第384話 優の事情
◇◇
テツが南極へ出発した日。
時間は6時頃、優の家。
リビングに優が起きて来た。
「おはよう優、もうすぐ朝ご飯できるから」
レイアが声をかける。
「レイア、おはよう。 俺も一緒にするからいいよ」
優はそう言いながら、キッチンへ向かう。
レイアと一緒に軽い朝食を用意してテーブルへ持って行った。
優は食事を取りながらレイアに話しかける。
「レイア、おやじさんだけど、南極へ行くって言ってたよな?」
「うん。 確かゼロとかという人のところへ・・」
レイアも卵焼きを口へ運びながら答える。
「俺って、おやじさんのことを・・いや父親のことをもっと知っているつもりだった」
優が下を向いて言う。
レイアも食事を止めて優を見つめる。
「おやじさんって、てっきり自分勝手に好き放題やってる自己中だと思っていた。 まぁ、俺の母さんもおやじさんのことを良く言うことはなかったし、そんなものだと思っていた。 でも、話を聞いていて何か違うと思ったんだ」
優がレイアを見る。
「レイア、おやじさんって自分勝手なように見えて、俺たちのことを考えながら・・いや、俺の深読みかもしれないけど、どこかで家族のことを想って行動していたと思うんだ。 それが相手にわからないだけで、人と違う形なんだと思う」
レイアは黙って優を見ている。
優は飲み物を一口飲み、続ける。
「よくさぁ、母さんがこんな男だけになってはいけないよって言ってたんだ」
レイアがクスッと微笑む。
「それで俺もあまり深く考えなかった。 でも、本当に身勝手な人間だったらもっと無茶苦茶な人だと思うんだ。 考えてみれば、何か大事な時にはおやじさんが近くにいてくれていたように思う。 何も言わないけどね」
優はそこまで話すとレイアを見て、
「ごめん、レイア。 何か勝手に話したみたいで・・」
「ううん。 優がそうやって思っているってことは、それを知らない間に感じさせてくれていたってことでしょ。 まぁ、テツさんらしいといえば、らしいわね。 私たちは無事帰って来るまで待ってるしかないんだから」
レイアが言う。
「うん、そうだね。 さて、今日も学校へ行きますか」
優はそういうと席を立ち、いつも身に着けている腕輪を取りに行った。
「優、その腕輪の調子はどう?」
レイアが聞く。
「うん、調子いいみたいだよ」
優の反応にレイアが笑う。
優は不思議そうな顔をレイアに向ける。
「うふふ・・フレイア姉さんと腕輪を取りに行った時のドワーフのおやじさんの顔が面白かったのを思い出しただけ」
優たちが学校へ通うようになって、優は自分のレベルが高いのがどうも気に入らない。
レベルが邪魔をする。
何か武技を教官が見せてくれるのだが、すべて見える。
それに自分は武道をしたことがないのに、レベルが自分を強くしてくれている。
これではダメだと思うようになっていた。
そんな時に、レイアに相談。
するとレイアとフレイアがドワーフにレベルを抑える武具を作ってもらえるかどうか聞きにいってくれたらしい。
それで出来上がって来たのがこの腕輪だ。
優のレベルを20ほどにしてくれる。
その腕輪をもらいに行った時に、ドワーフのおやじが誰が使うんだと聞いてきた。
優が俺ですと前に出ると、ドワーフのおやじが難しそうな顔で優を見る。
「こんなひよっこのレベルを抑えてどうするんだ。 もっと伸び伸びやればいいだろうに・・」
などとつぶやきながら腕輪を渡してくる。
その時にフレイアが、優君はテツの息子よ、とドワーフのおやじに言った瞬間、ドワーフのおやじがにっこりとした。
あの豹変が面白かったそうだ。
あんな難しそうなおやじが笑うなんて。
「そうかい、テツさんの子供さんかい! 遠慮なく持って行ってくれ、お代は要らないよ」
ドワーフのおやじがニコニコしながら言う。
フレイアやレイアも正当報酬だからと言って支払おうとすると、テツさんからいつもたっぷりともらっていると言って受け取ってくれなかった。
そして、
「大事に使ってくれ」
と言って、腕輪を装着してくれた。
優は驚きつつも、複雑な気持ちになっていた。
まだまだおやじさんの壁は高いなと感じさせられたものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます