第228話 敵だな


ルナが前を見て静かに言葉を出す。

「賊どもにしつけが必要なようだな・・長老、そこで待っておれ」

俺はその言葉を聞きながら、ドワーフの長老にシルビアを頼んだ。

「長老さん、このダークエルフを頼んでもいいですか? 俺もルナさんと一緒に前に出てきますから」

「あ、あぁ、そりゃ構わねぇが、この戦闘・・あんたには関係ないだろうに」

ドワーフの長老が不思議そうに声をかけてくる。

「長老さん、俺も無法者は許せないのですよ」

・・・

長老はポカンとしたまま、うなずいてくれた。


「フレイアはどうする? しんどかったらここで待っていてもらってもいいが・・」

俺がそういうと首を振ってこちらを向く。

「ううん、テツ。 私も行くわ」

フレイアはそう答えながら弓を取り出していた。

ドワーフの長老がその弓を見て、また驚いていた。


そんな中、ルナは相変わらずマイペースで歩いて進んで行く。

俺もすぐに後を追う。

「テツ・・お前も長老と一緒に休んでいてもよかったのだぞ」

ルナが微笑みながら言う。

「いえ、ウルダさんに頼まれていますし、それに、あなたみたいな美人に傷でもついたら俺が自分を許せません」

これは嘘ではない。

「そうか・・」

ルナが静かに答える。


俺はドワーフの居城に群がっている連中に注意を向けてみる。

ピピピ・・。

レベルが表示されていく。

どれもレベル20くらいか・・少し高いのがいるが、レベル25が最高かな。

ただ、数がなぁ。

少なくとも1000人くらいはいるんじゃないか?

わからないが、もっといるかもしれない。


俺たちの接近に気づいたらしく、居城を攻めている連中の後方の奴等だろう。

その連中がこちら向いた。

・・・

一度に百単位以上の人間に向かれると、怖いな。

舞台で注目を浴びるのって、こんな感覚なのだろうか。

そんなことを思ってしまった。

俺は軽く頭を振って、変な妄想を振り払う。


居城を攻めている連中は、どうやら日本人ではないようだ。

金髪が多く目立つ、ホリの深い顔、それに高い鼻。

明らかに黄色人種ではない。

中東辺りでもこんな顔立ちの人がいたが。

北欧系の人間もこんな感じだったような・・ロシア系か?

異世界人も混じっているかもしれない・・まぁいい。

とにかく敵だろう。

面倒なので、そうまとめた。


相手の中には女性もいるようだ。

昔なら美人に見えたような感じだが、今となってはなぁ。

そう思って横のルナを見た。

うん、違う!

比べれるものじゃない。


相手側の男たちが、ニヤニヤしているのがわかる。

ルナを見たのだろう。

その悪意というか気持ち悪い視線というか、そういったまとわりつく感覚をルナは平然と受け流す。

・・・

お互いの距離がかなり詰まってくる。


「さて・・」

ルナはそう言うと、相手との距離をなお詰めていく。

おそらくお互いの距離が30メートルくらいになっていると思う。

敵の男たちがニヤニヤしながらルナを見ている。

かなり騒がしくなりつつあるようだ。

口笛を吹く者もいる。

ヒュー・・。

「お前たち。 一応聞いておくが、ドワーフの居城を攻めているのだな?」

そんな中、ルナが透き通る声で問う。

!!

相手も一瞬聞き入っていたようだが、俺たちに近い連中が後ろをバラバラと振り向く。

口々に隊長なんて言葉が聞こえてきた。

一人の男が、金髪の美女二人を引き連れて前に出てくる。

かなりでかい。

2メートル近くあるんじゃないか?

身体からだは武装している。

どこかの軍隊って感じだ。


前に出てきた男は、ニヤっとしながら答える。

「我々は、この地方に勝手に領土を構えた連中に面会を求めただけだ。 内政干渉しないでもらいたい」

・・・

俺は呆れてしまった。

面会というのは、武力攻撃することか?


俺は一歩前に足を踏み出した。

!!

相手の武装している連中がすぐに俺に向けて小銃を構える。

男の横にいた女が話しかけてきた。

「そこから一歩でも進めば、戦闘開始とみなします」

指揮官らしき男は、女の肩を掴んで軽くキスをする。


とりあえず、俺はその場で立ち止まる。

「あんたたち、ここにはドワーフ、異世界の人たちがいたと思ったが、彼らはどうしたんだ?」

俺はそう聞いてみた。

「お前、地球人か? ならばこの状況がわかるだろう。 俺たちのやることに口を出すな」

・・・

なるほど、言語変換で意思疎通は普通にできるようだ。

だが、完全に上から目線。

そして、以前の俺ならビビッていただろうな。

トロール、バジリスク、ジャイアントにタイタン。

そんな魔物と出会って麻痺してきたのかもしれない。

この男たちからは、何の威圧も感じない。

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