第289話 絶対零度。 アブソリュート・ゼロ・・そうゼロだ!
「名前かぁ・・」
クイーンバハムートがつぶやく。
「はい、名前です。 私はテツといいます。 よろしくお願いします」
そう言って俺は手を出した。
クイーンバハムートは、何? って感じで俺を見る。
・・・・
これは握手をして欲しいという合図ですと俺は微笑む。
こうやって、相手が手を出したら相手と同じ側の手を出して・・握手の仕方を教える。
そうやって、クイーンバハムートと握手をした。
ほんとに、子供の手だな。
クイーンバハムートは喜んでいた。
「握手か・・いいものだね。 でも、君しかできないだろうね」
あ・・そうか。
なるほど。
俺はそう思って、もう一度握手をする。
クイーンバハムートはニコニコしながら握手をしてくれた。
「テツ」
「はい」
「テツ・・」
「はい」
「なるほど・・名前かぁ」
クイーンバハムートは考えているようだ。
「テツ」
「はい」
「君は、どんな名前がいいと思う?」
クイーンバハムートが聞いてきた。
「? 名前・・ですか?」
俺は、何を言っているのか完全には把握しかねた。
もしかして・・。
「うん、そう名前だ」
クイーンバハムートは、腕を組んで真剣に考えている。
・・・・
「テツ、君なら何て呼ぶ?」
「誰をですか?」
俺は
「もちろん、ボクの名前だよ」
そうでしょうね。
いったい、何の罰ゲームですか?
俺に名付け親になれというのですか?
人間ですけど。
俺は少し考える振りをしながら答える。
「難しい・・ですね」
「難しい・・」
クイーンバハムートがつぶやく。
!!
いや、違うから!!
それ、名前じゃないから!!
「い、いえ、それは名前じゃないです! 私があなたを呼ぶ名前ですよね?」
俺は
「うん」
クイーンバハムートは無邪気にうなずく。
俺は今度は真剣に考えてみた。
「テツ、直感でいいんだ。 ボクを見て、何を思う?」
かわいいです。
でも、その圧力は普通じゃないです。
心の声です、はい。
う~ん・・初めに浮かんだのは『ソル』だ。
確か太陽のイメージじゃなかったっけ?
しかし、それは俺の勝手なイメージだ。
この子いや違った、クイーンバハムートを見るとそれはないと思う。
白く、透き通っている感じ。
そして、この氷の場所・・。
・・・・
・・・
絶対零度。
!!
アブソリュート・ゼロ。
そう、『ゼロ』。
クイーンバハムートは、どの国とも干渉しない。
ゼロという言葉がふさわしいように感じる。
すべての始まりにして、存在がつかめないもの。
「ゼロ・・」
俺がそうつぶやくと、クイーンバハムートがピクッとした。
「ゼロ・・か・・」
・・・・・
・・
クイーンバハムートは顎に手を当てて少し考えていたかと思うと、大きくうなずいた。
「うん、ゼロだ! テツ、今日からボクはゼロだ」
クイーンバハムートはうれしそうに歩き回っていた。
・・・
なんか俺、とんでもないことをしたような気がする。
いいのかな?
いや、いいのかっていうか・・どうしようもないな。
う~ん・・わからん。
「テツ、ちょっと呼んでみてよ」
クイーンバハムートは言う。
「え?」
クイーンバハムートは、ソワソワ、ウキウキしながら俺を見つめている。
かわいいな。
しかし、
「ゼ、ゼロ・・」
かなり緊張するのですが。
「ん? 何?」
ゼロが首を
・・・・
「ゼロ!」
俺も少し声を大きくして言ってみた。
ゼロは、うんうんとうなずきながら、
「ん~、何?」
パッチリと目を開けて俺を見る。
あの・・何のプレイですか、これは?
「テツぅ~、もっと!」
ゼロはにっこりとして、要求してくる。
あのね・・。
「ゼ・ロ」
「は~い!」
ゼロは元気よく返事をしていた。
ふぅ、かなり疲れるんですけど。
「ゼロ」
戦闘ではない疲れだな。
「何?」
「私が、本当に名前なんて付けてよかったのでしょうか?」
俺は取り返しのつかないことをしてしまった気がする。
「何言ってるんだよ、テツ。 いい名前じゃないか。 ボクにぴったりだよ。 こちらこそお礼を言いたいよ」
ゼロは喜んでいる。
だがなぁ・・いや、もう考えても仕方ない。
「それにテツ、これでボクは今から始まるんだ」
ゼロが軽く言う。
「え? 何が・・ですか?」
俺の口から思わず言葉が出ていた。
俺はゼロが何を言っているのかわからなかった。
「時間だよ」
「時間?」
俺はオウム返しでつぶやく。
「そう、時間だ。 今までは、ボクの存在は確定してなかったんだ。 いや、存在はしているが起点がないものだったんだ。 それがこの瞬間に成り立ったんだ。 うれしいんだ」
「・・・・・・」
俺はただ聞いていた。
ちょっと難しい、そしてとんでもないことをしたような喪失感がどこかにある。
「テツ、これでボクは有限の存在になったと思うよ」
ゼロはうれしそうに話している。
「ゼロ・・それって・・」
俺はどんな顔をしていただろう。
とても不安そうな申し訳ないような、そんな顔をしていただろうか。
そんな俺を見て、ゼロは言う。
「テツ、気にすることはないよ。 命あるものは必ず消える。 そして、また違う命の
「無から時間が生まれ、また無へと戻る。 そういうものだろう。 ボクの終わりに何があるか知らないが、それを知ることができるようになったんだ。 今はそれを喜びたいと思うよ」
ゼロはニコニコしながら話してくれた。
俺には事象が違い過ぎて理解できない。
ただ、『とんでもないことをした』ということだけは理解できた。
俺的な理解としては、例えば宇宙を創る、その瞬間に立ち会ったようなものだろうか。
クイーンバハムートを有限の存在に変えてしまった。
つまり、時間のない存在に、時間を与えてしまったのだ。
ビッグバンを起こした感じ・・いや、違うか。
ビッグバンは、西洋思想の考え方だったな。
それは、直線的だ。
そうではなくて、
うまく表現できないな。
とにかく、やってはいけないことをやってしまった感じがある。
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