第383話 誰? この人



間もなく入り口が閉まります。 

ご注意ください。


ドア越しにルナを見て軽く手を振った。

ルナは微笑みながら俺を見送ってくれる。

アナウンスが流れ、飛行船がゆっくりと帝都を離れていく。

急速に地上の景色が小さくなり、そのまま飛行船は南極へと向かって行った。

確か3時間ほどだったと思ったが、俺は席に深く腰掛け目を閉じる。

いつもならすぐに寝られるのだが、何か寝付けない。


いろいろと考えていた。

まずは心もそうだが、身体も強くしなければいけない。

卵が先か、鶏が先か。

弱い心を鍛えるには、身体からのアプローチで強制的に鍛えてゆくしかないだろう。

そのうち心も鍛えられると思う。

その繰り返しで歩んでいくと強い人間ができあがるのだろう。

俺の理論だ。

そんなことを考えていると、知らない間に寝ていたようだ。


間もなく到着いたします。

時間は4時30分過ぎ。

船内のアナウンスで目が覚めた。

どうやら寝られるようだ。 

やっぱり俺っていい加減だな。


飛行船が南極の寂しいギルドに到着する。

飛行船から降りる前に、ミランさんにもらったコートを羽織る。

温度調節をしてくれるから快適なコート。

そのままギルドの外へ出てみる。

・・・

ブリザードだ。

その中をゼロの居城へ向かって行く。


少し歩いて行くと、いきなり目の前に壁が現れた。

ゼロの居城の外壁だ。

ブリザードの中では視界がないからな。

入り口から中へ入って行く。

中は風もなく普通の空間が広がっている。

ゼロの居城へ向かって歩いて行くと、一人の大人のような人が居城から歩いて来る。

あれ? 

ゼロって子供じゃなかったっけ?

成長したのかな? 

それとも大人の身体に変形したのか?

そんなことを思いながら近づいて行く。

!!

違う! 

誰だ、あの人は?

「やぁ、テツ」

大人の男の人の後ろからゼロの声が聞こえてきた。

ニコニコしながら歩いて来る。

俺の視線に気づいたようで、説明してくれた。

「彼はイリアスっていうんだ。 まぁ気にしないでくれ」

気にしないでくれって、目の前にいるのに気になるだろ!


そういいながらゼロが俺を見て真剣な顔になる。

「テツ、それほど自分が許せないかい?」

! 

俺は驚いた。

「な・・ゼロ・・」

俺は言葉を失う。

「アハハ・・そんなに怖い顔をするなよ。 とても真剣な顔をしていたものだからね」

ゼロが微笑み言う。

俺はゼロに事のいきさつを説明した。

・・・・

・・

「なるほどねぇ・・まぁ、ボクたちは世界に干渉はしないのだけれど、テツが強くなるというのなら協力はしよう」

ゼロがイリアスを見る。

「イリアス、頼めるかな」

ゼロの言葉にイリアスと呼ばれた男がうやうやしく頭を下げていた。

「御意に」

イリアスが俺の前に立つ。

「ゼロ様、この男・・」

イリアスがそういうとゼロが言葉を出す。

「うん、イリアスも気づいたかい。 テツ、君は面白いスキルを身につけたみたいだね」

ゼロがニコニコしながら言う。

俺にはどのスキルかわからない。 

いろいろ変なのがあるからな。


「テツ、君の身体からたまに出る気なんだが、それってボクたちのまとっているものに近いものだよ」

ゼロがそう言ってイリアスの背中を軽く叩き、居城へ戻って行った。

イリアスと呼ばれる男が俺を見て言う。

「私はイリアスと言う。 クイーンバハムート様の従者みたいなものだと思ってもらえればいい」

そういうと、ジッと俺をみつめる。

・・・・

「・・なるほど。 まだ芽も出ていない感じだな」

イリアスはそっと俺に手を差し出した。

俺は何気なくイリアスの手を握る。


ストン!

!!

気が付いたら投げられていたようだ。

わからない。

握手をしたのは覚えている。

その後、力を込められたのかどうかもわからない。

わかっていることと言えば、地面に背中をつけて上を見上げている。

痛みはない。

・・なんだ?

イリアスは俺を引き起こしてくれた。

「ふむ・・君は素直だね」

微笑みながらイリアスは言う。 

続けて、

「さて、始めるか」

地獄のような猛特訓が始まろうとしていた。

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