第229話 あれは、魔法なのか?


指揮官らしきおっさんは、手を振って帰れ、帰れとやっている。

俺はそれを見て遠慮なく答えてやった。

「おっさん、勘違いしてもらっては困る。 俺は地球人だ。 それにおっさんの後ろ・・倒れているのはドワーフか?」

「ドワーフというのか? この居城までの案内を頼んだのだが、攻撃をしかけてきたのでな・・正当防衛だ」

なるほど・・死人に口なしだな。

おそらくあの道に落ちていた血の人物だろうか。

とにかくこの大柄の男には俺の常識はないようだ。


「おっさん、その恰好は軍人のようだが・・」

俺がそう言うと、男はニヤッとして片手を挙げた。

「そうか・・見たところアジア人のようだが、話は通じないというわけか」

「そうだな。 言葉は通じてるが、話はできないようだ」

俺がそう言い終わる前に、ルナが前に歩いて行く。


男は挙げた手を遠慮なく振り下ろす!

俺たちに向けられた小銃が一斉に火を噴いた。

ドガガガ・・・!!!!!

パンパンパン・・・・!!!!

ドンドンドン・・・・!!!!!

・・・・

・・・

俺たちのところに土ぼこりが立ち込めていく。


5秒くらい経過したときだろうか。

男が片手を軽く挙げる。

一斉射撃が終わったようだ。

ドワーフの居城への攻撃をしている者たちは、まだ同じような攻撃を繰り返していた。

だが、居城の結界がどうも堅牢けんろうらしく、なかなか進まないでいる。


俺たちの周りの土ぼこりがだんだんと落ち着いてくる。

指揮官らしき男はニヤニヤしながら、その経過を見ていた。

周りの女たちも同じように見ている。


土埃が晴れようとしたときに、その土埃のところに穴が開いた。

丸い穴だ。

バスケットボールくらいの大きさだろうか。

その穴から黒い丸い塊がフワフワと浮いて、男たちの方へゆっくりと移動する。

ちょうど砲丸投げの玉くらいの大きさだ。


!!

指揮官らしき男は驚いていた。

後ろにいる男たちにやや強い口調で話す。

「おい、異世界人よ。 魔法と銃が融合すれば、小銃でもバズーカ以上の威力が出るといっていたではないか。 どういうことだ?」

「い、いえ・・確かにその威力はあるはずです・・」

異世界人と言われた連中が、オロオロとした態度で答える。

指揮官以外は、ザワザワとした雰囲気を作っていた。


ルナはそんな状況に構わず、その黒い球体を操っている。

俺たちはルナの横で、無傷で立っていた。

相手が攻撃を仕掛けてきたときに、ルナが結界を作っていた。

俺たちの前で銃弾が弾け消えて行く。

まるで線香花火のようにパチパチと目の前で弾けていた。

その光景を見ながら俺は思っていた。

このおっさんらは、既にこの世界の異変に気付づき適応したのだなと。

そして、内政干渉などと称し領土を広げていくつもりなのだろう。

また、ドワーフの重要性をよく知っているようだ。


人間というのはどの時代も変わらないのかなと、俺は思っていた。

魔法という力を得ると、生活に利用しようというのではなく軍事に利用する。

まぁ、俺も偉そうなことは言えないが、こういった種族の人間は違うようだ。

俺がそんなことを考えていると、ルナが動き出す。

黒い球体は、俺たちの前上方をゆっくりとルナの歩調に合わて移動していく。


指揮官らしき男がもう一度、一斉射撃を指示した!

今度は魔法の攻撃も含まれている。

銃撃と魔法、火魔法や風魔法だろう、いろんな種類の魔法攻撃も含まれていた。

だが、それらの攻撃は俺たちに届くことなく、すべて黒い球体が吸収している。

火の矢などが飛んできても、途中で軌道を変え黒い球体に吸い込まれる。

銃弾なども方向を変え、黒い球体の方へ飛んで行っているのだろう。

土埃も立たない。


ルナが歩くのをやめ、手を前にかざす。

お互いの距離は20メートルを切っているだろう。

黒い球体が速度を速め、指揮官の後ろ方、居城を攻めている部隊のところへ移動し落ちた。

指揮官の男とその周辺の連中は、みな同じように黒い球体の動きを追っていた。

全員がウェーブのような感じで顔を動かしたな。

黒い球体は、落ちると同時にバッと黒い膜のような空間を広げ、すぐにしぼんで消えてしまった。

音はない。


!!!

俺は驚いた!

黒い膜がしぼんだかと思うと、その後には何もない。

ただ空間が存在していた。

何が起こったんだ?

・・・

・・

わかった!

あの黒い球体が広がった空間が削り取られているんだ。

無論、空中の部分が削り取られたのは見えない。

だが、その地上部分や城壁部分が、きれいに円球上に削り取られている。

しかし、その後すぐに悲鳴や怒声であふれかえっていく。


「「「・・・ぎゃぁーーー・・・」」」

「「「「うわぁ・・・」」」」

「「・・足がぁ・・」」

削り取られた空間の境目にいたであろう人たちの喘ぎ声が聞こえた。

ただ、すぐに声は途絶えていたが。

・・・・・

・・・

指揮官らしき男は目の前で起きた状況が理解できないのだろう。

口を開けて後ろを見たり、俺たちの方を見たりしていた。


おいおい、おっさん。

もしかしてその顔って、ビビってるのか?


「お、おい! これはどういうことだ!!」

指揮官らしき男は、周りの連中に怒鳴っていた。

周りの人たちも、余裕などはない。

ただ、必死で指揮官に答えたり、ウロウロ、キョロキョロしているだけだった。

「い、いえ・・わかりません」

「あわわわ・・・」

かろうじて、指揮官らしき男だけが状況に対してしゃべっているだけだった。

「おい! 異世界人、黙ってないで答えろ! 何だ、あれは?」

指揮官らしき男は明らかに焦っているようだ。

「わ、我々にもわからないのです。 ただ、魔法を使ったようなのですが・・」

異世界人と呼ばれる連中が口々に同じことを言っていた。


「ま、魔法だと・・あれがか。 数人という規模じゃないんだぞ。 城を攻めていた連中がすべて消えたんだぞ!!」

指揮官らしき男が異世界人を捕まえてにらんでいる。

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