第375話 アメジスト・ダンサー


<アニムside>


「・・まさか、あの二人がやられたのか?」

俺は少し寒気がした。

「テツ! わからないのよ・・でも、あの二人は自分の魔素を隠すスキルも持っているはずよ。 だから敵の魔素かもしれないし、魔物かもしれない。 ごめんなさいね、変なことを言って・・」

フレイアが申し訳なさそうな顔をして言う。


俺は少し考えていたが、妙な胸騒ぎがするのでやっぱり見に行くことにした。

スバーハのところへ行き、様子を見てくると伝える。

スバーハも部隊の再編で忙しいだろうにすぐに対応してくれて、よろしくお願いしますと言われた。

俺はフレイアと一緒に、その魔素の方へ向かって行く。

かなり速度を上げて向かう。

フレイアが途中で魔素の感じる方向を指示してくれたので、俺は弱々しい方へ向かった。

フレイアはジッとして動かない方へ向かってもらう。

・・・・

すぐに弱々しい方の魔素の近くまで俺は来た。

広範囲に草木が無くなっている。

その中心付近に、赤い色の服をまとった人が片膝をついて動かない。


死んでいるのか?

パッとそういう考えが俺の頭浮かぶ。

あの赤い服・・まさか・・。

いや、かすかだが生命反応がある。

俺は何も考えないようにしていた。 

ゆっくりと背後から近づいて行く。 

敵なのか?

一定の距離を取りつつ、正面に回った。

!!!

ミラン、ギルマスだ!


俺は急いで駆け寄った。

「ギルドマスター!! ミランさん!!」

声をかける。

剣を地面に突き刺し両手で支え、片膝をついて動かない。

マジかよ・・ミランさん・・そう思うと、俺の声が聞こえたのか、わずかだが顔が動いた。

ゆっくりと俺の方を見る。

「・・やぁ・・テツ・・君・・」

かすかに聞き取れるくらいの声だ。

「ミランさん、すぐに回復薬を出しますから・・」

俺は慌ててアイテムボックスから回復薬を取り出そうとした。


するとミランの左腕が伸びてきて俺に触れる。

「・・テ・・ツ君・・もう遅い・・核が・・やられて・・いる・・んだ・・」

ミランはそうつぶやきながら、右手を俺に差し出してくる。

「・・こ、これを・・エレン・・に・・」

俺はミランの右手をおそるおそる握る。

ミランのてのひらには黒い魔石があった。

俺がそれを受け取ると、ミランが微笑みながら消えていく。


俺は声が出せなかった。

「あ・・あぁ・・・あ・・・」

どうしていいのかわからない。

震える手で、今ミランがいたであろうところの空間を探っていた。

「・・ミランさん・・・」

俺は下を向いてしばらく動けなかった。

・・・・

!!

「あ、フレイアの方はどうなんだ?」

そう思うと、俺はその場ではね起きた。

地面に刺さる、紫色の宝玉が埋め込まれた剣を手に取り、黒い魔石と一緒にアイテムボックスに収めた。


俺はフレイアの方へ向かって移動する。

そういえば、フレイアとパーティを組んでいたんだ。

『フレイア』

俺は念話で呼んでみた。

『何、テツ?』

フレイアからすぐに返事が来る。

『フレイアの方はどうなんだ?』

『うん、それがね・・大きな斧が落ちているの。 たぶんウルダさんのものと思うのよ。 かなり重いけど・・』

フレイアが答える。

『そうか。 で、ウルダさんはいないのか?』

『うん、周りには誰もいないわね』

『そうか・・すぐそちらに到着できると思うから』

俺はそういうと念話を切り、急いでフレイアのところへ向かう。


それほど時間もかからずにフレイアのところへ到着。

フレイアが手を振っている。

近寄ってみると、確かにウルダの斧だ。

じいちゃん作ってもらって喜んでいたものだな。 

記憶にある。

この斧から、かすかだが魔素を感じるという。

「フレイア・・あの・・」

俺は、まずギルマスのことを伝えようと思うが言葉が出て来ない。

「その・・」

言葉が出ない。

「ミラン・・ダメだったのね」

フレイアが言う。

フレイアのその言葉を聞いたら、なぜか力が抜け俺は膝をついた。

そして、いきなり涙が溢れ出してくる。

俺はうつむきながら、ゆっくりとうなずいた。

「・・うん・・うぅ・・」

・・・・

俺が落ち着くまで、フレイアはずっと待っていてくれた。

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