第326話 さて、帰るかだが・・



「そうなのですか。 では、我々もそのギルドへ行けば、いろいろと交流ができるかもしれないのですね」

マティアスがにっこりとしながら話す。

「さぁ、わかりませんがギルド次第ですね」

俺も肩をすくめながら答える。

マティアスが続けてココに話しかけていた。

「テツさん、お連れの方ですが・・確かココさんというお名前でしたね」

ココがうなずく。

「ココさんは、異世界の方ですか?」

またしても黙ってうなずく。

みんなの目がココに集中する。

ココは別に慌てるような感じでもない。

俺なら確実に意味なく焦ってしまうだろう。

「なるほど・・ココさん、無口な方のようですが、異世界でもドワーフの武器というのはそれなりの価値があったのでしょうか」

マティアスは遠慮なく聞いていた。


ココがうなずいて答える。

「えぇ、その認識で間違っておりません。 通常の武具に何らかの心象を反映させたりと、特殊な能力を付与する力も持っていましたね」

ココが案外素直に情報を提供していた。

後で聞いたが、誰でも知っているような内容を話したそうだ。

「それは面白いですね。 やはりドワーフとの接触は必要なようですね、シュナイダーさん」

マティアスがシュナイダーに突然話題を振った。

「え、えぇ・・全くその通りですな」

シュナイダーが少し焦っていた。

少しして、シュナイダーが横を向き軽くうなずく。


どうやら、横の扉のところの女の人が合図したみたいだ。

「さて、食事も用意できたようですし、皆さん召しあがってください」

シュナイダーがそういうと、食事が運ばれてきた。

それぞれの前に、丁寧に皿が置かれていく。

こんなところで食事などしたことがない。

わからん。 

マナーなんて知らないぞ。

・・・

俺はそんなことを考えながら、適当に食事を食べて行った。

ココはものすごくスムースに食べている。 

品がある。

間違いなく、俺は一番変な食べ方だっただろうな。


食事も終わり、シュナイダーがみんなに話しかける。

「今日は予想外に楽しめました。 皆さん、ありがとうございます。 テツさんもありがとうございました」

そこで一息つき、シュナイダーは続ける。

「ところで、テツさん。 魔導国へはいつ頃出発される予定ですか?」


時間は19時30分頃になっていた。


皆が俺を見る。

「・・そうですね、特に考えていませんでしたが、この後にでも出発しようかと思います」

シュナイダーが少し目を大きくして、話してきた。

「それは、それは、また急ですな。 老婆心ながら夜の移動は危ないのではないですか」

「シュナイダーさん、食事おいしかったです。 ありがとうございました。 ただ、私の目的は魔導国の調査でして、一応これが仕事になっておりますからあまりゆっくりとできません。 それに夜の移動といっても昼間とそれほど変わらずに移動できます」

