第291話 アニム王への報告


さて、どう報告したものか。

俺は椅子にもたれながら考えていた。

まさか、クイーンバハムートと知り合いになりました・・なんて、言えないだろう。

アニム王は受け入れてくれるかもしれない。

ただ、周りはそうは思わないのではないか?

異世界人の俺が変な力を持ちつつある。

警戒するだろう。

だが、何もなかったとも言えない。

もしかしたら、審議官みたいな人が俺の嘘を見破るかもしれない。

・・・・

う~ん、困ったなぁ。

・・・

・・

そんなことを考えていたら、どうやら寝ていたようだ。


「間もなく帝都に到着します」

ん?

飛行船のアナウンスで起こされた。

俺って・・結構いい加減?

まさか普通に寝れるとはな。

さて、深く考えてもわからない。

とりあえず、アニム王にだけは正直に報告しよう。

後はそれからだな。


飛行船が帝都に到着。

時間は4時前。

発着場にはそれほど人は多くいない。

飛行船の入口が開き、外へ出てみる。

エレンさんがいた。

「お帰りなさい、テツ様」

深くお辞儀をして、出迎えてくれた。

「あ、エレンさん・・どうしてここに・・」

俺は不思議に思った。

聞けば、飛行船が帝都に近づいてくるとわかるみたいだ。

発着場や昇降装置のところのパネルに飛行経路や状況などが表示されるという。

なるほど。


「テツ様、お疲れ様でした」

エレンさんはそれだけ言うと、俺に連れ添って歩いてくれる。

さすがだな。

余計なことは一切聞かない。

俺は感心してしまった。

「エレンさん」

「はい」

「朝の時間で早いのですが、アニム王に会いに行けますでしょうか?」

俺はエレンさんに聞いてみる。

「問題ありません。 飛行船の接近に伴ってすでに王様には報告しております」

エレンさんは丁寧に答えてくれた。

「あっ、そう・・ですか」

なんか複雑だな。

管理されてるわけじゃないだろうが、行き届き過ぎてるのもなぁ。

ま、いっか。


俺たちは昇降装置に乗る。

移動中に少し会話し、エレンさんに俺は謝意を伝える。

「では、今からアニム王へ報告に行ってみます」

エレンさん微笑みながらうなずき、ギルドの入口まで見送ってくれる。

俺はギルドを出て王宮へ向かう。

こんな朝早い時間だというのに歩いている人はいる。

散歩か?

王宮に到着すると係の人が出迎えていてくれた。

さすがだな。

「テツ様、お疲れ様でした。 どうぞこちらです」

そういうと、俺を案内してくれる。


王宮内を歩いて行くと、いつもの場所と違う。

会議室の方でも、広間でもない。

係の人が一つの小さなドアをノックして開ける。

「王様、テツ様をお連れ致しました」

そういうと、ドアを閉めて退出していく。

係の人に軽く手を挙げ、アニム王は俺を見る。

「おはよう、テツ。 そして、ありがとう」

アニム王は丁寧に俺をねぎらってくれた。

俺は、その時にはっきりと決めた。

アニム王だけには、すべてを正直に話そうと。


俺も挨拶をして、アニム王に近づいて行く。

席に座るようにうながされて席についた。

アニム王を見て、俺はまず言ってみた。

「アニム王、この部屋ですが・・会話がれることはありますか?」

アニム王は少し目を大きくしながら返答する。

「その心配はないよ。 私の書斎だからね」

俺はうなずいて話始めた。

「アニム王、実はクイーンバハムートと接触することができました・・」

俺はそう言って、南極で起こったことをすべて話した。


クイーンバハムートに名付をしたこと。

それによって、顕現けんげんさせてしまったこと。

また、どの国とも干渉はしないなど。

・・・・・・

・・・・

「なるほど・・」

アニム王は静かに答え、目線を下に落として考えていた。

「ふむ・・ゼロか。 う~ん・・」

俺は、その沈黙に耐えられずに先に話してみた。

「アニム王、もしかして俺ってとんでもないことをしましたか?」

「うん」

アニム王は迷わずに答える。


「え? 」

「あはは・・冗談だよ、テツ」

俺は一瞬、時間が止まったと思った。

「まぁ、冗談とも言えないが、仕方ないだろう。 ゼロがそれを望んだのだから」

アニム王が真剣な表情を浮かべ、続けて言う。

「でも、テツ。 これは、君と私だけの話にしておいた方がいいね」

アニム王の言葉に俺もゆっくりとうなずいた。


「そうだねぇ・・クイーンバハムートに祈りを捧げたら、何やら良い感じが得られたってところでいいんじゃないかな?」

アニム王が片目を閉じて、微笑みながら言ってくれる。

アニム王、あんた軽いな!

「テツ、とにかく本当にありがとう。 ゆっくりと休んでくれたまえ」

アニム王は優しくねぎらいの言葉をかけてくれる。

「い、いえ・・こちらこそ、何やら、とんでもないことをしてしまったようで・・」

俺は本当に心苦しかった。

「テツ、本当にそれは気にしないでいいと思うよ。 それがゼロの望みだったのだから。 本当にありがとう」

アニム王は優しく微笑んでくれる。


俺はその後、王宮を後にして家に帰っていった。


◇◇

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