろう!

俺はそう思ったが、アニム王の顔を見ると何も言えない。

・・・

「わかりました、アニム王」

俺はそう答えると、アニム王を背負い邪神王に向かう。


邪神王のところで起きていた爆発が収まってくると、邪神王の上空からまた白いベールが降りてきていた。

今度は少し小さい気がする。

俺の背中でアニム王が言う。

「あの者たち・・」

俺もチラっと後ろを見ると、神聖術師たちが支え合って詠唱していたようだ。

白いベールが邪神王を包む。


そのベールを見ながら俺たちは近づいて行く。

邪神王は絡みつくベールをうっとうしそうに振り払うが、思うようにいかないらしい。

邪神王の前に、俺とアニム王が立った。

アニム王がレイソードをゆっくりと構える。

そのまますぐに真剣な表情になり、声を出す。

「ハァァ・・・ハッ!!」

レイソードのところに白い光が溢れて来た。

俺も支えるようにアニム王の背中に触れる。

俺は無心でただアニム王を支えていた。

レイソードから出る白い光に、俺の神光気だろうか、それが混じり金色っぽい白い光が邪神王に向かって行く。


邪神王に当たると光が強く輝き、直視できない。

太陽を直視しているようだ。

その光が大きく膨らみ、周囲を包み込んで広がっていく。

・・・・

・・

俺は目を閉じていた。

しばらくすると光が収まって来たのだろう、目を閉じていてもわかる光の感じはなくなっていた。


俺はゆっくりと目を開ける。

先程の戦闘が嘘のような感じだ。

耳が痛くなるような静けさがおとずれていた。

!!

俺の前でアニム王が倒れている。

俺は焦ってしまった。

「アニム王、アニム王!」

アニム王に揺すってみる。

反応はない。

死んだのか?

一瞬そう思ったが、死ねば蒸発するよな、と冷静に言葉が頭に浮かぶ。

そのまま辺りを見渡すが、誰も動いているものはいない。


あ!

邪神王はどうなった?

そう思い、邪神王のいた場所を見る。

白くほんのりと光る人が横たわっている。

俺はゆっくりと近づいて行った。

!!

フレイアじゃないか!!

急いで駆け寄り、フレイアの身体を抱き起す。

真っ裸だ。


ミランからもらったコートを取り出し、フレイアを包む。

意識はないようだ。

そう思ってフレイアを見ていると、目がパッと開く。

うおぉ! 

俺はビクッとなる。


『人の子よ、くぐり抜けたな』

そういうと、視線を俺の後ろに送る。

俺もその視線を追う。

アニム王がいた。

『そして光の神の子よ・・さらばだ』

邪神王はそういうと、フレイアの身体を覆っていた光が消えていく。


この場で意識があるのは俺とアニム王だけのようだ。

「アニム王・・」

俺はそうつぶやく。

「テツ、どうにかなったね」

アニム王が微笑む。

「はい」

俺にジワジワとうれしい感覚がこみあげてきていた。


邪神王が消えた空間をアニム王が見つめている。

「テツ・・私もまだまだだと思い知らされたよ」

アニム王がつぶやく。 

そして続けて言う。

「邪神王という存在は、意思あるものが存在する限り発生するものなのだとわかった。 だが、わかったからといってどうすることもできない。 このように審判を受けるのを繰り返さなければならないのだろうね。 それを摂理というのかもしれない」

アニム王は誰に言うのでもなくつぶやくように話していた。

俺はそばで静かに聞いている。


ん?

フレイアの身体が動いたような気がした。

「うぅ・・ぅう~ん・・・」

フレイアがゆっくりと目を開け、俺たちを見る。

「・・アニム、終わったのね。 それにテツ、お帰りなさい」

フレイアが微笑み言う。

アニム王は微笑みうなずく。

「あぁ、ただいまフレイア、そしてお帰りなさい」

俺も微笑みながら答える。

すると、フレイアがハッとした顔をして自分の身体を確認する。


顔を真っ赤にして俺を睨む。

「テツ、見たわね・・」

「はぁ? 何をだ」

俺が言葉を言い終わらないうちに、フレイアのボディブローが炸裂。

「グホッ・・いや、あのねフレイアさん・・」

もう一発くらった。

もしかして、この出血を伴わないダメージが、一番きついんじゃね?

アニム王は笑いながら俺たちを見ている。

・・・

・・

アニム王は俺たちに背を向けレアたちのところへゆっくりと歩いて行った。

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