第200話 色っぽいな
「一体何をしたのよ?」
嫁が目を輝かせて聞いてくる。
お義母さんも横で一緒に俺を見つめる。
「い、いや、街を見つけたとか、そこのギルドとの調整役を手伝ったとかだけだが・・」
「そんなことだけで・・すごいわね、冒険者。 私もなろうかな・・」
俺の返答に対し嫁が簡単そうに言葉を並べる。
お義母さんも乗り気のような感じだ。
・・・
いや、無理だから。
簡単そうに思えたり、見えたりするものって案外奥が深いし、似て非なるものっていう言葉を知らないんじゃないか、この人たち。
俺と同じようなことをすると、おそらく死ぬ。
心の声です、はい。
「かなり危険なこともあるから、やめた方がいいと思うよ」
俺はそう言ってみたが、どこまで効果があるのかどうか。
「さて、特に変わったこともないのなら俺は行くよ」
そう言って立ち上がる。
嫁がすぐに声をかけてきた。
「晩ご飯まだなら、食べて行けば?」
は?
おいおい、今まで俺のご飯なんてなかっただろ。
金があるとわかった途端にこれか。
それに嫁さん、あんたの料理では俺の心は動かないよ。
まぁ、もう今となってはどうでもいいけど。
「いや、外で食べる約束があるから・・」
「あ、そう・・」
嫁が少し残念そうな顔をしたが、どうでもいい。
「じゃ、また。 お義母さんも・・失礼します」
俺はそう言いながら玄関に向かって行く。
凛と颯が玄関まで見送ってくれた。
「パパ、また明日ね」
凛がスラちゃんを抱えて言う。
「テツ、また明日」
颯もバーンを頭に乗せて笑顔で見送ってくれる。
これはこれで複雑な感じだな。
珍しく嫁さんとお義母さんも玄関まで来ていた。
俺は、軽く頭を下げて嫁の家を後にする。
俺は歩きながらギルドへ向かった。
いや、しかし・・金の話をした途端、一気に空気が変わったな。
3000万ギルなんて言わなくて良かったよ。
本気でそう思った。
俺的には、嫁はどうでもいい。
ただ、子供たちはかわいい。
これからは難しい付き合いになるな。
そう思いつつも、普通に接していれば問題ないかとも考えた。
すぐにギルドに到着する。
3階のラピット亭へ向かった。
ここの食事はおいしかったからな。
いい匂いに誘われながら、中へ入る。
「いらっしゃいませ~」
店内に入り、声を聞きながら待っていると、店員がやって来た。
1人だと伝えるとカウンターへと案内される。
店の中は満員ではないが、結構人がいる。
俺は今日のお勧めを頼んだ。
ロックバードもおいしかったが、お勧めでいいだろう。
カウンターに座り、店を眺めてみる。
・・・
こうしてみると、やはり異世界の感じがする。
いや、RPGの世界か。
とにかくどちらも混ざったような世界だな。
宇宙へ行く文明を持ちながら、その人の活動は魔法の影響下なのかもしれないが、身体を使ったものがほとんどだ。
だからこそ健康的といえるのかもしれない。
病気も魔法でほとんど治ってしまう。
本当に素晴らしい。
そんなことを考えていたら、食事が運ばれてきた。
「今日は、レッドクラブの煮込みです。 残りは後で運んできますね」
店員はそういうと大皿を置いてカウンターの中に入って行った。
見ると、カニだ。
赤いカニだな。
一口食べてみると、なるほど・・カニだ。
しかもおいしい。
俺は一気に食べ始めた。
食べていると、次の品が運ばれてきた。
俺の食べているのを見た店員が笑いながら言う。
「お客さん、そんなにお腹空いていたのですか?」
そういいつつ、2枚皿を置いて行く。
パンのようなものと、フルーツのようなものが乗っていた。
それも食べていたら、俺に声をかけてくる人がいる。
聞いたことのある声だ。
「あら、あなた・・ギルドにいた人ね」
声の方を向いたら、少し前にギルドで声をかけてきた女の人だ。
俺は口の中に食べ物が入ったまま、
「どうも・・」
と返答。
女の人は別に構うことなく言葉を続ける。
「ここで会ったのも何かのご縁かも。 どう、私たちのパーティと一緒にダンジョンに潜らない?」
女の人がそういうと、俺の横のおっさんがこちらを向いた。
「あんた、プローメスさんから声をかけられるなんて、なかなかないぜ」
その横にいた人も同じようなことを言っていた。
「そうそう、うらやましいぜ」
こいつら、酔っ払ってるだろ。
だが、俺はもしダンジョンに行くならフレイアとか優たちだろうなと思っていた。
ここは丁重に断ろう。
「プローメスさんでしたっけ? 私はテツといいます。 とてもありがたい申し出なんですが、他にやる仕事がありますので、申し訳ありませんがお受けできません。 すみません」
俺はいったん食事を中断して、立ち上がり返答する。
「そう、残念ね。 また機会があったらよろしくね。 お食事中に失礼したわね」
そういってウインクすると、背中を向け店の奥へ移動して行った。
後ろ姿が色っぽいぞ!
横のおっさんが、また言ってきた。
「いやぁ、惜しいことをしたなあんた。 あの人、なかなかパーティを組んでくれないんだよ」
その隣の奴もしゃべりだした。
「そうなんだよ。 パーティメンバーは決して強さで選んでるんじゃないみたいなんだが、なんだかなぁ」
「そういうわけ。 ほんとにあんた惜しいことをしたよなぁ・・」
おっさんたちはそういうとまた酒を飲んでいた。
俺も残りの食事をサッサと済ませて、店を出た。
途中から食事の味がわからなくなったな。
まぁ、カニがうまかったからいいか。
そんなことを考えながら、家まで歩いて行く。
空を見上げるとやはり星がきれいだ。
地上で見るよりも鮮やかに輝いている。
星空を見ながら家に到着。
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