第372話 ウルダとアサシン


<ウルダside>


「それがあなたの固有武器ですか。 なるほど、なるほど・・見ているだけで身体が砕かれそうですよ」

アサシンはそう言いながら、ウルダと一定距離を保ちゆっくりと移動する。

ウルダはアサシンの動きを見ていた。


ふぅ・・と軽く息を吐き、ウルダが一気にアサシンに迫る。

ダッ!

アサシンの目の前に、突然ウルダが現れた感じだ。

ウルダはそのまま斧を力任せに振るう。

重さを感じさせない動き!

アサシンは焦ってしまった。

一瞬の虚を突かれた。

まばたきをし、その刹那を突かれた。


ウルダの斧がアサシンの身体をとらえる。

アサシンがどこへ移動しようとも、身体のどこかが触れる。

斧が触れれば、その触れたところは間違いなく吹き飛ぶだろう。

アサシンは瞬間的に判断、完全回避をあきらめた。

左腕を持ち上げ、左腕を捨てた。

その左腕の分だけ身体をかわすことができた。

ドン!!

アサシンの左腕が肩から消失。

ウルダの攻撃は終わっていない。

斧を振り抜き、地面に軽く接触するとすぐに向きを変える。

ウルダは一歩踏み込んでアサシンに対し横薙ぎに振るう。

アサシンにはもはや回避不可能だろう。

!!

だが、ウルダの斧がアサシンに当たる直前に停止する!

ウルダが止めたのだ。

「き、貴様・・」

ウルダが歯を食いしばりつぶやく。 

そして、アサシンをにらむ。


「ウルダ・・なぜ、私に斧を向けるのだ?」

ルナがいた。

ウルダにはわかっている。 

相手のスキルか何かだろう。

幻影のようなものを見せられているのはわかる。

だが・・。

「ウルダ・・私の左腕はどこだ?」

ルナがゆっくりと近づいてくる。

ゆっくりと右腕を上げ、ウルダの頬を軽く触れる。


ウルダは一瞬ハッとする。

ルナ様本人ではないか、と。

その直後、ウルダは首に熱感を感じた。

「すまぬ、ウルダよ」

目の前のルナがそう言いつつ、今度は胸の辺りを右腕でつく。

・・・

「ぐぶぅ・・」

ウルダの口から血が流れ、身体がブルブルと震えだす。

どうやら毒を入れられたようだ。


ルナに見えていたアサシンは一歩後ろに下がると、元の姿に戻っていた。

右腕で左腕のあった部分を押さえつつ、ウルダに話しかける。

「フハハハ・・さすがのサキュバスも、私のイリュージョンの前には力を出せなかったと見える。 見た目だけではなく、すべてを相手に本物と感じさせる、まばたきから息遣いまで。 これで、あなたの経験値が私のものになるわけだ・・アハハハ・・。 左腕など安いものだ。 また回復させてもらえばいい・・アッハハハハ・・」

アサシンは狂喜していた。


ウルダがその場で震えながらもアサシンを見据みすえている。

見えているのかどうかも怪しいが。

「クッ・・仕方がない・・いくら幻影といえどもルナ様を傷つけられるわけがなかろう。 だがな、このウルダ・・貴様のかてになぞならんぞ・・」

ウルダが苦しそうに言う。

「フハハ・・ウルダさんよ、その毒は神聖術でも取り除けんよ。 アッハハハハ・・」

アサシンの高笑いが耳障りだが、ウルダには聞こえにくくなってきた。


・・ルナ様。

このウルダ、どうやらここまでのようです。

ありがとうございました。

お美しい我が姫様、どうかこれからもその美しさを・・さらばです。

ウルダはそう頭で思うと、右腕を自らの胸に突き刺した。


「な、何? 貴様・・そんな・・」

アサシンが驚いた表情をする。

「・・このウルダを・・甘く・・見る・・な、よ」

途切れながら言葉を紡ぎ、胸から黒い魔核を取り出す。

その黒い魔核を斧に近づけると、スッと吸い込まれた。

斧が少し光ったと思うと、ウルダが蒸発していく。

アサシンはウルダのいたところに落ちた斧を見て、近づいて行く。

「まさか、自ら命を絶つとは思わなかった・・」

そうつぶやくと斧を拾い上げようとする。

「ん?」

斧が全く動かない。

アサシンは両足を踏ん張り、残った片腕で全力を出して斧を動かそうとする。

「ふぅーーーーん!!!」

・・・

全く動く気配がない。

そして、アサシンの左肩部分から大きく出血をする。

アサシンがよろめく。

「グッ・・ふぅ、何でしょうね、この斧は。 私が持てないということは、誰も持つものもいないでしょう。 こんな斧は捨てて置いていいですね。 それよりも私も危ないところです」

そうつぶやきながら姿勢を正す。

「サキュバスの経験値がいただけなかったのは残念ですが、まぁこれで仕事は一つ片付きました。 後は奴に任せて、私は回復させてもらいますか」

そういうと、アサシンは姿を消した。


◇◇

<ルナside>


帝都ダンジョン外側、ルナお気に入りの見通しの良い丘。

大きな木の横で、ハンギングチェアとでも言えばいいのだろうか。

それにゆったりと座り、ルナはスイーツを食べていた。

フト空を見上げる。

まだ月が見えるな。

「・・・・・」

しばらく見上げていたが、飲み物を一口飲みスイーツを口に運ぶ。

少し苦いな。

そう思いながら黙々と食べ続けていた。


◇◇

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