第338話 シルビアの放つ矢


シルビアと一緒に30階層に到着。

なんか30階層に縁があるのかな?

赤い砂漠。 

何もない見晴らしの良いエリア。

「テツ、ここは・・何もないな」

シルビアが前を向いたままつぶやく。

「あぁ、ここは赤い砂漠のエリアだ。 バジリスクがいるはずだ」

俺がそういうと、シルビアが顔を引き締めた。

「バジリスクか・・」

シルビアを横目に俺は辺りを索敵してみる。


ピピピ・・バジリスク:レベル31×2、レベル30×2が引っかかる。 

後は大したことはないようだ。

「シルビア、レベル31と30のバジリスクが4体いる」

俺はそう伝えてみた。

「・・4体もいるのか。 確か、相手を石化させるスキルを持った魔物だな」

シルビアが真剣な顔になりながら答えている。

「大丈夫だ。 俺も援護するよ」

俺がそういうと少し微笑んだようだ。


俺達はゆっくりと歩いて行く。

どうせ隠れるところなんかない。

ノッシノッシとバジリスクが歩いて来る。

俺達の真正面方向に4体いる。

前後にばらけてはいるが、全部俺たちの前方からやってくる。

順番に倒せそうな感じだが、手間取ると全部を相手にしなきゃならない感じだ。

シルビア一人では難しいかもしれない。

そんなことを考えていると、俺達からみて最前列のバジリスクまで200メートルくらいになっただろうか。

バジリスクの動きが少し速くなった。 

俺たちに気づいたようだ。


俺の横でシルビアが黒い弓を強くしならせて引き絞っている。

バシュッと弓が放たれ、バジリスクへと濃い紫色の軌跡を描きながら飛んでいく。

トシュ!

バジリスクの表皮にはじかれることなく矢が刺さったようだ。

だが、致命傷にはなっていない。

歩く速度をそれほど落とすことなく近づいてくる。

シルビアも第2矢を放とうとしている。

バシュッ!

直後、第3矢を放つ。

連続で5本放った。

どうやら、それでバジリスク1体を倒せるようだ。

最前列のバジリスクが消滅。

すぐに次のバジリスクが迫ってきている。


シルビアは先ほどと同じように矢を放つ。

バシュ、バシュ、バシュ・・・。

矢が流れていく、濃い紫色の軌跡を俺は見ていた。

トサッと軽く音がする。

横を見ると、シルビアが片膝をついていた。

肩で息をしているようだ。

「大丈夫か、シルビア!」

俺はそういいつつ、魔力回復薬を取り出してシルビアに渡す。

「・・はぁ、はぁ・・だ、大丈夫だ。 ありがとう」

シルビアが少し苦しそうにしながらも、魔力回復薬を飲んでいる。


バジリスクたちは遠慮なく迫って来る。

シルビアは連続で矢を放つ。

見ていると、どうやら10本くらい連続で放つと休息が必要なようだ。

たぶん、あの濃い紫色の矢を放つから疲れるのだろうな。

シルビアが横でまた膝をついて肩で息をしている。

「シルビア、最後の1匹は俺が倒してくるよ」

そう言って俺はダッシュした。

すぐにバジリスクの顎下に到着。

そのまま飛燕を抜刀しつつ下から斬り上げた。

ざん

頭と胴体がきれいに分かれて、蒸発する。

ゆっくりと歩いてシルビアのところへ戻りながら、バジリスクの魔石を回収。


「シルビア、お疲れ様だな。 でも、凄いなあの紫色の光る矢は! バジリスクの皮膚に刺さるんだものな」

俺がそういうと、シルビアが微笑みながら「ありがとう」とお礼を言う。

「しかし、テツみたいにズバッと斬りたいものだな」

「俺は、これしかできない」

そう答えつつ、魔力回復薬をシルビアに渡す。

これって、何度も飲んで大丈夫なのか? 

飲んで回復、消費して飲んで回復って、ペットにエサをやってるんじゃないよな。

フトそんな飼育ペットのうさぎが頭に浮かんだが、まぁいい。

それで死ぬようなこともないだろう。


時間は11時前だ。

シルビアを見ると、何でもなかったような感じだ。

まぁ、体力が削られているわけじゃないからな。

次の階層へ行く入り口を通過して、31階層へ行く。


31階層は休息ができるエリアだったはずだ。

入り口のところに立って、シルビアが周りをゆっくりと眺めている。

「きれいね~」

そういいつつ、大きく深呼吸している。

きれいな森というイメージがあるエリアだ。

太陽があるはずもないだろうが、木々の間から陽が差し込んでいる。

フレイアもそうだが、シルビアも自然を感じると元気になるのかな?

そんなことを思いながらゆっくりと移動する。

「テツ、本当にすまないな。 私がいるばかりに余計な苦労をさせている」

シルビアがつぶやく。

「シルビア、何言ってるんだ。 お前のレベル上げがメインじゃないか。 あれ、違ったか? 別に攻略するわけじゃないし、命をかけてまでするものじゃない。 ゆっくり行ければいいんだよ」

俺がそういうと、シルビアも明るく笑っていた。

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