第320話 ドワーフの武器が本命か
「・・いえ、私は日本人でした」
俺はこういう資産家の人たちと付き合ったことはない。
だが、正直が最善の外交なんて誰かが言ってたなと思い、そのまま話した。
シュナイダーは少し目を細めて俺を値踏みするように見つめる。
ゆっくり微笑みながらうなずく。
「なるほど・・そうですか、それはご苦労されましたね」
そう話しながら続ける。
「テツさん、その腰に下げてる武器ですが、ドワーフの方からもらったものだとか・・」
シュナイダーは言う。
なるほど、これが目当てか。
「えぇ、そうです。 アニム王国にドワーフのお店が出来まして・・私は、たまたま交流記念だとかで、幸運にも手にすることが出来たのです」
ちょっと苦しかったか・・だが、そう答えるより仕方ない。
どうも、このおっさん本当のことを言ってないような気がする。
「ドワーフのお店ですか・・いえ、私は珍しいものが好きなのですよ。 何でも、テツさんの武器は誰もが持ち上げることができなかったのだとか・・」
シュナイダーはそういうと、少し前のめりになって話してきた。
こいつ、いきなり直球か?
やっかいなやつだな。
「えぇ、私専用の武器だとかでいただきました。 どうですか、お持ちになってみます?」
俺はそう聞いてみる。
シュナイダーはものすごくうれしそうな顔をした。
俺は席を立ち、飛燕を持ってシュナイダーの方へ歩いて行く。
ゆっくりとシュナイダーの机の上に置いた。
机の上に置くときには、普通にものを置く感じだ。
自然と存在しているだけでは、ほとんど重さも見た目通りなんだろうなと思う。
シュナイダーは飛燕に軽く触れ、持ち上げようとする。
・・・・
当然、動くはずもない。
!
するとシュナイダーが席を立った。
両手で上げようと試みる。
・・・・
・・
はぁ、はぁ、はぁ・・。
「テツさん、これはいったい何でできているのですか?」
シュナイダーが聞いてくる。
「いえ、私にもわからないのです、そこら・・」
えへん。
咳払いをする。
俺は、思わず素材はそこら辺にあるものだと言いそうになった。
そんなことがわかれば余計に執着するだろう。
ヤバいな。
このおっさん、相手を安心させるスキルでも持っているのか?
「そうですか、私はまた特別な素材でも使っているのかと思いましたが・・」
シュナイダーが片手を顎に当てながら残念そうにつぶやく。
「シュナイダーさん、すみませんね」
「いえいえ、私が勝手に思っただけですから。 お気になさらずに」
俺は飛燕を持って元の位置に戻した。
その動作を見て改めてシュナイダーが感心したようだ。
「テツさん、その武器ですがとても軽そうに扱われますね。 不思議です」
シュナイダーは言う。
「そうですね、私専用の武器ということですから・・」
俺も同じフレーズを繰り返す。
「なるほど、セキュリティ的にもその人の何か特定のものにしか反応しないとか、そういう制限をかけてあるのかもしれないということですかな?」
シュナイダーは一人つぶやきながら考えていた。
このおっさん、賢い。
つぶやきながら俺の反応を見ている。
俺は、こういった駆け引きの現場は経験したことがない。
まとわりつくような緊張感、それを楽しめる奴もいるのだろうが、俺ではないな。
「テツさん、我々も、そのドワーフとかと取引ができますでしょうか?」
シュナイダーがいきなり俺に聞いてくる。
「取引・・ですか?」
このおっさん、いったい何を言っているんだ?
「えぇ、テツさんの持たれている武器を拝見して確信しました。 特殊な能力というのは安全度を高めます。 我々人間の立場を強化できると考えます。 アニム王国に行ければドワーフのお店なども利用できるのでしょうか?」
シュナイダーが聞く。
「さぁ、私にはわかりません。 ですが、ギルドなどが調整してくれるのではないですか?」
俺もわかる範囲で答えてみる。
どうも、相手のペースで話が運ばれる。
「なるほど・・わかりました。 ありがとうございます。 しかし、テツさんは慎重な方のようですな」
シュナイダーは微笑みながら言う。
「・・・」
「いえ、警戒なさらないでください・・という方が無理ですな。 ですが、我々もこれからこの世界で生きて行かなければなりません。 ですからいろんな情報を集めておきたいのです。 それに、こういった国らしきものもできてしまいました。 普通に暮らしている人たちに、今までの生活を提供する義務も、我々運営側が負うべきものだと考えております」
シュナイダーは話す。
「わかりました。 テツさん、少しの間でしたがありがとうございました」
シュナイダーが席を立ち片手を出してきた。
俺たちは握手をする。
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