第288話  クイーンバハムートという存在


クイーンバハムートは、その存在を自分自身もよくわからないという。

気が付いたらそこに居たそうだ。

何か、宇宙の始まりみたいなことを言っているな。

ただ、自分のいる世界のどの国とも、その成り行きに干渉はしないということだけはわかっている。

存在意義とか理由などはわからないし、知る必要もない。

わかっているのは、自分というものが存在するということだけ。

だが、他者からは認識されにくい。

何故なのかわからない。

自分という意思はあるのに、本当に存在しているのかわからない時も多々あったらしい。

そんな時間というか世界がずっと続いていたという。

不思議と寂しさとかは感じなかったみたいだ。

そんな時、前の世界が滅んで新しい世界に転移。

それは別にどうでもいいらしい。

どうでもいいのかよ!

ただ、この場所でいるだけだ。


そうするとフト俺が現れたという。

いつも通りにその人の周りに来て見ていると、どうもこちらを見ているような感じがする。

試しに触れてみると、触れられる。

驚いたそうだ。

それで、軽く触れてみると吹き飛んだという。

さらに驚いたみたいだ。

うれしくなり、もう一度軽く触れてみると、またも吹き飛ぶ。

軽く・・ね。

・・・

それで、相手が気を失ったので回復させて今の状態みたいだ。


クイーンバハムートは、相手が認識しないと触れることができるとかできないとかなんとか。

まるで量子力学の講義を聞いてるみたいだぞ。

わからない。

とにかく、俺の目の前にいるんだ。

それでいいだろ。

あまり深く考えると、おかしくなりそうだ。


「そうなのか。 じゃあ、俺が触れられた人間だったわけだ」

!!

俺はピンと背筋を伸ばして、タメ口だったのをおびした。

どう考えても失礼だろ。

「あはは・・そんなことはどうでもいいよ。 でも、触れられたのがうれしくてね」

クイーンバハムートは座った姿勢で、足をブラブラさせていた。

見た目はほんとにかわいい子共なんだがな。

美少年?

美少女?

どちらにも見える。


俺がそんなことを考えながら見ていると、

「ねぇ、君さぁ、ここで一緒にいようよ」

足をブラブラさせ、ニコニコしながら話してくる。

・・・・

俺は背中が寒くなった。

このパターンって、絶対ヤバいパターンだよな。

返答を間違えると即死する。

そういうワンシーンだ。


俺は言葉が出ない。


クイーンバハムートは、ニコニコしながら俺を見つめている。

・・・

どうしよう・・こんなにうれしそうにしてくれている。

だが、俺は人だ。

すべてが違うだろう。


俺は目を閉じて考えてみた。

もし可能性があるとするなら、友達という設定だけだ。

だがなぁ・・干渉しないんだろ?

・・・

いや、国に干渉しないと言っただけで、人に干渉しないとは言ってない・・って、言葉遊びだな。

それに、一言でどうなるかわからない。


だが、恐れてはいけないだろう。

それは信頼を失う。

現に俺は生きている。

あれだけダメージを与えられるんだ。

いつでも命を奪うことができるだろう。

いや、そもそも命って何かわからないのかもしれない。

う~ん・・違うか。

・・・

俺には、答えが出せなかった。


俺はゆっくりと目を開けて、相手を見ようとする。

クイーンバハムートが目の前にいた。

「うわぁ!!」

俺は驚いてしまった。

「キャハハハ・・」

無邪気に笑っている。

そして、俺の近くに腰かけて話してきた。

「君は、いろいろ考えるんだね? 簡単にここに居られないといえばいいんだよ。 それを何を遠慮してるのか。 もしかして、それを優しさというんじゃないだろうね?」

クイーンバハムートが無邪気に笑いながら話す。

俺は苦笑にがわらいしかできなかった。

そして、苦しく感じる。

ジッとクイーンバハムートは俺を見つめていた。

「ボクはただ、君に触れられたというのが本当にうれしかったんだ。 それだけだよ・・ボクは、どの国にも干渉はしない」

クイーンバハムートはそういうと立ち上がり、ゆっくりと右に行ったり左に行ったりして舞うように歩いていた。


「クイーンバハムートさん・・何ていうのか、確かに、私はここで暮らすことはできません」

俺はそう言葉を切り出した。

クイーンバハムートは微笑みながら聞いてくれている。

「ですが、あなたが嫌でなければ、たまに遊びに来させてもらってもいいですか?」

俺にはその言葉を言うので精一杯だった。

いったい、こんな存在にどう接していいのかわからない。

即答するには、あまりにも巨大すぎる問題。

時間というのをモノサシにすると、点と無限。

話にならない。

そんな存在が、一瞬でも一緒に過ごそうなんて言ってくれた。

その言葉が重すぎる。


クイーンバハムートはにっこりと笑い答える。

「もちろんだ」

俺は複雑な気持ちだ。

うれしいというのはある。

だが、申し訳ないというのもある。

そして、おそれ多いというのもある。

「あ!」

俺は思わず言葉を漏らす。

クイーンバハムートが俺を見た。

「そういえば、私の名前を言ってませんでしたね」

俺がそういうと、クイーンバハムートが凝視する。

「あの・・緊張するのですが・・」

俺は思わず言ってしまった。

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