第351話 出発前に家族に挨拶だな



レアがアニム王のところへ来て発言をする。

「アニム様、わたくしたちは、トリノ殿のギルドの支援に向かいますわ」

「そうか。 ありがとう」

アニム王がそういうと、レアは軽く膝を曲げ挨拶をしてその場を去っていく。

それぞれのギルドとはすでにゲートでつながっており、移動時間はほとんどない。


アニム王は最悪の事態というか、既にこうなることは織り込み済みだったようだ。

俺って、どうなるんだろ?

遠慮せずに配置を言ってくれれば行くぞ!

しばらく待っていると、アニム王が俺を見る。

ゆっくりと近寄って来る。

「テツ、すまない。 こんな事態になってしまった。 私としては仲良くしたかったのだが・・」

「いえ、あんなことをする連中を許せるはずがありません。 それよりも、私はどこを担当すればいいでしょうか?」

俺がそういうと、アニム王が言いにくそうな顔をしながらもはっきりと指示してくれる。

「テツにはこの地域を担当してもらいたい」

アニム王の前面に中国からロシア地方がホログラム表示されていた。

「この地域の東側から騎士団が進行していく。 テツにはやや南側からこの方向へ向かって行って欲しい」

どうやら大陸をエスペラント国方面へ向かうようだ。

「わかりました。 では、早速出発します」

俺はそう返答し移動しようとした。

俺の前にフレイアが立っている。


「テツ! まさかの私を置いて行くなんて言わないわよね?」

フレイアが腕を組み俺を見つめている。

俺はその顔を見て、アニム王を見た。

「テツ、帝都は心配しなくてもいい」

アニム王が言う。

「そうだぞ、テツ。 私もいるしな」

ルナがそう言う、なるほど。

俺は逆に帝都を攻める連中を本気で気の毒に思った。

ルナとアニム王がいる。

シルビアもいるだろう。

全く問題ない。


俺はフレイアの方を向き直って姿勢を正す。

「フレイア、本当にありがとう。 これほど心強いことはない。 よろしくお願いします」

そう言って握手を求めた。

フレイアもにっこりと微笑み、俺の手をギュッと握ってくれる。

当然フレイアとパーティも組む。

俺たちはアニム王に挨拶をして出発だ。

「アニム王、出発前に少し家族に挨拶していってもいいですか」

さすがに何も言わずに戦場には行けないだろう。 

普通の外回りとは違う。

「当然だろう。 テツ、よろしく頼むよ」

アニム王はゆっくりとうなずいて答えてくれた。


俺とフレイアはゲートに案内してくれる人に、すぐに戻ってきますと言って家に帰る。

家が近づいてくると、俺はフレイアにばあちゃんたちをフレイアのカフェに集めて欲しいとお願いした。 

どうせならまとめて説明した方がいい。

フレイアは快く了解してくれる。

俺も嫁の家に向かって行った。

嫁の家の呼び鈴を押す。

「はーい」

嫁の声だ。

ドアが開き嫁が出て来た。

「あら、パパさん。 何か戦争が起こるっていう話だけど・・」

そのことで話があるからフレイアのカフェに集まってくれと伝える。

その後、優の家にも向かった。

優も家にいたので一緒にみんなのところへ連れて行く。


フレイアのカフェに入る。

みんな集まっているようだ。

フレイアがカウンターに入って行って、飲み物を用意してくれていた。

レイアも手伝っている。


「テツ、戦争が始まるって本当かい?」

ばあちゃんが不安そうに言う。

「あぁ、そのことで集まってもらったんだ」

俺はそう言うと話始めた。


この帝都の外側の国というか、今までの地球上の国の帝国主義の連中が集まって戦争を仕掛けてきていること。

ばあちゃんに帝国主義といってもよく理解できないので、アメリカやロシア、中国などの国だったところと説明。

すでに、アメリカにあったギルドが攻撃され、ギルドマスターが拉致されたこと。

この帝都にも使者が来ていたが、交渉というものではなくこの国に属国になれというような内容の要求を押し付けてきて、決裂したこと。

そして、冒険者ランクがA以上の冒険者が戦力として出動することなど。

