第327話 いったい何だったのだろう?
ココが立ち止まっていた。
しばらく前を向いて、ゆっくりと俺を見る。
少し震えているのか?
『・・テ、テツ。 嘘は・・言ってないみたいね』
俺はココを見ながらうなずいている。
『ココ、君をおぶって魔導国方向へ向かう振りをして、ドワーフのギルドへ戻ろうと思う。 おそらく相手はついて来れないと思うから』
俺はそういうと、ココの返事を待っていた。
ココは意を決したのか、俺を見て大きくうなずいていた。
そうと決まれば行動だ。
俺はココを背負う。
「ココ、行くぞ」
そうつぶやくと、ココと俺の身体に風魔法をかけ一気に走り出した。
魔導国方面にダッシュする感じだ。
!!!
俺自身が驚いた。
まさか、こんな速度で走れるなんて・・地上用の戦闘機か?
音速、超えてるんじゃないか?
いや、音速を超えると
待てよ、魔法で身体が保護されているから大丈夫なのか?
そんなことを考えてみたが、一瞬と呼べる感じでシュナイダーたちの国を後にする。
走ったというか飛び去ったというか、移動した距離はどれくらいだろう。
わからない。
ただ、もの凄く進んだのは間違いない。
ライセンスカードで現在地を確認。
なるほど、後少し行けば魔導国の近くに行けるようだ。
・・・
尾行の連中は俺の索敵範囲内にはいない。
このまま大きく迂回して、ドワーフ方面へ向かおう。
俺は用心しつつ、右回りに大きく距離を走る。
苦しくはない。
ココは俺の背中で静かにしっかりと
・・
俺は不謹慎にも背中で比べた。
シルビアが一番だな、と。
ちょ、ちょっとぉ!!
テツって地球人でしょ?
これって普通じゃないわよ!
これがレベル42、Sランクの冒険者というわけ?
冗談じゃないわ。
普通、こんなのと遭遇したら死を覚悟するしかないじゃない!!
良かったぁ!
出会った時に偉そうにしなくて。
でも、テツの背中ってあったかい・・。
ココはテツの背中に
◇
テツが一気に走り出して、尾行者たちは驚いていた。
だが、驚いてばかりもいられない。
後をつけなければいけない。
急いで全員で後を追う。
しかし、完全に見失っている。
その気配すらも感じない。
尾行者たちは互いに顔を見合わせていた。
「君はマルガリータ様のところの影ですね。 どうですか? この方向へ移動したのは間違いないと思うのですが・・」
「ええ、間違いないと思います。 いきなり高速で移動してしまったので少し見失いましたが、この辺りでまた足跡をたどれそうな感じです。 はっきりとはわかりませんが・・」
「・・・・・・」
尾行者たちは、何となくテツの過ぎ去った後を追跡していた。
ココが居れば、ギルティ! と叫ばれていただろう。
全員の額には暑くもないのに汗がにじみ出ている。
「しかし、あの速度で移動となると、我々よりもレベルが高いのでしょうか?」
「まさか・・慢心しているわけではありませんが、我々ほどこの短期間にレベルを高められるわけがありませんよ。 そういった速度のスキルなんじゃないですか?」
小柄なテツをなめているわけではないが、自分たちの身体能力が今までとは遥かに違う。
誰でも自信過剰にはなるだろう。
それに、今のレベルになるのにはそれなりの苦労もあった。
「さて、どうしますか皆さん。 お館様に見失いましたと報告されますか? 私が連絡をつけてきてもいいのですが・・」
「あなたは、シュナイダー様のところの影ですね。 しかしですねぇ・・」
「お館様たちは、情報が遅れるのを嫌います。 それに間違った情報もね」
そう言うと、皆が一瞬緊張した。
「そ、そうですね、では、あなたに報告をお願いしましょうか。 残りは、魔導国周辺の調査をしませんか?」
「シュナイダー様のところの影の言うとおりですな」
尾行者はうなずき合うと、それぞれがやることをわかっているかのように動く。
見つかるはずもないだろうが。
◇
テツとココはすでにドワーフのギルド近くまで来ていた。
どうやら尾行者は完全に巻いたようだ。
だが、一人だけついてきている奴がいる。
俺はココを背中から降ろし、先にギルドの施設へ向かって行ってくれと言った。
「どうしたのよ、テツ」
「うん、一人だけ尾行者がいるようなんだが、はっきりとわからないんだ」
「どういうこと?」
ココが不思議そうに俺を見る。
「確かに誰かいるのは間違いないんだが、その存在がはっきりしないんだ。 うまく言えないな・・レベルはわからないし、マッピングでも把握できない。 だが、居るのはわかるんだ」
俺もうまく説明できない。
俺達との距離を一定に保っている。
それに、今まで気づかなかった。
間違いなくヤバいだろう。
そのまま放置でもいいが、確認しないと気持ち悪いしな。
迷ったが、俺一人で確認しようと思ったので、ココをギルドの方へ向かわせようと思っただけだ。
ココも納得してないだろうが、俺の顔が真剣なのと身体能力を目の当たりにして文句も言わない。
黙ってギルドの方へ行ってくれた。
俺はそれを見送ると、尾行者がいるであろう場所へと一気に走る。
距離的には200メートルくらいだ。
一瞬で移動できただろう。
その辺りを見渡す。
同時に索敵もしてみるが、何も引っかからない。
何か見つかりにくいスキルなんだろうと思い警戒レベルを上げる。
・・・
よくわからないな。
だが、見られている、そんな感覚だ。
気のせいではないだろう。
「誰ですか? 俺たちをつけてきたのは・・」
俺は声に出してみた。
・・・
当然、返事はない。
確かにいるはずなんだがな。
そんなことを思いながら、俺はパッパッパッと移動して抜刀。
存在がありそうなところをそうやって繰り返し確かめてみた。
・・・
何もない。
おかしいなぁ・・確かにいるように感じたのだが、本当に気のせいだったのかな?
