第292話 北米にて



北米が魔物襲撃を受けてしばらくした時のこと。


どこかのリゾート地の高級ホテルのような一室。

その中でゆっくりとくつろげるが、身体に対しては大きすぎる椅子に座り、足を組み肘掛けに右肘を置き、顎に触れながら座っている人がいる。

黒く輝く髪がゆっくりと揺れる。

その雰囲気は王の感じを受けるが、見た目は間違いなく少年に見える。

自分の前に来た女の人を、その緑の瞳で見つめていた。

テツが見たら驚いただろう。 

ルナにも劣らない美人。

あおく長い髪、緑の瞳。 

身体はやや細みだが、出るところは出ていて、抜群のプロポーションを持っているようだ。


黒髪の少年と蒼く長い髪の女性。

それと正対した位置に男2人と金髪の女性1人がいる。


「魔王様、我々の居住区域の基本はほぼ完成したところです」

とても愛おしそうな眼差しで見つめ、魔王と呼ばれる男の子に報告をしていた。

「そうですか。 ネイト、ご苦労様でした。 後は周辺の状況ですが、どんな具合なのでしょう?」

黒く輝く髪をなびかせて顔を前に向ける。

金色の髪の女の人の横、がっしりとした男が答える。


「はい、外は魔物があふれております。 それに不思議なのですが、魔素を含まない建造物や機械類が多くありました」

魔王はその報告を受けると、ピクッと目を動かしたが落ち着いて答える。

「魔素を含まない・・なるほど・・」

そして、続けて言う。

「ウラガン、光のたみは確認できましたか?」

「・・いえ、目を放って確認しておりますが、未だに判明しておりません」

「そうですか・・」

魔王はゆっくりとうなずく。


「それにしても、この魔素の乱れ用はひどいものですね・・」

魔王は、金色の髪の女の人を見ながら言う。

「はい、とても気持ち悪い感じです」

女の人は目を閉じてうなずきながら答えていた。


「シーバルバ、我々のところにもダンジョンが必要でしょう。 頼めますか?」

「ハッ、お任せを」

シーバルバと呼ばれた、がっしりとした男はクルッときびすを返し、魔王の前から立ち去っていく。


シーバルバと交代で入ってきた男がいた。

ゆっくりと魔王の前まで歩いて来ると、一礼をして報告を始める。

「魔王様、この世界の大まかな地図が完成しました」

男はそういうと、魔王の前に球体に光るホログラムのようなものを出した。

魔王も立ち上がり、その球体の近くへと歩いて行く。

「・・これが我々が転移した星・・」

魔王はそうつぶやきつつ、その球体を見つめている。


かなり精密に地球が模されている。

「魔王様、今我々魔族がいる場所がこちらになります」

男はそういうと、北米の中央辺りが赤く光った。

魔王がうなずくと、次々と地形が表示されていく。

「大まかな分布ですが、ここが精霊族と判明しております。 他はまだわかりません」

魔王は球体を見ながら口を開き、優しく問う。

「イツァム、この星は水が多いようですが、海神の種族はいないのだろうか?」

「申し訳ありません、魔王様。 まだそこまでは把握しておりません」

「そうですか・・」

魔王はしばらく球体を見ていたが、自分の席に帰っていく。


魔王達が会話していると、入り口のドアがバタン! と、力強く音を立て、ズカズカと迫って来る長身の男がいた。

魔王の前までやってくると、目を閉じ一呼吸おいて話し始める。

「アレス様、俺はここを出て外で暮らしますよ。 今までお世話になりました」

そういうと、魔王に背中を向けて立ち去ろうとする。

「ゲブ! 貴様よくもそんなことを・・」

金色に光る髪とともに、声を大きくして女の人が言う。

「ゼグメドの姉さんよ、俺はアレス王に忠誠は誓っているが、子供のアレス様とは何の関係もねぇ」

「き、貴様!! アレス様は、皆を転移させるためにご自身の魔力を費やされて・・・」

ゼグメドと呼ばれる金髪の女の人が反論していると、アレス王が言葉をさえぎる。

「よい、ゼグメドよ。 今までご苦労様でした、ゲブ。 外の空気が合わなかったら、いつでも帰ってきてくださいね」

ゲブは魔王の言葉を背中で聞き、かすかに震えていた。

そして、振り返ることなく王の前から去っていく。


「ゲブのやつ、これから異世界で大変だというのに・・」

ゼグメドはゲブのいたところをにらんでいた。

「ゼグメド。 ゲブにはゲブの考えがあるのです。 それでよいではありませんか。 それに事実、私の記憶にあいまいな部分があります。 わかってはいるのですが、どうも子供のような思考になっている感じがします」

「しかしですね・・いえ、わかりました」

ゼグメドはそれ以上は言わなかった。


「さて、とりあえずは我々の居住区域の安全確保をお願いします」

「「「ハッ」」」

魔王の言葉に皆が答え、それぞれの仕事にとりかかった。


◇◇


ニューヨークが襲撃を受け、しばらく時間が経過していた。

街はもはや壊滅と呼べるだろう。

逃げ惑う人々もほとんどいない。

上空をガーゴイル、その上をワイバーンが飛び交っていた。

地上はオークやオーガ、バジリスクなどが歩いている。

遠くにはサイクロプスかトロウルだろうか、大きな影が動いていた。


治安出動した警察や軍がいたが、何もできなかった。

兵器は役に立たない。

そのうち、戦車や戦闘機などは動かなくなる。


ビルの瓦礫がれきの陰でひっそりと隠れている男がいる。

震えていた。

時間は5時頃だろう。

アニム王国の住人が転移してきたくらいの頃だろうか。

『なんなんだ、いったい? 映画の撮影でも、テロでもない。 見たこともない化物が街を徘徊、破壊している。 地獄のふたでも開いたのか? もしかして、これが最後の審判というやつなのか?』

男はそんなことを考えながら動かないでジッとしている。

ズゥーン・・・。

男は小さな振動を感じた。

その振動がだんだんと大きくなってくる。

男はゆっくりと辺りを見渡してみる。

何もいない。 

瓦礫がれきの隙間から見てみると・・見えた。

!!

大きさは5メートルくらいあるだろうか。

オーガが歩いていた。

男は震えながら、、身体をできるだけ小さくし息を殺して動かずにいた。


振動が大きくなってきたが、突然振動が消えた。

・・・

なんだ?

男は違和感を感じたが、怖くて目が開けられない。

・・・

ソッと目を開けてみると、目の前にオーガの顔が見えた。

!!!

反射的に身体が硬直する。

声は出ない!!

「・・あわ・・わわ・・」

男は動けずにオーガを見ていた。

オーガはうれしそうにニヤ~とすると、ゆっくりと手を伸ばして男をつかむ。

そのまま自分の口の方へ運び、食べようとした。


ボン!!!

オーガの顔が吹き飛ぶ。

男はオーガにつかまれたまま、オーガと一緒にその場に横倒しになった。

地面に背中を打ち付けて、一瞬息が止まるがどうやら助かったことはわかった。

「・・ック!! かはぁ・・」

い、息ができない。

男がそう思っていると、オーガが蒸発していく。

男は今まで目の前にいた大きな生物が消えたのに驚き、夢かと思った。

すると、声が聞こえる。

「そこのあなた、大丈夫でしたか?」

男は声の方を見る。

動きやすそうなカジュアルな服を着た、黒髪の女の人がスタスタと近寄ってくる。

男は言葉にはできないが、まるで天使が来たかのように感じていた。

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