第290話 コンステレーション


「ゼロ・・私は、とんでもないことをしたんじゃないのでしょうか」

「テツ、それは違うよ。 ボクがそれを望んだんだよ」

ゼロが軽く首を振りそう言った。

「誰もボクを認識できなかった。 ボクも相手を感じとれなかった。 だが、君が来た。 君に触れられた時に、どこかで願ったと思うんだ」

ゼロは微笑む。


「ま、とにかく、これからよろしく、テツ」

か、軽いなゼロ。

ゼロは微笑みながら握手を求めてきた。

俺はうなずきながらグッと握手をし、もう一つの手を添えて両手でゼロの手を握った。

ゼロは目を大きくして俺を見つめる。

「テツ・・何か、うれしい気持ちになるね」

ゼロも同じように両手で握ってくれた。


◇◇

<帝都>


帝都では、ミランがアニム王のところに行っていた。

アニム王と2人で会っている。


「王様、テツ君ですが・・」

ミランが話しかけていた。

アニム王がうなずきながら答える。

「ミラン、大丈夫だと思うよ。 テツは、不思議な人物だ」

ミランもうなずく。


「人として完成度が高いかと思うと、欠けているような感じも受ける。 それでいてまとまっている、そんな感じだね」

アニム王の言葉にミランがうなずく。

「何かが欠けている・・妙に説得力のある言葉ですね」

ミランは顎に手を当てながら答えていた。

「その欠けたところに、人というパーツがはまっていくのかもしれない。 いや、人だけじゃない。 ルナやフレイア、種族を超えているように思うんだ」

アニム王はミランに語るようでもあり、独り言のようにつぶやく。

ミランも目と閉じてゆっくりとうなずいていた。


◇◇

<ゼロの居城>


「テツ、君はもう帰るのかい?」

ゼロがまっすぐに俺を見る。

「はい、そうなると思います」

俺は素直に答えた。

「そうか・・」

ゼロは軽くうなずく。

「ゼロはこれからどうするのです?」

俺は聞いてみた。


ゼロは笑いながら答える。

「あはは・・わからないよ、今から始まるんだからね。 ただ、世界事象には干渉しない方が・・いや、すでに存在してしまったのだから、干渉はしていると思うよ。 だが、積極的にすることはないだろうね」

・・・

俺はゼロの言葉を聞きながら、何か喉のところに引っかかる感じがした。

少しその答えを探っていると、フト頭に言葉が浮かぶ。

「なるほど、コンステレーションか・・」

俺の口から自然と言葉が出ていた。

「? なんだい、そのコンステレーションというのは・・」

ゼロが聞いてきた。

「いえ、私も詳しくは理解していないのですが・・」

俺はそう言ってわかっている範囲で説明した。


コンステレーション。

星座の配置図の比喩表現と受け取っている。

自分の存在を一つの星にたとえて、すべての人や生命体がそれぞれの星になる。

そして、無意味な存在のようで、見方によっては星座として成り立っている。

つながっていないようで、すべてがつながっている。

無駄なものなど存在しない。

そして、自分に起こる事象も、関係ないようなところでどこかでつながっている。

そんなものだったと思う。

そんな中に、新しい星『ゼロ』が生まれたんだということを説明した。

・・・・・

・・・

「なるほど・・ボクもその星になったわけだね」

ゼロは微笑みながら話していた。


ゼロを見る限り、寂しそうな感じはない。

・・

俺はそれを確認すると立ち上がる。

それに、いつまでもいるわけにはいかない。

「ゼロ・・私はそろそろ帰ります」

「そうかい。 テツ、ありがとう」

ゼロはそういうと、俺たちはまた握手を交わした。

「こちらこそ、ありがとうございます」

俺はゆっくりと歩き出す。

ゼロが城壁のところまで見送ってくれた。

城門をくぐると、すぐに吹雪でゼロの姿は見えなくなった。

俺は何度か振り返りつつも、来た道を戻って行く。


クイーンバハムート。

俺にとっては普通の人? 子供? という感じだった。

威圧的でもなく、陰謀家でもなく、ただ素直に接してくる。

あまりにもド直球なので、困ってしまうくらいだ。

ただ・・俺の行動が、クイーンバハムートを顕現けんげんさせてしまった。

良いのか、悪いのか・・全くわからない。

そういった判断基準を超えている。


俺がいなくても、そのうちそうなったとも思えるし、ならなかったかもしれない。

・・・・

答えはない。

だが、答えが出るようなものでもないだろう。

常に心にとどめておく。

それが大事なんじゃないかとも思える。

大事なことって、そういうものだろう。

人の意識によってわかるものじゃないと思う。

今の年齢の俺なら感じることができる。

『偶然』というものの存在。

だからこその、このタイミングの俺だったのか?

いや、それは俺の傲慢だろう。

わからない。

・・・・

俺はそんなことを考えながら、ギルドの建物に到着した。


時間は1時を過ぎている。

中に入って、飛行船に近づく。

ふぅ・・何て説明しようかな。

そう思いながら、俺は飛行船に乗った。


飛行船の入口が静かに閉まる。

俺は席につき、目を閉じた。

飛行船がゆっくりと上昇し、帝都へと向かう。

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