第374話 胸騒ぎ



<ミランside>


アサシンもミランを見て言う。

「さすが、英雄だな」

「・・それだけの腕を持っているのに、もったいないことだ」

ミランはつぶやく。

アサシンに聞こえたかどうかはわからない。

ミランは魔剣:アメジスト・ダンサーを顔の右側でアサシンに切先きっさきを向け、水平に構える。

「いくぞ!」

ミランは一歩踏み出すと身体をコマのように一回転させ、剣を振り下ろす。

紫色の光がきれいに螺旋らせんを描いていく。

アサシンに向かって、上下左右、そして斜め方向からの連撃が繰り出されていた。


アサシンにはまるですべての攻撃が同時に迫って来るように感じるほどの剣戟けんげきだった。

まともに受けると力負けしそうだ。

軽く受け、流す。 

アサシンはその繰り返しで何とかしのいでいた。

それだけでも凄まじい技術なのだが。


段々とアサシンの反応がわずかだが遅れる。

だが、ミランも違和感を感じていた。

余りにも受け過ぎている。

これほどの技術があるのなら、もっとかわして距離を取れるはずだ。

そう思いながらも、ついにミランの剣がアサシンをとらえる。

アサシンの右肩から剣が入り途中で抜け、今度は左わき腹から剣が入り途中で抜ける。 

次は右わき腹から剣が入り途中で抜け左肩から剣が入る。

それがほとんど同時に発生していた。

アサシンはまるでわざと受けているような感じだった。

最後にミランの剣の突きがアサシンの心臓部分を突きぬいた時だった。

!!

アサシンが両腕でミランを優しく抱擁する。

ふわっとミランの両腕に触れたかと思うと、手が伸びてミランと自身を強く拘束!

直後、アサシンの身体全体からミランに向けて針のようなものが突き出した。


「うっ、ぐは・・」

ミランが思わずうめく。

「・・ゴフッ・・死の抱擁です・・こうでも・・しなければ・・捉えられない・・」

アサシンは口から血を吐きながら笑っている。

「ゴボ・・ゴホ・・、こ、これで・・我が弟の・・かたき・・は討てました・・」

「・・き、貴様は・・自分の命を初めから犠牲にして・・」

ミランが苦しそうに言葉を出す。

「・・アハハ・・フハハ・・ゴボ・・・」

アサシンは最期に笑うと、蒸発した。


ミランに刺さった針はすべて毒のようだ。

回復魔法などでも難しいかもしれない。

帝都までいければ何とかなるかもしれないが、その時間もないようだ。

「・・エレン・・」

ミランはそうつぶやきながら、自分の身体をチェックする。

・・・

ダメだ。 

どうやら核をやられている。

無理に動くとすぐにでも死ぬ。 

だが、ジッとしていても時間の問題だ。

念話や念思を送る集中力もない。

だ、誰か・・。

ミランはその場で片膝をついたまま、動けないでいた。


◇◇

<アニムside>


ミランとウルダの戦闘が始まり、少ししてスバーハのところにミランの部隊が到着していた。

俺とフレイアはミランに挨拶しようと思い、ウロウロと探していた。

ミランの部隊も結構疲れているようだった。

俺は銀色の鎧をまとった騎士団員にミランたちはどこにいるのかを聞いて回る。

すぐに指揮官らしき人が来て、挨拶をしてきた。

「お疲れ様です、テツ殿、フレイア殿。 もう合流地点で待機されていたとは、さすがです」

ニコニコしながら挨拶してくれる。

聞けば、ミランとウルダの活躍で、大きな損害もなく戦闘は終了。

合流地点に移動していると、後方で何やら違和感を感じるとミランが言ったそうだ。

すぐに追いつくからと聞き、先行してきたという。

もうすぐ来るだろうということだった。

指揮官はそう教えてくれると、合流部隊との調整に向かった。


俺とフレイアも特にやることはない。

フレイアの方を向いて話してみた。

「やっぱりギルマスの方は楽勝だったみたいだな。 ウルダさんもいるし・・」

「・・・・」

フレイアが答えない。

「どうしたんだ、フレイア?」

俺は聞いてみた。

「うん・・あのね、少し変なの・・」

フレイアが言う。

「変って、何が?」

俺は反射的に聞いていた。

「ウルダさんの魔素ってかなり大きいはずでしょ。 それが感じられないの。 それにかすかだけど、消えそうな魔素の感じっていうのかな。 ちょっと違うかな・・わからないけど、ジッとして動かない魔素のような・・何だろう・・」

フレイアが遠くを見つめる目線で静かに言う。

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