俺はついつい余計な言葉を付け加えたようだ。

「ほぅ、夜でも問題なく移動できるのですか?」

シュナイダーが少し目を細めて聞く。

俺はしまった、と思ったが落ち着いて返答する。

「え、えぇ、冒険者になってレベルを上げているうちに、夜でもよく見えるスキルが取得できたようなのです。 だから私なんかに調査依頼がきたわけですよ」

「・・ふむ、なるほど・・スキルか」

シュナイダーが顎に手を当てて少し考えている。


俺は軽く頭をかいていた。

「なるほど・・そうですな。 テツさんの仕事の邪魔をしてはいけませんな」

シュナイダーは言う。

「テツさん、またいつもで遊びにいらしてくださいね」

ソフィアが微笑みながら言葉をかけてくれた。

俺はその言葉を合図に立ち上がり、全員に挨拶をして回る。

そして、最後にシュナイダーに挨拶してお礼を言った。


皆に見送られながら部屋を出る。

廊下には、完璧な動きの執事の男がいた。

その男に案内されて、屋敷の外まで送ってもらう。

俺は振り向きもせず、シュナイダーの屋敷を後にした。

どうやら、尾行はついてきているようだが。


◇◇


テツが出て行った部屋では、シュナイダーを含め全員が話し合っていた。

「マティアスさん、どう思われました」

ハロルドが聞く。

「テツという人ですか?」

「はい」

「全然本当のことを言っていない感じですね」

マティアスが言う。


「でも、感じは良かったわよ」

アナスタシアが横から言葉を出す。

「アナ、あなたああいうのが好みなの」

「まさか、ソフィア冗談はよしてよ。 あんなアジア人、まるで子供のようだわ」

「アナスタシアさん、随分ですね」

ハロルドが言う。

「それにしても、あのドワーフにもらったとかいう武器は、一体なんなのかしら」

マルガリータが不思議そうな顔をしている。

「えぇ、私の知ってる知識では、本人しか扱えない武具というのはあるみたいですよ。 あ、これ、ゲームの話ですけどね」

マティアスが答えていた。

「シュナイダーさん、あの夜でも移動できるスキルについて追及されなかったですね」

ハロルドが聞く。

「えぇ、私の影たちも同じようなスキルを持っているようですからな」

シュナイダーは普通に答える。


「それはそうと、あの横にいたチビの女の子・・何か不気味な感じがしたわ」

アナスタシアが言う。

ソフィアもうなずきながら答える。

「そうね・・全然言葉もしゃべらないから居ることすらわからなかったわ」

「そういう能力者かもしれませんよ」

マティアスが言う。

「どういうこと?」

アナスタシアが不思議そうな顔でマティアスを見る。

「いえね、私も詳しくは知りませんけど、相手がどんな人物なのかを判断できるタイプの能力を持っているのかなと思ったのです」

「そんな能力ってあるの?」

「さぁ、私もよくわかりませんが、日本の漫画などでは登場したりしてましたよ」

マティアスの会話を聞きながらシュナイダーはうなずく。

そして話題をうまいこと切り替えていた。


「皆さん、あの男に尾行をつけていらっしゃるのですか?」

シュナイダーがニヤッとしながら話す。

「もちろんですわ、おじさま」

ソフィアが微笑んで言う。

「まぁ、我々の全員分の尾行がつけば、何かしらの情報は得られるでしょう」

シュナイダーはそう言って席を立った。

他の連中もそれぞれ席を立ち、シュナイダーに礼を言ってその場から去っていった。


まぁ、焦ることもない。

シュナイダーはそう思っていた。

ドワーフ国の近くにあの男の国との連絡所があるようだ。

それがわかっただけでもいい。

後はそこからゆっくりと進めていけばいい。

焦ることはない。

それにしても、派遣した部隊はどうなったのだろうか。

シュナイダーはフトそんなことを思っていた。


◇◇

<テツ目線>


ふぅ、疲れた。 

あんな富豪たちの食事会なんて行ったことないからな。

俺はエスペラント国を出て、魔導国へ行く振りをしている。

それにしても、タヌキの騙し合いうかバカし合いというか、どうでもいい。

とにかく、奴らはバリバリの資本主義者だ。

自分の利益だけを追求する。

他のことなんて考えてないだろう。


さて、俺の後ろに6人の尾行者がいる。

全員レベルは28だ。

俺から50メートルくらい離れてついてくる。

一気に走って引き離すか・・。


俺はそう考えてココに念話を送ってみる。

『ココ、後ろから尾行がついてきている。 一気に走ってみようと思っているんだが、君をおんぶしていい?』

『はあ? 何言ってるのよ。 走ってついて行くわよ』

ココが強い感じで答えてくる。

『ココ、無理だから。 例えば、ルナについて行けるか?』

俺はそう聞いてみた。

『・・無理ね。 でも、テツも無理でしょう?』

『そりゃそうだよ。 でも、ココと俺とではかなり違うと思うんだが・・』

俺がそう答えると、ココがつっかかってくる。

「バ、バカにしな・・」

『バカにしないでよね。 私だって結構なものよ!』

ココは口に出して話そうとしたようだが、すぐに気づいて念話に切り替えたようだ。


『ココ。 君は秘密は守れるかい?』

俺はココに尋ねる。

『もちろんよ。 審議官をなめているわね』

『そうか。 じゃあ、俺のレベルを教えるけど絶対に秘密にしてくれよ』

ココがうなずいている。

そんなココを見て俺は念話で伝えた。

『俺のレベルは42だ』

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