第256話 重い話は苦手です


「まだ、確実なことは言えないのだが、邪神教団の連中が転移してきているのは知っているね」

ギルマスが言う。

「はい」

「奴らが転移してきているということは、その中心となる邪神もまた転移してきていると考えることができる。 そして、その邪神は負のエネルギーの強いところへ現れやすいんだ」

ギルマスが厳しい顔で言う。

「・・・」

俺が無言でいると、アニム王が代わって話してくる。

「まだ確証はないんだ。 ただね・・用心に越したことはない。 だから、そういった場所を知っておくだけでも対応がしやすいと思ってね」

アニム王がそう説明してくれた。


「そうなのですか。 俺がもっと勉強して、しっかりと場所を把握しておけば・・」

俺がそうつぶやくと、アニム王が少し笑いながら言う。

「いや、テツの責任じゃないよ。 そういった懸念があるというだけだ」

「王様、今から私が地上の図書館へ行き、いろいろと調べてまいります」

ギルマスはそういうと、騎士団の若い連中とともに立ち上がった。

「テツ君、図書館は誰でも使えるよね?」

ギルマスが聞いてきた。

「はい、誰でも使えると思いますが・・運営しているのでしょうか?」

俺はそれが不安だった。

「それは行って確認するよ。 それに資料は残っているだろう」

ギルマスたちはアニム王に挨拶して、会議室から出て行った。

「全く、忙しいことだ」

アニム王は微笑みながら、ギルマスたちを見送る。

そして俺に話かけてきた。


横の人たちは無言で座っている。

「テツ、邪神といっても凶悪な存在ではないのだよ。 いや、凶悪になることもある」

アニム王が話しづらそうにしている。

珍しいな。

「神・・なのですよね?」

俺は聞いてみた。

「うむ。 我々の光の神のような存在とは少し違うのだ。 人というか、生き物の負のエネルギーが集まって、意思というか方向性を持ち始めたりするのだよ。」

アニム王が横の年配の人を見ながら話していた。


横の年配者が口を開く。

「テツ君だったかね? 神という扱いではないのだが、エネルギーの集合体というか、見えないが確実に存在するものなのだよ」

年配者は目を閉じながら話している。

「また、恨みなどで亡くなると、負のエネルギーは大きく残る。 時間とともに薄まったりはするが、なかなか消えにくいものなのだよ。 そういったものが集まれば、世界にとっては脅威となる。 だからできる限り早めに対処しておきたいのじゃよ」

そういうと、また静かになった。


年配者の横の人が口を開く。

「邪神だが、見方を変えてみれば、我々に悪の定義を教えてくれるともいえる。 要は、そのバランスの問題なのだ。 完全な善の世界もありはしないが、完全な悪の世界も存在しえない。 だからといって、普通に暮らしている人が巻きこまれるのは避けねばならないと思っている」

「枢機卿・・」

アニム王が丁寧に頭を下げながらつぶやいていた。


気持ちを切り替えたのか、俺の方を見てアニム王は言う。

「そういうわけで、今話していたところなのだよ」

「なるほど、そうだったのですか」

俺も納得した。

だが、そういった場所。

今、頭の中で浮かんだだけでも結構あるぞ。

まずは世界大戦なんかが浮かぶ。

後は宗教の戦争だな。

俺の記憶では、ヨシュア記だったか?

川の色が赤く変わるまで虐殺したって話だったが。

神の啓示を受けたとかで、侵略して女子供だけじゃなく家畜まですべて殺しつくしたとか。

・・・

俺がそんなことを考えていると、アニム王が声をかけてきた。

「テツ、あまり気にすることでもないよ。 用心したいだけだからね。 皆さん、今日はこれくらいに致しましょう。 ありがとうございます」

アニム王がそういうと、皆席を立って会議室を後にする。


アニム王と俺、そしてフレイアがその場に残った。

「テツ、重い話はこれくらいにして、何か帝都で足りていないものとかないかね?」

アニム王が俺に聞いてきた。

「え? 足りないものですか? 私的には、むしろ建設のスピードが早くて、ついていくのにやっとです」

俺は正直に答えた。

「あはは・・そういってくれると、ありがたいね」

アニム王が笑いながら言ってくれる。


「そうだ、テツ。 テツには子供さんがいたね」

アニム王が目をやや大きくして聞いてきた。

「はい、3人いますが・・」

俺が答える。

「帝都に学校ができるんだが、君たちの子共も通うといい。 基本、住人であれば誰でも入学できるからね」

アニム王がうれしそうに話してくれる。


俺は、掲示板にあった内容を思い出した。

「そういえば・・ありがとうございます。 子どもたちも喜ぶでしょう」

俺はそう答えつつも考えていた。

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