第257話 学校


確かに、こんな世界になって学校のことなんて考えてなかった。

もう、日本の学校なんて無理だろう。

だからといって、人としての基本を学ぶところは必要だと思う。

帝都に学校ができるなら、これはありがたい。

学費はどうなるのだろう。

俺の今持っているお金なら、全く問題ないだろうけど。

一度言ってみたかった台詞(せりふ)だ。

そんなことを考えていた。


「アニム王・・学校ですが、誰でも通えるのですか?」

俺は聞いてみた。

「無論、誰でも無料で通えるよ。 テツもいつでも通っていいからね」

アニム王は俺の顔を見つつ、軽く答えてくれる。

「む、無料で、誰でも・・ですか?」

俺はオウム返しに口にしていた。

「当たり前じゃないか、テツ。 帝都は税金を徴収しているのだからね。 住人には当然の権利だよ」

アニム王が答える。

いやいや、アニム王。

その当たり前のことができないのが、人間社会ってものじゃないのですか?

そう俺の記憶にあるのだが・・アニム王国では違うようだ。

驚かされることが多いな。


「さて、テツ。 いきなり呼び出したりして申し訳なかったね」

アニム王は席を立ちながら俺に言ってくる。

「いえ、とんでもありません。 それよりも何もお役に立てず、こちらこそ申し訳ありません」

俺は自分の不勉強さなどで気持ちが重かった。


「何を謝る必要がある。 情報が欲しかったのだから問題ないよ。 それに、邪神といっても、すぐに問題になることなどないよ。 これから先、何十年、何百年・・もしかしたら、何千年という先かもしれない。 そういったことがないように、布石を打っておく意味が強いからね」

アニム王の目線はどこか遠くを見つめていた。


俺はアニム王に挨拶をして、王宮を後にする。

「なんか、変に疲れたな」

俺はつぶやく。

「フフ・・テツが緊張し過ぎなのよ」

フレイアが軽く言ってくれる。

「そうかなぁ・・」

「そうよ」

俺たちは二人でゆっくりと歩いて帰った。


時間は15時前。

さて、今度こそ本当に出発準備をしておこう。

家の前に帰ってくると、嫁たちの家は留守のようだ。

人の気配すらない。

優の家も同じか。

あいつ、青春してるよなぁ。


ばあちゃん家は、どうやら居るみたいだ。

フレイアに、ばあちゃんの家に立ち寄ることを伝える。

フレイアは二つ返事でOKだ。

おそらく、お茶だな。

ばあちゃんの家の呼び鈴を押す。

「はーい」

ばあちゃんの声だ。

しばらくしてドアが開いた。

「おや、テツじゃないか。 それにフレイアさんも・・どうぞ」

中へ入れてくれる。

・・・

部屋の雰囲気が前と違う。

また、ばあちゃんが模様替えをしたようだ。

もう、好きにしてくれ。


俺は椅子に座らせてもらった。

これも前にはなかったものだ。

リクライニングシートみたいだが・・座り心地がいいな。

俺が座っていると、ばあちゃんがお茶を運んできてくれた。

「ありゃ、テツ。 その椅子は、私専用だよ。 どいとくれ」

そう言われて俺は違う席に移った。

お茶をいただく。


「ふぅ・・うまいな。 やっぱ、このお茶が一番だな」

俺がそういうと、フレイアも同じようなことを言っていた。

ばあちゃん、うれしそうだな。


ばあちゃんを見ていると、なんか前よりも元気になってる気がするが、気のせいか?

「ばあちゃん、いつもこの時間には家にいるのかい?」

俺は聞いてみた。

確か王宮で働いているはずだ。

「あぁ、そうだね。 朝、王宮に行って、皆さんの作業を手伝わせてもらって、この時間に帰って来るね。 1日か2日おきくらいだけど、こんな楽な仕事でいいんだろうかねぇ」

ばあちゃんがそうやって説明してくれる。

・・・

「別にいいんじゃない。 アニム王はそうやって働いてもらうって約束だったし・・」

「働くって言ってもねぇ。 全然しんどくないし、これで働いてるのかって言われても・・」

「ばあちゃん、しんどいのが働いてる目安じゃないぞ」

俺は笑いながら返答する。

そして、フレイアがうなずいて言う。

「お母さま、元気で動かれてるのが何よりです」

ばあちゃんはうれしそうだ。


「ばあちゃん、じいちゃんは?」

俺はじいちゃんがいないので聞いてみた。

「あぁ、あの人は16時くらいじゃないと帰ってこないよ」

なるほど、じいちゃんも充実してるんだな。


俺はそれを確認して、ばあちゃんに話してみた。

「ばあちゃん、俺とフレイアだけど、また地上の街を回ってこようと思うんだ。 今度は結構な日数がかかるかもしれない」

ばあちゃんは一口お茶を飲むと、ゆっくりとテーブルにお茶を置く。

俺とフレイアを見てから言う。

「そうかい・・気を付けて行くんだよ」

それだけを言うと、ばあちゃんはまたお茶を飲み始めた。

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