第334話 身体測定


てのひらに太陽の炎の柱の膨れ上がるイメージをつくる。

それを凝縮していく。

俺は前を見て、奥にある模擬人形にフレアを放つ。

魔法を測定するところは、一応四方を壁で囲われている。

大きさは学校の体育館くらいの広さか。

上下前後左右に魔法刻印が施されているそうだ。

俺たちが入ると同時に魔法刻印の施された壁が降りてきていた。

下は土が敷いてあるので、その下の床面にあるのだろう。


大丈夫と思いたい。

その壁の奥の方へ赤い玉が飛んでいき、白く光ったかと思うと爆発を起こす。


ドッゴォーーーーーーン!!!!


俺はフレアを撃った瞬間に、自分のところにはシールドを展開していた。

俺の後ろにいるヘレメスも防御できているはずだ。

赤い炎の渦の中に、黒い渦も混じっている。

壁の中で荒れ狂っているようだ。

ヤバいんじゃないか?

俺はチラっとヘレメスを見てみた。

ヘレメスは直立不動だ。 

ん? 

まばたきをしてないぞ。


シールド越しに振動が伝わってくる。

かなり激しく揺れているように感じる。

・・・・

・・

しばらくすると、炎も小さくなり収束した。

囲まれていた壁は黒くすすけているが、傷などはない。

さすが帝都の魔法刻印。

地面の部分だったところは土などが敷いてあったが、それらはすべてなくなっている。

黒くなったり、キラキラとガラス化してみたりしている。

ところどころドロドロと溶岩のように赤黒くなっているところもある。

初めにあった模擬人形のようなものだけが突っ立っている。

あの人形、いったい何でできているんだ?

魔法を測定する部屋は壁だけになり、ただ空間が存在していた。


俺はゆっくりと後ろを振り向いてみる。

ヘレメスは先ほどと同じ姿勢で立っている。

ヘレメスの目の前で手を動かしてみる。

・・・

反応がない。


「ヘレメス。 ヘレメス!!」

俺がやや強く声をかけると、ハッとなり俺の顔をみつめる。

「テ、テツ殿。 この魔法はいったい・・」

ヘレメスが真剣な顔で聞いてくる。

「一応、火の属性魔法だと思うのだが・・」

俺も魔法に関しては詳しくはない。

ただ、イメージと魔力があれば、誰でも使えるという知識がある程度だ。

ヘレメスがやや放心状態で話しかけてくる。

「えぇ、見れば火属性の魔法だというのはわかります。 ですが、この威力・・。 この部屋は最上級魔法にも耐えられる設計になっています。 私が知ってる魔術師でも、これほどの魔法を放つ人は見たことがありません」

ヘレメスが魔法測定の部屋見渡して話す。


「そ、そうなのか」

やり過ぎたのか? 

俺は後悔していた。

ファイアーボール程度にしておけばよかったんだ。

張り切ってフレアなんか出さなければ良かったよ。

ただ、それならヘレメスに一応口止めしておかなきゃいけない。

「ヘレメス、悪いんだけど俺の魔法はあまり人に知られたくないんだ。 緊急の時には役立ちたいけど、目立ちたくないんだ」

俺は要点を言ってみる。

「えぇ、わかりました。 普通は強さを皆アピールするのですが・・」

ヘレメスもだいぶ落ち着いてきたようだ。


魔力測定の部屋を出て、横の場所へ移動。

「さて、次は身体能力を測定したいのですが、あの人形の前に立ってもらえますか? 人形が相手に反応して動きます。 模擬戦闘みたいな感じですが、それでデータを測定します」

ヘレメスも落ち着いたのか、普通に話しかけてくる。

俺はゆっくりと歩いて行って人形の前に立つ。

人形がゆっくりと起き上がって、俺の前で構えた。

人形の手がコイコイと、手首で誘っている。

この人形・・俺はニヤッとしながらダッシュした。

飛燕を使うことなく素手で行こうと思う。


人形まですぐにを詰めると、右足を軸にして左手で人形の顔めがけて突きを繰り出す。

人形は器用に顔を動かして避けようとする。

俺は左手を引きつつ左回し蹴りを繰り出した。

これはおとりだ。

相手に当たる前に下に降ろし、右掌打みぎしょうだを人形に出した。

人形は器用に反応してくれる。

俺の動きがわかっているみたいだ。


俺の右掌打が人形の胸の辺りにヒットする。

人形は肘でガードしていた。

続けて左拳を人形のボディに叩きつける。

直後、もう一度右掌打を右足を半歩前に出しながら繰り出す。

これで全体重を乗せて繰り出せる。

身体を一本の棒のようにして回転させて動かすと、右掌打がきれいにヒットして人形が吹き飛んだ。


俺はその場で立っている。

少しして人形が起き上がり、元の位置に戻ってきた。

ダメージとかないのかよ・・あの人形って、最強じゃね?

壊れてないし、これをドローン化して使ったらいいんじゃない?

俺はそんなことを考えながらヘレメスを見た。


ヘレメスはまたも放心状態のようだ。

俺はヘレメスに近寄っていって、また目線をさえぎるように手を上下に動かしてみた。

反応なし。

「ヘレメス。 ヘレメス!!」

ヘレメスがハッとなって俺をみる。

「あ、あぁテツ殿。 おそらく学校で得られるものは何もないかと思います」

ヘレメスが小さな声で言う。

俺も言葉がない。

・・・

ヘレメスと向き合って、お互いに乾いた笑いをした。

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