第276話 スロウ亭、そして俺の過去話へ



匂いって・・わからん。

食欲旺盛なハイエルフってどうなの?

だが、そのスタイルは維持できるんだよなぁ。

俺はそう思うと、フレイアをマジマジと見つめる。

フレイアはあごに指を当て、上を向いて何やら考えていたようだが、俺の視線に気づくとにらんできた。

「テツ・・何か、失礼なこと考えてるんじゃない?」

「い、いえ。 別に、なにも・・」

フレイアがジッと俺を凝視する。

「ま、いいわ。 お昼、食べに行きましょ」

俺はホッとして、受付にお勧めの食べる場所を聞きに行った。


順番を待つこともなく教えてくれる。

「1階のスロウ亭がお勧めです。 その通路を左に行けばわかると思います」

俺たちはお礼を言うと、早速向かう。

通路を歩くとすぐに見つかった。

スロウ亭と看板がある。


ラピット亭とはまた違った感じだ。

誰でも気軽に入れる、パブのような印象を受ける。

入り口も西部劇であるような感じだ。

そのまま俺たちは入って行くと、カウンターとテーブルがいくつかある。


「いらっしゃい!」

奥からおやじの声が聞こえてくる。

その声に合わせて、案内の人が来た。

「何名様でしょうか?」

俺たちが2名だと伝えると、カウンターに案内された。

「ご注文が決まりましたら、お知らせください」

そう言われ、メニューの掲示板を見てみる。

・・・・

肉料理がメインみたいだな。


考えてもよくわからないので、困った時の注文、お勧めを頼むことにする。

店員を呼んで、お勧めを聞いた。

「今日のお勧めは、オーク肉の料理ですが、こちらでよろしいですか?」

それをお願いした。


「フレイア、何か食べたいものとか、あるんじゃないのか?」

俺は何も言わないので聞いてみる。

「ううん。 別に、なんでもいい・・は、クズの返事だったわね。 特にこれがいいってものはないから・・」

フレイアが微笑みながら答えてくれる。

そういえば、フレイアって何が好きなんだ?

俺は考えたこともなかった。

「フレイアって、食べ物で何が好きなんだ?」

俺は聞いてみた。

「う~ん・・特にこれと言ってないけど・・あ! テツのお母様のれてくれるお茶が一番好きだわ」

フレイアが目を大きくして答える。

ばあちゃんが聞いたら喜ぶぞ。

だがなぁ、それは食べ物じゃない飲み物だ。

俺の予想の斜め上だな。


「お茶?」

「そう、お茶よ」

「あ、そう・・」

俺の返答などよそにフレイアがつぶやいていた。

「エルフは、特に食べなくても大丈夫なんだけど、食べるのは楽しいしね」

「え? 食べなくても大丈夫って・・」

俺は少し驚きつつ、言葉を口にしていた。

「あ、ごめん。 食べなくてもっていうのは、水だけでもしばらくは生きられるってことだから・・」

・・・・

そりゃ、人間の女の人も、水だけでも20日くらいは生きられるって聞いたことあるぞ。 

男は無理だが。

でも、それは非常時だからな。

そんな会話をしていたら、食事が運ばれてきた。


鉄風のお皿にジュージューと音をたてて大きなステーキ肉が乗っている。

肉の皿を置くと、店員がタレをかけてくれた。

そのタレがジュワーッと一段と大きな音をたてて匂いを出している。

いいね。

店員がナイフとフォークを置いて下がっていく。


俺はたまらず、肉を切る。

フォークで肉を刺し、口に運ぶ。

パク・・。

!!

無茶苦茶おいしいじゃないか!

オーク肉も柔らかいが、肉汁がたまらない。

肉汁と肉が溶ける感じで口に広がる。

何だ、これは!!

グルメリポーターじゃないけど、声を出して、おいしい~って言いたくなるぞ!

俺は夢中で食べている。

肉が半分くらいになったところで、正気に戻った。


ハッとしてカウンターの向こうのおやじの顔をみる。

おやじはニヤリとしてうなずく。

これは、一言いるな。

「おやじさん! 無茶苦茶うまいぜ!!」

おやじが黙って片腕を挙げていた。

おやじさん、かっこいいぞ!


フレイアを見ると、俺よりも早く食べている。

もう後一口か二口で終わりそうだ。

エルフって、そんなに食べなくても大丈夫じゃなかったのか?

