第260話 ザッハトルテ


「テツ・・あのチーズケーキの横にあるのは、何?」

俺はフレイアの指先を見つめる。

なるほど・・前はなかったな。

「あぁ、それか・・ザッハトルテだ」

俺が言葉にしてみた。

「ザッハ・・何?」

「ザッハトルテ。 チョコレートケーキだな」

「なるほど・・チョコレートケーキとは書いてるが、あまりにもおいしそうに見えたから・・」

フレイアが目を固定したまま話している。

何か怖いぞ。


確か、ここのザッハトルテ。

シェフが本場のオーストリアだったっけ?

そこで修行してきたという代物しろものだ。

よくぞ生き延びていてくれた。

大感謝だ。

俺も確かな記憶ではないが、チョコレートと呼べるものはチョコレート生地が60%以上のものじゃなかったっけ?

後はチョコレート菓子とか準チョコレートなんて呼ばれていたと思うが。

詳しくはわからないが、とにかくここのシェフの作るチョコレートケーキは、とても濃くておいしいのは間違いない。

ただ、値段がなぁ。


だが、今は買える!

「フレイア、そのザッハトルテ・・あるだけ買おう」

!!

俺がそういうと、やっとフレイアが動いた。

「本当か!?」

俺の両肩をがっしりと掴む。

ビクッ!

フレイア、脅迫か?


「あ、あぁ・・そんなに数はないけど、買っておこう」

フレイアはササッとかごを取りに行った。

すぐに帰って来て、スイーツコーナーの大人買いが始まった。

だが、あまりにも多く買うと、他のお客さんにも迷惑だからとフレイアに言いつつも、ザッハトルテだけは全部買った。

やはりレジが恥ずかしい。

全部で3万ギルを超える出費だ。

しかもスイーツだけで・・アホだろう。

俺はそれらをアイテムボックスにしまってスーパーを後にした。

時間は19時30分を過ぎている。


さて、体力的には全然問題はない。

だが、夜の移動はしたことがなかった。

そういえば、定期船の発着場でパネルを見たときだ。 

全体マップや移動先の詳細なんかが表示されていた。

ルートなんかも見れるようになり、帝都を経由していろんな場所に行くことができる。

街同士の連絡もかなりできていた。

藤岡のところもあっただろうか。

そんなことを思い出していた。 

確認してないな。

しかし、歩いて移動した方が時間的には早い。


ただ、飛行船を使えば遠くへ行くときは、休むことができるので楽といえば楽だろう。

ドワーフのところへ行くのに1時間半くらいじゃなかったっけ?

ちょうどワイバーンが飛ぶ速度と変わらない。

出力を上げればもっと出せるんじゃないかと思うが、わからない。


「フレイア、夜の移動って大丈夫?」

俺はスキルで夜でもよく見える。

「夜の移動? 問題ないわよ。 エルフは夜目がきくから」

スーパーエイトで買ったザッハトルテを早速食べ、上機嫌のようだ。

うまいだろう、そのチョコ。

無論、俺もいただいている。


食べ歩きながらの会話。

デート気分だな。

「テツ、このザッハ・・なんだっけ? チョコレートはものすごく濃くておいしいわね」

フレイアはご機嫌だ。

そうだろう、と俺もうなずきながら答える。


さて、食べ終わったし、そろそろ移動するか。

「フレイア、飛行船もあるけど、歩いて移動でもいいかい?」

俺は聞いてみた。

「別に構わないわ。 どうしたの?」

フレイアは軽く答えてくれる。

「うん、聞いてみただけ・・」

俺はそういうしかできなかった。

「そう」

フレイアは変なのって感じで俺を見る。


こんな月のきれいな夜に、女の子と一緒に歩くのがウキウキするなんて言えないよな。

嫁は・・もはや賞味期限が切れてる。

いや、俺の方か。

そんなことをフト頭に描いたが、振り払う。


「じゃあ、前に俺の友人のいた場所・・覚えてる? 藤岡っていうやつがいたところなんだが・・」

フレイアが少し考えていたが、思い出したようだ。

「あぁ、颯君のバーンの卵を拾った時に行った場所ね」

「うん」

「まずは、そこに行ってみたいんだが・・いいかな?」

「別に構わないわよ。 私はテツについて行くだけ」

フレイアさん、ついて行くだけって・・俺はその言葉にグッとくるんですけど。

「そ、そうか・・じゃあ、出発しようか」

俺はフレイアと一緒に軽く走り始めた。

時間は20時前だ。


藤岡のところへ行ってから、数日が経過している。

帝都もそうだが、ドワーフなども転移してきている。

世界規模で転移してきているんじゃないか?

それに、前にも思ったが、どうも人のいるところや転移者の適合しやすいところに転移している感じがする。

知らんけど。

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