どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

第284話 俺も歳を取ったな

俺はばあちゃんの家に向かう。

ふぅ・・なんか、いろいろと忙しいな。

仕事という仕事ではない。

ただ、フラッとうろつくとそれが仕事になっている。

最高のはずだ。

だが・・調子が良ければそれを十分に満喫できない。

これを貧乏性というのだろうか。

そういえば、誰だっけ？

俺に人殺しですか？

なんて言ったやつがいたな。

普通、そう言われると今までの価値観を持っていたら、引くのかもしれない。

でもなぁ・・戦国時代なんて、人を倒すのが仕事だったしな。

確か、水戸黄門と呼ばれてる人でさえ、若い時代は平気で人を斬ったというじゃないか。

時代が違えば価値観も違う。

俺が持ってる価値観だって、戦後７０年ほどで出来上がったものだ。

ただ、それを疑わせないような社会システムにはなっているようだが。

年齢を重ねるとわかる。

老人たちが作った社会システムに不都合なことは、考えさせることすらさせないようになっている。

それを疑いはしない、させないように教育されている。

俺みたいなひねくれものは除くだろうが。

まぁいい。

俺だって、普通の人を斬ったりはしない。

ただ、俺のモラルに触れる輩には何の感情も抱（いだ）かない。

だから、あまり堪（こた）えない。

もしかしたら、後で俺の価値観が変わっときに、その重圧に苦しめられるかもしれないがその時はその時だな。

というか、今までの社会システムがおかしかったのだと思う。

常に被害者が日陰の思いをしながら生を送る。

ありえないだろ。

よくニュースを見ていて、こんなクズに人権などいるはずがない。

そう思っていても、人権、人権というやつらがいた。

被害者の人権は？

それは常に思っていたところだ。

クズはその場で始末するに限る。

そう思っていたが、ほとんど現実は逆だった。

それが、ある日突然、このレベルや魔法のある世界になった。

その瞬間（とき）から俺は覚悟を決め、それが確信に変わっていった。

この素晴らしい世界で生きていくと。

だからこそ、無駄な今までの常識は必要ない。

・・・

・・

そんなことを思っていると、ばあちゃんの家の前で立ち止まっていた。

俺も歳取ったな。

ばあちゃんの家の呼び鈴を押す。

奥ですぐに返事があった。

「はーい」

ばあちゃんの声だ。

ドアが開かれた。

「おや、テツ。　おかえり」

そういうと、俺を中に入れてくれた。

家の中が妙に違和感を感じる。

ばあちゃん、また部屋を変えたな。

リビングが変化している。

大きなソファが出来ていた。

「テツ、おかえり～」

フレイアがお茶を飲みながら出迎えてくれる。

「ばあちゃん、座るよ」

俺もそういいながら、フレイアの横に座る。

ばあちゃんが黙ってお茶を淹いれてくれた。

ばあちゃんは、自分の席に座りながら俺を見つめる。

「テツ、お前無理してないだろうね？」

「うん、大丈夫」

ばあちゃん、ありがとう。

「そうかい、それならいいんだが・・」

俺はフレイアにギルドでのことを話してみた。

「フレイア・・俺な、単独でクイーンバハムートのところへ行くことになったんだ」

「え？　一人で？」

フレイアが少し驚いていた。

「そうなんだ。　何でもフェニックスの羽を俺が持ってるだろ？　それが役立つかもしれないそうだ」

「・・・」

少しの間をおいてフレイアが口を開く。

「テツ。　これは私の知識としてあるのだけれど、クイーンバハムートのお話よ」

フレイアが話してくれた。

クイーンバハムートはいつも一人。

世界を見つめている。

その姿を見たものはいない。

ただ、そこに居る。

神？　というものもいるけれど、また違うよう。

世界は風まかせ。

ただ、見つめている。

こちらの姿を映し出す。

ほんの少しの微笑みとともに。

・・・

フレイアが謳（うた）うように話してくれた。

「フレイア・・なんだそれ？　子どものおとぎ話のような、詩のような・・・なんか変な感じだな」

俺は感じたままを言ってみる。

「そうなのよ。　変な言葉でしょ。　でも、そういうお話というか口伝えというか、あるのよ」

フレイアも不思議そうに言う。

「なんだろうね？　でも、フレイアはそういった話を知っていたんだろ？」

「ううん。　これは誰でも知ってるお話よ。　いろんな物語の中に入ってるわ。　少し形は変わっているかもしれないけれど・・」

フレイアはお茶を飲みながら言う。

「テツ。　そのクイーンババ・・なんだっけ？　それに会いに行くのかい？」

ばあちゃんが言う。

「うん」

俺はうなずく。

「なんか、フレイアさんの言葉を聞いていたら、寂しいようでいて、きれいな感じがしたんだけど・・なんだろうね？」

ばあちゃんもお茶を飲みながら言う。

寂しいようできれいな感じか・・俺はその言葉が印象的だった。

それに交渉に行っても誰も怪我してないんだよな？

フレイアが天井を見ながらつぶやいている。

「きれいな感じかぁ・・私もそんな感じがするのよねぇ。　何でだろう？」

俺は黙ってそれを聞いていた。

「ま、何にせよ行くのだけど、その報告に来たんだ。　で、今から出発しようと思ってるんだ」

ばあちゃんとフレイアがむせていた。

ブホォ・・ゴホ、ゴホ・・。

「そ、そりゃまた、急だねぇ・・大丈夫かい？」

「テツ、いきなりだわね。　大丈夫なの？」

ばあちゃんもフレイアも心配してくれていた。