いや、そんなことを気にしていられない。

この肉がやめられない!

残りを一気に口に放り込んだ。

・・・・

「ふぅ・・おいしかったぁ。 肉だけでほぼ満腹だな」

俺がそうつぶやいていると、次の皿が運ばれてきた。


正直、もう食べれないぞ。

そう思っていたらデザートだった。

オレンジ色の果物のようだ。

桃のようにも見えるが、色が違う。

一口いただいた。

少し酸っぱい感じだが、肉の後にはちょうどいい。

・・・・

・・・

俺たちは大満足でお昼を終えた。


「フレイア、おいしかったな」

「うん、おいしかった」

フレイアはペロッと平気で食べていたからな。

食後のコーヒーみたいなのもおいしかった。

スロウ亭、覚えておこう。


ギルドの受付フロアに来て、飛行船の発着場へ向かう。

昇降装置のところへ行き発着場まで運んでもらった。

すぐに到着し、帝都行きの乗り場を探す。

・・・・

すぐに見つかった。

後10分ほどで出発のようだ。

時間は11時を少し過ぎている。


飛行船にはもう乗れるみたいなので乗船した。

入ってすぐのフロアには、それほど人はいない。

上のフロアに向かう。

2階へ上がってみると、バラバラと人がいる。

ところどころにソファーやテーブルが配置してあった。

窓際のところにもある。

俺たちは窓際のところへ行き、ソファーに腰かけた。

「ふぅ・・こうやって飛行船で移動って、なんかいいね」

俺がくつろぎながら話してみる。

フレイアは笑いながら聞いてくれている。

「うふふ・・そうね。 テツもおじさんだからね」

こいつ、レイアが言ってたことを覚えていたな。

いや、しかし、実際おじさん・・だろうな。


俺が黙って考えていると、

「ごめん、テツ。 気にさわった?」

フレイアが申し訳なさそうに聞いてくる。

「いや、そうじゃないんだ。 実際、人間ではおじさんだからな」

俺は素直に答える。

!!

俺はフト頭に浮かんだことがあった。

「フレイア! 若返る魔法ってない?」

「テツ・・そんなのないわよ。 あ、でも・・」

フレイアが口ごもる。

「あるのか?」

俺は驚きながら聞いた。 

冗談のつもりで言ったのだが。


「ううん。 若返るのではないのだけれど、時間を固定したり遅くしたりするのはあったような、なかったような・・後は肉体を入れ替えるみたいな魔法かな・・」

フレイアが上を向きながら話している。

飛行船の外の景色を見て、まだ動いていないなと思いながらフレイアに聞いてみた。

「その肉体を入れ替えるって魔法って・・」

「うん。 禁忌魔法なんだけど、誰か自分に適合した身体を用意して、自分の魂というか精神体というか、それを移植させるの。 物語なんかではよく出てきてたわ。 どのみち、適合者の命が失われるのは確実だけどね・・」

フレイアが寂しそうな顔をしながら答えてくれた。


「そうか・・ロクなもんじゃないな」

俺もつぶやく。

「私たちも生きていくために他の命を奪って生きている。 けれど、禁忌魔法はそうじゃないのよ。 う~ん・・うまく言えないけど・・」

フレイアが難しい顔をしていた。

「そうだよな。 自然の摂理というか、天命を強制的に奪って書き換えるんだろ。 単なる殺人じゃない。 俺もうまく言えないけど、よくない事だよな」

俺も同調する。

「うん」

軽い振動を感じる。

飛行船が出発したようだ。

帝都までは40分ほどだという。


飛行船が移動し出しすと、フレイアが俺の方をキラキラした目で見ている。

な、何だ?

「あのさ、テツがよく言ってるあの女の人・・嫁、嫁って人だけど、テツの奥さんなのよね?」

ん? 何言ってるんだ、と俺は思いながら答える。

「あぁそうだが、どうしたんだ?」

「うん、奥さんって、もっと旦那さんと一緒にいろいろ居たいものじゃないの?」

フレイアさん、それを言うか?

俺は言葉に詰まった。

「う~ん・・そうだなぁ、帝都まで時間があるし、少し俺の話を聞く?」

俺がそういうと、フレイアは大きくうなずいていた。


「こんな世界になる前だが・・」

そうやって俺の話を始めた。

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