第319話 クラウス・シュナイダー



この街を仕切っているのは、元資産家の連中だ。

今までも国の政治をつかさどっていた連中は顔だけで、実際国を動かしていたのは資産家たちだ。

その生き残りが、逃れながら集まって来てこの集団を作っていた。

そして、異世界人が転移してきて今の状況になっている。


自分もその資産家の一人だったが、他の連中のようにだまし合い、相手を利用することしか考えていない、そんな疲れることはしんどかった。

だが、今は望めばその力が手に入る状況に近づいている。

魔法などというものがある。

だったら何も回りくどいことをしなくてもいい。

直接的に物事を進めればいいじゃないか。

先のドワーフの集落の情報を聞き、その利用価値を見出したのも私だ。

それに、その襲撃に際して計画に全員賛成しただろう。

どうせ、その後でロクでもないことをたくらんでいる連中だ。


しかし、この男は私が先に見つけたのだ。

この男から情報を引き出せれば、その力が使えるかもしれない。

まだ、他の連中まで連絡は伝わっていないだろう。

その前に私だけの情報を持っていたい。

・・・

・・

そんなことを考えながらテツを監視していた。


「動きませんね・・本当に寝てるようですが、いかがいたします?」

モニターを見ていた男が口ずさんでいた。

「・・よし、私の家に連れてくるように言ってくれ」

男はそういうとその場を後にした。


◇◇


テツのいる部屋のドアがノックされる。

コンコン・・。

「テツ様・・おられますか」

ドアの外から声がする。

俺はゆっくりと起き上がり、ココをチラっと見てドアの方まで歩いて行く。

ドアをゆっくりと開けた。


外には金髪のきれいな女の人がいた。

背丈もテツに合わせたのだろうか。

同じくらいの目線の高さの美人が派遣されてきていた。

これ以上はない営業スマイルでテツを出迎えてくれる。

「テツ様とお連れの方、私のあるじがティーブレイクにご招待したいと申しておりますが、ご一緒願えますか?」

丁寧な対応だ。

ティーブレイク? 

イギリス人か?

「そうですか、ありがとうございます」

俺はそう返事をして、ココと一緒に外へ出た。


金髪の女の人の後をついて行く。

建物を出て少し歩くようだ。

街並みは都市の街づくりといった感じだ。

碁盤目状ごばんめじょうに道が作られていて、後は近代風的な建物が立ち並んでいる。

しばらく歩くと、広い庭を持った大きな家の前に来た。

格子状の金属の扉が開かれて、敷地内に入る。

そこから建物に向かって木の並んだ道が続いていた。

少し歩いて、大きな屋敷に到着。

女の人は、笑顔を絶やすことなく俺の前を歩いている。

屋敷のドアを開け、こちらですと案内してくれた。

途中、ほとんどしゃべることもなかった。

俺が聞けば答える程度だ。

会話が続かない。

俺を完全に子ども扱いかな?

まぁ、日本人は見た目が幼いからな。

俺はそんなことを頭で思ってみたが、どうでもいい。


さて、屋敷に到着して中に入ると中世風の作りだった。

西洋人ってこういった屋敷が好きなのかな?

そんなことを思いながら、家の中を見ていた。

奥からスーツで身なりを整えた男が近寄って来る。

俺を先導してくれていた女の人に軽く挨拶すると、女の人は去っていく。

「テツ様とお連れの・・」

身なりの良い男が申し訳なさそうに言うと、ココが自分の名前を答えていた。

「失礼しました。 テツ様、ココ様、主がお迎えできずに申し訳ありません。 奥の部屋でお待ちですので、ご案内いたします。 どうぞ」

身なりの良い男は、慌てる風でもなく落ち着いた動作で俺達を案内してくれる。


俺は普通に聞いていたが、言語変換の能力って便利だよな。

自然に意思疎通できるんだから。 

受験勉強などいらないな。

そんなことを考えていると、大きな扉のところへ来て扉が開けられた。

男は黙って俺達をドアの中へ誘導。

中に入ると、ゆっくりとドアが閉じられる。


俺達の前に大きなテーブルがあり、その奥にこの屋敷の主がいた。

ゆっくりと席を立ち挨拶をしてきた。

「テツさんとココさんでしたな。 どうぞ」

そう言うと俺たちに席をすすめる。

俺たちはその指示に従い席についた。

「ご休憩中にお呼び出しして申し訳ありません。 私は、クラウス・シュナイダーと申します。 1つお伺いしたいことがありまして・・」

男はそういう。

「いえいえ、問題ないです」

俺も軽く答えてみる。


「テツさん、私は地球人ですがこの街を作っているものの一人です。 テツさんは、魔導国へ行かれるのだとか・・」

男がそう話してきた。

「えぇ、そうです」

俺も、聞かれたことだけを答える。

『ギルティ!』

ココがすかさず突っ込んでくる。 

ココ、絶対楽しんでるだろ!


部屋の横の扉が開かれて飲み物が運ばれてきた。

どうやらコーヒーのようだ。 

いい匂いがする。

シュナイダーと俺達の前にコーヒーが置かれる。

白い高級そうなコーヒーカップに入っていた。

シュナイダーが片手を差し出し、どうぞという。

俺は遠慮なくいただいた。

・・・

おいしい。

こんなコーヒー、飲んだことないぞ。

ココも一口のんで、「おいしい」と言っていた。

もう一口飲んだ。


シュナイダーが微笑みながら話してくる。

「テツさん、魔導国というのがどういったところかわかりませんが、異世界人たちの話ではあまり良い話を聞きませんね」

「そうなのですか?」

俺も普通の反応を返す。

「えぇ、私どももあまり詳しくは把握しておりませんが、人の常識が通用しないのだとか聞いております」

シュナイダーは椅子に深く腰掛けてうなずいている。


「そうなんですね・・」

俺もうなずきながら適当に答える。

「テツさん、それほど警戒なさらないでください。 こんな世界になったもので、私も情報が欲しいのです」

シュナイダーは微笑みながら言う。

さすがにこの年齢になると余裕があるようだ。

俺はそう思わされる。

「テツさんは、アニム王国というところから来られたということですが、その王国の方なのですか?」

シュナイダーはココも見て微笑んで聞いてくる。

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