第226話 うぐっ・・


俺とシルビア、それにフレイアがルナの出した荷運び用の袋に入っていく。

途中でウルダが俺に真剣な顔で話しかけてきた。

「テツ、ルナ様をよろしく頼む。 シルビアも・・」

俺は焦ってしまった。

まさか、あのウルダさんがこんな真剣にお願いしてくるとは。

「はい、ウルダさん。 わかりました」

俺も丁寧に答える。


俺たちは袋の中に入って顔だけを出している姿になった。

俺たちからは見えないが、どうやら変な絵面えづららしい。

・・・

アニム王は微笑み、ギルマスが笑いをこらえるのに必死のようだ。

他の人たちも身体がピクピク震えている。

そんなに変に見えるのだろうか。

頭で想像してみる。

袋から頭だけが3つ出ている姿か・・想像ではわからないな。


ルナが羽を広げ、俺たちの入った袋を片手で持つ。

ゆっくりと上昇し王宮から出て行く。

俺たちは笑われながら見送られた。


王宮の上空へ来ると、ルナが俺たちをチラッと見た。

「すぐに着くと思うが・・ま、死ぬことはあるまい」

ん?

すぐ?

何、その言葉・・俺がそこまで思った時だ。


!!!


凄まじい「G」を感じる。

自分の体重が何十倍にもなったようだ。

うぐっぅ・・い、息が・・。

周りの景色など見る余裕などない。

目を開けていたのか閉じていたのかもわからない。

・・・・

気絶はしていなかったと思う。


時間の感覚もよくわからないが、ほんの一息のようでもあり、長い時間のような感じもあった。

すぐにその荷重がなくなり、ゆっくりと地上へと向かっていた。


「ふむ、確かドワーフの長老と会ったのは、この辺りだったと思うが・・」

ルナがそうつぶやきつつ、辺りを見渡していた。

「ル、ルナさん・・もう着いたのですか?」

俺は弱々しい声で聞く。

「おお、テツか。 着いたと思うのだがな」

ルナが答えつつ、地上へと俺たちを降ろしてくれる。


俺は袋から這い出てきた。

・・・

後ろを見ると、シルビアは完全に気を失っている。

とても美人がしてはいけない姿になっているな。

フレイアはかろうじて意識を保っているようだが、立てないらしい。

口に手を当てて下を向いていた。


ルナは別に気にするでもなく、袋をアイテムボックスにしまう。

ルナがゆっくりと辺りを見回すと、何やら感じたようだ。

俺はシルビアを背負い、フレイアに肩を貸しながらルナの後を追う。

ルナは鼻歌を歌いながら歩いている。

♪♪

少し歩いていて丘のところへ来たときだ。

ルナの鼻歌が止まっていた。

ルナはその丘から向こう側を見下ろしている。

俺たちもようやく追いついてその風景を見た。

「ひどいものだな・・」

ルナが一言。


大きな山に大きな扉があったようだが、それが半分無くなっている。

もう半分は今にもちぎれそうだった。

まだ、土埃つちぼこりのようなものが立ち込めているので、何かあったのはそんなに前のことではないだろう。

ルナは遠慮することなく近づいて行く。

・・・

扉の前に来て普通に歩いて中に入って行く。

ルナさん、あんたねぇ。


!!

入ってすぐのところに人が倒れていた。

ドワーフのようだ。

なまドワーフか。

いるんだな、本当に。

俺はそんなことを思いながら近づいていく。

隣を見るとフレイアが回復してきたようだ。

「まだ、少し気持ち悪いな・・」

フレイアがつぶやきながら、俺の肩から離れた。

俺はシルビアを背負ったままだ。


俺はその倒れている人に近寄ってみるが、反応がない。

ただ、身体が蒸発していないところをみると命はあるようだ。

ルナがゆっくりと近寄り手をかざす。

緑色の光が優しくその人を包んだ。

少ししてその人の意識が戻る。

「・・ん? あんれ、ヴァンパイアの姫様じゃないですか」

ルナは優しく微笑んだ。

「あ? それにエルフ。 いや、違うな・・あんた、もしかしてハイエルフなのか?」

髭面ひげづらのドワーフはフレイアをマジマジと見つめていた。


「長老よ、それよりも何が起こったのだ」

ルナがドワーフに話しかける。

「あ、すんません姫様。 実は・・」

・・・

・・

ドワーフの長老と呼ばれる人が話してくれたところによると、地球人と邪神教徒の連中に襲撃しゅうげきを受けたようだ。

ルナと出会ってしばらくすると、ドワーフの王が無事転移してきたという。

長老とともに、この山にドワーフの街を作っていった。

まずまず街も出来上がり、これからという時に扉の外に誰かが訪ねてきた。

ドワーフの王がとりあえず何かコンタクトするべきだろうと判断し、扉越しに話をしていた。

すると、どうもこの星の住人のようだ。


ドワーフ王も交流は大事だと思い、扉を開けた。

その時に、邪神教団の連中と地球人がなだれ込んできたというわけだ。

数にして数百人はいただろうか。

もっといたかもしれないが、かなり人数がいたのは間違いないという。

・・・

「そうか。 長老よ、それでドワーフ王はどこにいる?」

ルナが淡々と聞く。

「すんません姫様。 情けない話ですが、扉が開いてすぐにあっしは気絶させられてしまって・・どうなったのかわからねぇんです」

ドワーフの長老は、しょぼんとした感じで答えていた。

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