改めて索敵してみてもやはり感知できない。
・・・
それよりも、さっきまでの見られていたような感覚がなくなった。
ふ~む・・いったい何だったのだろう?
もしかして、監視するアイテムかツールだったのかもしれない。
とにかく嫌な感覚がなくなったので、俺はギルドの方へ向かって移動する。
◇◇
エスペラント国の異世界人たちだけが集まっている小さな家の中。
「
猊下と呼ばれる、やや年配の男が背中越しに聞いていた。
「君、猊下と呼んではいけないといいませんでしたか?」
声をかけてきた男の方をゆっくりと向く。
「あ、は、はい。 申し訳ありません」
男は額に汗をかいている。
「まぁ、いいでしょう。 アサシンには決して手を出すなと言ってあります。 問題ありません」
そう会話をしていると、ドアがノックされる。
ゆっくりとドアが開かれて男が入って来た。
アサシンだ。
音もなく、猊下と呼ばれた男の前に来てひざまづく。
アサシンを見て驚いていた。
「どうしたのです、その腕は!」
アサシンの右手首から先がなくなっていた。
「ハッ! 不快な姿をお見せして申し訳ありません。 尾行を感づかれたのかどうかわかりませんが、相手が剣を振りまわしているときに、剣が当たったようです」
アサシンは淡々と答える。
「尾行に気づかれたのですか?」
「いえ、私の存在を認識してではなく、適当に何かいそうなところに剣を振り回していたようでして、当たったのは私のミスです」
アサシンは自分の不甲斐なさを詫びていた。
「そうですか、まぁいいでしょう。 我ら教団に脅威を与えそうでしたか?」
「いえ、奴等はそれほど脅威に感じませんでした。 ただ移動速度は評価できます」
アサシンからの報告とその表情を読み取る。
「ふむ。 そうですか・・やはりドワーフの武器の加護か何かを得ているのでしょうね」
猊下と呼ばれる男はそういうと、アサシンを下がらせる。
「ご苦労様でした、回復させてもらうと良いでしょう」
アサシンはうなずくとその場を去った。
「あのアニム国からの男・・この国の調査だったのですね。 だが、我々の存在には気づいてはいないでしょう。 審議官も連れていたので警戒しましたが、身体能力が高いだけの輩だったようですね」
年配の男は一人納得すると、窓の外を見つめていた。
◇◇
<シュナイダーの館>
「なんだと!!」
シュナイダーが大きな声を出していた。
片膝をつき、報告している影が下を向いていた。
「お館様、申し訳ありません。 我々全員で追っていたのですが・・」
シュナイダーはすぐに落ち着きを取り戻していた。
「そうか・・すまない、大きな声を出してしまった。 しかし、お前たちが見失うなどと・・信じられないな」
シュナイダーはつぶやくように言う。
「お館様、おそらくですがあの男のスキルか何かだと思われます。 今、他の影たちが捜索していますので、見つかるのも時間の問題かと思われます」
その報告をシュナイダーも疑うことはなかった。
影たちのレベルは28もある。
この地球上では最高位に位置しているだろうとシュナイダーは思っていた。
実際に地球人にしてみればそうだろう。
!!
そうか・・あのドワーフの武器。
そういった特殊能力を持っているのかもしれない。
シュナイダーはそんなことを考えると一人納得していた。
影はまた捜索に戻りますと告げると、その場から消えていた。
◇◇
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