第350話 交渉決裂


「こ、これは・・我々をおとしめるために作られた映像ではないのですかな?」

使者たちは精一杯強がっているようだ。

「我々も、これが作られた映像ならばどれほど良かったか。 ですが、ほんの少し前に起きた事実です」

アニム王がそういって使者たちを見る。

「・・なるほど。 我々とは交渉する気すらないというわけですな。 わかりました。 では、これで失礼します。 それから、我々がこの国を離れるまでは安全を確保して欲しいものですな」

使者たちは軽く震えながらも、ふてぶてしくそう言い放つ。

「無論、安全は保障しますよ、人としてね・・」

アニム王が言う。

使者の代表らしい人物は、口の片端を少し吊り上げるとその場を去って行こうとした。

すると、一人の使者が動こうとしない。


他の6人の使者が2、3歩進むと立ち止まった。

「お前は確かエスペラント国とかいうところの・・」

そう言ってその男をにらんでいる。

その男は、アニム王の方を向き片膝をついた。

「王様、私はマティアスと申します。 発言をお許しください」

下を向いたままそういう。 

「どうぞ」

アニム王が発言をうながした。

「はい。 実は、我々がこの場から30分以内に退去しなかった場合、我々に対する攻撃が加えられたと判断し、総攻撃がこの王国に向けられます」

マティアスがそういうと、使者の一人がうろたえていた。

「あ、あなた何を言って・・」

マティアスは無視して発言を続ける。

「先ほどの映像の通り、交渉と同時に攻撃をしかけ、相手に余裕を与えずに従属させる手筈てはずでしたが、先手を打たれ参りました」

マティアスはあっけらかんとした感じで言う。 

そして続ける。

「王様、私は自分のいた領域を放棄します。 また、世界各地にあるあなた様の領域の街にも、我々の部隊が多数派遣されています」

マティアスが発言していると、使者の一人が青筋を立てて言葉をかぶせてきた。

「だまらっしゃい!! いったい何を言っているのですかあなたは! それにそんな嘘をよくもまぁ・・」

使者の額には大粒の汗が流れていた。

「ギルティ!!」

声がまた聞こえて来た。

人の間からゆっくりとココが前に出てくる。


ミランがココの方を見て使者の連中に説明をする。

「皆さん、この子は審議官と言って、相手の嘘を見破るスキルを持っています。 あなたたちがどれほど偽証しようとも無駄です。 ただ、洗脳されていたりしていればわかりませんがね?」

ミランはニヤッとした。

「・・審議官だと?」

「なんだそのスキルは?」

・・・・

使者たちがザワザワつく。

そんな中、アニム王が声を出す。

「使者の方々、ご足労いただきありがとうございました。 とにかく、我々とは現段階では交流できそうにありませんね。 それに、これは明言しておきますが、ギルドに被害があった場合には、相応の対処をせざるを得ません。 ご了承ください」

アニム王が目線を動かして指示をだす。

「使者がお帰りだ、安全を保障して差し上げろ」


マティアスは素直に騎士団に連行されていく。

連行されていく途中で、俺の近くに来た。

俺を見ると立ち止まる。

「これは、テツさんじゃありませんか?」

マティアスに悲壮感はない。

俺はうなずいて見つめている。

マティアスはにっこりとして小声で言う。

「テツさん、ここの方が安全だと判断しました。 ゆっくり昼寝でもさせてもらいます。 それに私の他にも何名か亡命してきております。 よろしくお願いしますね」

俺にそういうと、微笑みながら連行されていった。


俺はマティアスの背中を見送りつつ思った。

なるほど、わざと捕まったのだ。

それにしても、そのとっさの判断力は凄いな。

もし、その計算が間違えていたら命を落とすだろうに・・・いや、そこまで計算していたのだろう。

マティアスの他って誰だろうか?

俺は少し考えたが、あまり想像できなかったのでやめた。

マティアスが連行されるとともに、使者たちも王国から出て行ったようだ。


◇◇

<連合国side>


使者たちが乗って来た飛行艇の中では、怒号が飛び交っていた。

「あの小僧、我々に脅しをかけてきたな」

「あぁ、全くだ。 こちらを舐めているのか?」

「まさかあんな映像を見せられるとは思わなかった・・」

「まぁ、こちらも交渉と同時に攻撃をしかけていくつもりだったが、仕方ない」

・・・・

・・

そんな会話をしながら、連合国本部と連絡。

戦闘に移る許可を取っていた。


◇◇

<アニムside>


会議室では、それぞれが配置指定を受けていた。

「ミラン、君はドワーフ国周辺を担当してくれ」

アニム王が言う。

「ウルダ、ついて行ってやれ」

ルナが付け加えた。

ウルダも無言でうなずいている。


アニム王が指示をしている間に、それぞれに指示内容が伝えられていた。

まずは、各自の街の安全を確保すること。

ギルドからもAランク以上の冒険者をそれぞれ派遣し、援護する。

変な言い方だが、会議室内は活気が溢れていた。

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