第293話 て、天使か?



「危ないところでしたわね。 あなたもう少しで食べられるところでしたわよ。 それにしても、魔物に対して油断し過ぎじゃなくて?」

女の人はそう言いながら自分の後ろを振り向く。


「レア様、あまり無茶をされませぬように」

緑の髪をポニーテールにして、左右に揺らしながら駆け寄ってくる。

「失礼ですわね。 しかし、今にも食べられそうになっていたものですから、つい・・」

微笑みながらレアと呼ばれる女の人が答える。

「レア様、この男はこの世界の住人ですね。 よく生き延びていましたね」

「えぇ、そう思いますわ。 まさかオーガやバジリスク、ワイバーンなどがあふれているとは思いもしませんでしたわ。 それにしても今、わたくしたちどこにいるのでしょう?」

「はい。 ただ、異世界だということだけはわかっています」

ポニーテールの女の人が答えていた。


「あはは・・メリッサ、その通りでしょうが落ち着いていますわね。 あはは・・」

「レア様、そんなにおかしかったですか?」

「いえいえ、あまりにも的確な状況分析をするものですから・・」

レアはまだ肩を震わせていた。

「さて、あまり笑ってばかりもいられませんわ。 この異世界人が生き残っていたのは幸いですが・・」

そう言って持ち上げてみると、男は気絶していた。

「セレネー、回復を頼みますわ」

「はい」

静かに答え、桃色の柔らかそうな髪を片手でかきあげ、静かに近寄って来る可愛らしい女の子だ。

優しく男の頭持ち、片手をかざすとほんのり手が緑色に光る。


「フローラ、アウラ、メリッサ、エリス、残りの魔物を頼みましたわよ」

「「「「ハッ!!」」」

レアがそう声をかけると、レアを中心に等距離で広がっていく。


メリッサの前からはバジリスクが迫って来ていた。

この集団の中では小柄な女の子だ。

身長は150センチほどだろうか。

髪はショートカットの黒髪。 

見た目は華奢きゃしゃな感じがする。

メリッサは赤い手袋で覆われた両手の拳を胸の前辺りで2、3度ガンガンと合わせると、いきなり右手をバジリスクに向けて放つ。

つまり、バジリスクを殴ったのだ!

メリッサの身に着けているポンチョのようなマントは、中程度の魔法なら無効化する。

バジリスク程度の凝視なら影響を受けない。


メリッサの拳がバジリスクに触れる。

触れたところが大きくへこむと、バジリスクの反対側の身体が盛り上がり、はじけ飛んでいた。


ドン!!!


しばらくしてバジリスクは蒸発する。

「やっぱり汚いわね、この魔物は!」

続けて、後続のバジリスクへと向かう。


フローラの前にはガーゴイルの団体が迫って来ていた。

その上空にはワイバーンの個体も数十匹はいる。

フローラは慌てるでもなく、左手に持った杖を自分の前で握っていた。

ガーゴイルの方を見ながら軽く詠唱をしたようだ。

ガーゴイルの周りに光の小さな輪が連続して広がっている。

・・・・

ガーゴイルたちが自分たちの真横に光るその輪を見た瞬間!

空中で大爆発が起きた。


ドゴーーーーーーーーン!!!


大きな振動が地上まで伝わる。

今までガーゴイルがいたエリアがきれいに何もなくなっていた。

ガーゴイルの付近にいた、ワイバーンもいくつかは消し飛んでいる。

まだ上空で残っているワイバーンが警戒しているのか、グルグルと円を描いていた。

ガーゴイルを吹き飛ばしたところの空間から、光の線が伸びる。

フローラの攻撃はまだ終わっていなかった。

フローラは杖を軽く振り下ろす。

光の線が金色の光の龍に変わり、ワイバーンを食べて行った。

すぐに、辺り一帯の空を飛んでいる魔物はいなくなる。


「いつ見ても、フローラの魔法はきれいですわね」

レアがつぶやく。

レアの横でセレネーに回復をかけてもらっていた男が目を覚ました。

「・・う、あぁ・・ここは・・あ、あの大きな化物は・・」

そういいながら周りを確認する。

男の目の前に、桃色の柔らかそうな髪をなびかせて自分を見つめている美人がいる。

「え? あれ? ここは・・」

男は何が何だかわからなかったが、目の前の女の人は天使に見えた。

横には背中を向けて立っている女の人が見える。

桃色の女の人と目が合うと、にっこりとこれ以上ない笑顔で男を見て立っている女の人に声をかけていた。

「レア様、気が付きました」


レアっていうんだ、あの立っている女の人は・・そう思った時だった。

レアと呼ばれた人がこちらを向く。

「気が付きましたか。 無事で何よりですわ」

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