第287話 クイーンバハムート


子どもが俺の前に来てしゃがみ込む。


壁にうずもれた俺を見て、にっこりと笑った。

「ねぇ、君ってボクのこと見えてるの?」

俺はうすれゆく意識の中で、かろうじて返事ができたと思う。

言葉を出す力はなく、子供を見つめながら首をゆっくりと縦に動かした。

そこまでしか記憶がない。

・・・・・

・・・

目を開けると、白い天井が見える。

!!

これって、異世界転生ものの・・っていうか、確か白い子供に吹き飛ばされたと思ったんだが。

そんなことを思っていると、俺をのぞき込む人がいる。

俺にデコピンをした子共だ。

!!

「うわぁ!」

どうやら死んではいなかったようだ。


時間は21時を過ぎていた。

「気がついたね。 身体も回復しているはずだから」

白い服を着た子供がそういいながら、ニコニコして俺を見ている。

バッと身体を起こして俺は身体を確認したが、どこも怪我はしていない。

いったい、なんだったんだ?

俺はわけがわからなかった。

・・・

俺は子供を見つめている。


「君、ボクのことが見えているんだね」

「え、あぁ・・見えている」

俺はうなずきながら答えた。

「あはは・・そうおびえなくてもいいよ。 何もしないから」

子供はうれしそうにいう。

嘘つけ!

いきなり俺を吹き飛ばしただろ!

心の声です、はい。


俺が見つめていると、その子供が聞く。

「で、君は一体ここに何しに来たの?」

「俺、いや私はクイーンバハムートに会いに来たのです」

俺はそう答える。

「ふぅん・・そうなんだ。 で、会ってどうするの?」

子どもは、なおも聞いてくる。

「私のいるアニム王国と、不干渉交渉をお願いしに来たのです」

俺は要点のみを伝える。

「そうなんだ。 まぁ、どことも干渉しないけどね」

子どもがそう答える。

・・・

おかしいぞ。

こんな南極に子供がいるのが、まずおかしい。

やはり、この子が・・まさかな。

クイーンバハムートって、古龍だったよな?

俺はマジマジと子供を見つめる。


「どうしたんだよ。 そんなに見つめて・・うれしいじゃないか!!」

子どもが飛びついてきた。

俺もいきなり子供が飛びついてきたので、凛や颯のように抱っこした。

ついでに頭もなでなでしてしまった。

癖だな。

子どもをゆっくりと俺の横へ座らせると、こちらを向いて笑顔で話してくる。

「ようこそ、ボクの城へ」

!!

やっぱりか!

この子がクイーンバハムート!


「あの・・あなたがクイーンバハムート・・さんですか?」

俺はおそるおそる聞いた。

「あぁ、そう呼ばれているね。 名前は特にないよ」

クイーンバハムートはそう答える。

俺はただ見つめていた。

・・・

「いやだなぁ・・そんなに見つめられるなんて。 ほんとにうれしいじゃないか!」

そういうと、また俺に飛びついてきた。

俺は素直に抱っこして、俺の横に丁寧に降ろす。

・・・

「あのね、いきなり飛びついてくると、変なおじさんなら勘違いするでしょ」

とりあえず、俺は常識的な回答をしてみる。


「君は、変なおじさんなの?」

「う~ん・・」

俺は返答に困った。

どうなんだろう・・そう言われると、自信がない。

っていうか、そういうところじゃないだろ!

俺は慌てて考えるのをやめて答える。

「いやいや、変なおじさんじゃないですけど、いきなり抱きつかれたらびっくりするでしょ」

「そうかぁ、それは驚かせてしまったね。 ごめん」

クイーンバハムートは素直に謝っている。

なんか、俺が悪いことをしたみたいだな。

「い、いや、そんな謝ることじゃないんだが・・」

俺がつぶやくように言うと、クイーンバハムートは笑顔で答えてくれる。

「でもさぁ、今までもいろんな人が来たけど、誰もボクを認識できないんだよ」


え?

俺は言葉を失った。

・・・・

クイーンバハムートが話してくれた。

今までの世界でも、いろんな人が訪れたそうだ。

城壁の門から入って、神殿や居城などのクイーンバハムートのいる場所へ近づいてくる。

いつも、城壁から歩いてくる人たちの周りを一緒に歩いたりウロウロしたりしても、誰も気づかない。

祈りを捧げたり、ブツブツ一人で語ったりして我々と干渉しないようにお願いしますとか何とか。

いいよってボクが言っても答えてくれない。

でも、何かそういう雰囲気は伝わるようだった。

見えなくても、その圧力というか感じがわかる人たちがいたようだ。


おそらく神官たちなんだろうと俺は思って聞いていた。

そういったことがどの時代にもあったそうだ。

同じようなことが繰り返されて、どれくらいの時間が流れたのだろう。 

本人もよくわからないという。

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