第382話 再びゼロのところへ



俺はその優の顔を見て話を続ける。

「こんな世界になって、家族の安全のためにレベルを優先して上げた。 それでとりあえず死ぬリスクは少なくなっただろう。 大きくみればそこまでが俺の親としての最大限の役目だったと思う。 その後は、俺以外の目線で見れば勝手なことをしているように見えただろう。 フレイアなんて素性もわからない美人を連れてきたりしたんだからな」

俺がそういうと少し笑いが出た。 

続ける。

「だが、俺目線では必死だったよ。 いや、自分の成長が楽しいのかな? そこら辺はよくわからない。 だが、自分の成長が全体の安全度を高めると思うと、どこでやめていいのかわからない。 それに際限がない。 また、いろんな情報を得たりしても、肌で状況を感じないとわからないことが多いからな。 そんなことが頭にはあったと思う。 だから動いて、動いてしていたんだと思うんだ」

・・・・・

・・・

いろいろ優に話してみた。


「それにな・・自分の行動がアニム王やミランさんなどに評価してもらえるのはうれしかったよ」

「おっさん、人の目線は気にしないって言ってたよな。 相対評価は意味がないとか・・」

優が突っ込んでくる。

「まぁ、な。 少し難しいかもしれないが、アイデンティティって言葉があるだろ? セリエだったっけ・・これはストレスだ。 えっと・・エリクソンだ、彼の提唱した言葉。 そのアイデンティティだが、例えば優の存在を支えているもの。 今ならレイアがいるから強く感じるだろ?」

俺がそういうと、レイアと向き合って照れていた。

俺は話を続ける。

「だが、そういった足場も自分を中心として周りからの光で自分の影を見て、その存在を確認しているとも言える。 そういうものを削っていく、優ならレイアや俺たちがいなくなっても優という存在を確立するものっていうのかな。 自分自身の中に光を感じれるものをつかめたら、それこそが本当のアイデンティティだと思うんだ。 俺はそれを考えているから、人から見たら自己中に見えるかもしれない。 でも、お前たちのことを考えていないわけじゃないぞ。 常に心にはある。  まぁ、今は難しいかもしれないな。 だからこそ、俺は弱すぎる。 それに、こんなことは優にしか頼めない気がしたんだ」

俺も話をうまくまとめれないが、そう言って優を見つめる。

「・・おっさん、俺も任せてくれとは言えないが、ダンジョンでレベル上げなら俺も一緒に鍛えてみるよ」

優が少し考えながら答えてくれた。


「ありがとう、優。 邪神王の復活はいつかはわからないが、それまでには戻るよ」

俺がそういうと、優が驚いた顔をしていた。

「え・・ダンジョンで鍛えるんじゃないの?」

俺は無言でうなずく。

「じゃあ、どこで・・」

「うん・・ゼロっていう、前に言ったかもしれないけど、南極にいるとても強い人のところへ行って鍛えて来ようと思うんだ」

「な、南極?」

優は驚いていた。

でもゼロのところに普通の人間を連れて行けるはずもない。

俺はゼロの存在を人の上位種のようなものだと説明。

レイアが普通には見えない存在だと付け加えていたが、俺が修正。

今は見えるようになっていると説明すると、今度はレイアが驚いていた。

・・・

取りあえず優たちを何とか説得できた。


時間は1時前。

俺は優の家を後にして、誰にも言わずにギルドへ向かう。

ギルドへ入ると、人の出入りも少ない。

受付は1人配置のようだ。

それを横目に昇降装置のところへ行き、飛行船の発着場へ向かった。


ゼロのところへ行く。

ミランさんが亡くなって、家で考えていた。

弱すぎる自分をどうにかしたい。

家族に言えば、また余計なことを言われる。

どうせ行くのだが、優だけには言っておこうと思った。

レイアもいるから、みんなに後で伝えてくれるだろう。

フレイアには言いにくかった。

嫁はどうでもいい(笑)


南極行の発着場に到着。

誰も行き来することのない飛行船が、俺を待ってくれているかのように感じた。

俺が飛行船に乗ろうとすると、発着場のところから影が近づいて来る。

!! 

ルナだ。

「ル、ルナさん。 どうしてここに・・」

俺は驚いた。

「テツ、ウルダは暗殺者にやられたようだ。 あの斧に自分の記憶を込め、教えてくれた。 敵のスキルで相手の大事なものなどの幻影を見せて虚を突く攻撃をするようだ。 ウルダもそれでやられたようだが・・」

ルナが説明してくれる。

そうか・・ウルダさんは連れ去られたわけじゃなかったんだ。

そして、ルナは続けて言う。

「テツ、行くのか?」

俺はうなずいた。

「うむ・・気を付けて行ってこい」

ルナは俺を見送ってくれるようだ。

ウルダさんのことでショックを受けているだろうに・・。

俺はルナにゆっくりと頭を下げ、挨拶をする。


静かに飛行船の入口が開き、俺は中へ入っていく。

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