・・・・

・・・

「・・で、テツが行くのかい?」

ばあちゃんが心配する。

「あぁ、そうなるね」

「そんなバカな。 あんたが行かなくてもいいだろうに・・」

当然の反応だな。

「ありがとう、ばあちゃん。 でも、ここにいても仕方ないから・・」

俺も言いにくいが答える。


「兵隊さんだっているだろう」

ばあちゃんが言う。

ばあちゃん、帝都騎士団より俺の方がレベル高いからなんて言えないな。

「パパさんが行くの? 役に立つの?」

嫁も言う。

「テツさんがねぇ・・」

お義母さんも言う。

みんながそうつぶやいていると、フレイアとレイアが飲み物を運んできた。


なんだかんだ言って、嫁たちも心配はしてくれているのかな?

いや、違うような気がする。

フレイアが入れてくれたハーブティを一口飲み、俺は話始める。

「あのさ、戦争なんてしないに越したことはない。 でも・・っていう言葉は好きじゃないが、相手は自分の思う通りにならないと、武力で押し切ってくる奴等だ。 もし、戦わずに負けたら・・奴隷だな。 それでも生きてる方がいいと言えるかもしれない」

もう一口飲んで話を続ける。

「なんていうのかな・・こんな世界になる前には、俺は戻りたくはない。 今までの世界では、努力すれば報われそうな幻影を見せてくれる世界だった。 報われる人もいるが、今は自分の努力が完全ではないけど報われる世界になっている。 そんな今の世界を俺は守りたいと思う。 そして、その想いが結局は家族を守ることにつながると思う。 だから俺は戦いに参加しようと思うんだ」

フレイアが横から言葉をかけてくれた。

「お母様、テツはものすごく強いのですよ。 信じられないかもしれませんが、私も援護しますし、騎士団もついています。 それに回復魔法の集団もいますから、死ぬようなことはないと思いますよ」

フレイアの言葉に気がまぎれたのだろうか。

ハーブティを飲みながら、ふぅと言っていた。

「・・まぁ、何を言っても行くのだろうけど、待たされている人がいることだけは、忘れないでおくれよ」

ばあちゃんが静かに言う。

俺も言葉を重く受け止める。

「ばあちゃん、ありがとう」


「・・おっさん、死ぬなよ」

優が言ってくれる。

俺はニヤッとして優の頭を撫でた。

「優こそ、こっちを頼むぞ」

凛が俺の方をジッと見ている。

颯はバーンを頭に乗っけて下を向いていた。

俺は凛に近寄って行き、凛を抱っこした。

「凛、行ってきます」

「パパ、悪い奴をやっつけに行くの?」

凛が俺を見つめる。

「う~ん・・どうなんだろう。 悪い奴というより、病気で溜まった悪い血を出しに行くって感じかな?」

俺がそう答えると、凛がふ~んと言ってママの方へ行った。

難しすぎたか。


颯は下を向いたままだった。

颯も抱っこしてみた。

・・重くなったなぁ、そう思って抱き上げてみると涙を流していた。

俺はそのまま颯をギュッと抱きしめて、頭を撫でる。

「・・テツ、死なないで・・」

颯が小さくつぶやく。

こっちが泣きそうになる。 

颯、俺に死亡フラグ立てるなよ。

ゆっくりと颯を降ろして、嫁さんに一言。

「じゃ、よろしく頼みます」

「うん。 パパさん気をつけていってらっしゃい」

嫁のお義母さんもうなずいていた。

いやいや、このシーンヤバいだろ。

俺、死ぬわけじゃないんですけど。

それに嫁がいってらっしゃいって声をかけたぞ・・危ういかな、マジで。

じいちゃんはにっこりとしてうなずいている。


俺には出来過ぎた家族だな。

もし、これで会えなくなっても、今ここで俺の命が尽きてもいい・・そう思える。

前の世界でも、俺は過去の写真や書類はすべて処分していた。

投げやりなんじゃない。

今日を精一杯生きて、次の日を迎えるのは幸運だと常に自分に言い聞かせて来た。

無論、嫁などは理解できるはずもない。

・・・

って、本当に死亡フラグだよな。

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