第196話 良かった、本当に良かった


「前の王国のときも、完全に対処することができなかったからね。 その残党が転移してきたのだろう。 また、奴隷などにされてるのは、獣人やエルフ、光の神以外の信仰の人達だろうと思うよ。 全く・・」

アニム王がつぶやくように言う。

フレイアは静かに聞いている。

俺も言葉が見つからない。


そんな俺たちを見てアニム王がパッと雰囲気を変えた。

「いや、これはすまない。 王国の政務に関する問題だったね。 余計なことを聞かせてしまった」

「アニム・・」

「いえ、アニム王・・余計なことではないと思います。 私も王国の住人になったのですから」

「ありがとう、テツ」

アニム王が微笑んでくれる。

「それにしてもテツ、君の冒険探索がかなり役立っているよ」

アニム王が俺を褒めてくれた。

「本当ですか? 俺は、いや私は自分の好き勝手に動いているのですが・・」

「それが良いのかもしれないね。 それに、君のいたところの地上とだが、近々定期船を就航することになるかもしれないと、ミランが言っていたよ」


!!

「定期船、ですか?」

俺は驚いた。

まさかそんな話が出来上がってきていたとは。

恐ろしいスピードで物事が進んでいるんじゃないのか?

俺の尺度では・・無理だな。


「そう、定期船だ。 そうなれば、地上との行き来は楽になるし交流もできる」

アニム王は軽く言う。

そんなアニム王を見ながらフレイアが、ようやく言葉を出してきた。

「アニム・・レイアの目だけど、本当に治るの?」

そうだった。

それが一番大事なことだった。

俺は反省。


「フレイア、問題ないよ。 治療師に聞けば、完全に回復できると言っている。 もしダメなら、私が時間遡行じかんそこうを行うよ」

!!

「え? でもアニム・・それってあなたの・・それに遡(さかのぼ)れる時間って・・」

フレイアが言葉を選びつつ、不安そうにアニム王に聞く。

「72時間だよ。 それに、私の命数が減るわけでもない。 時間だが、レイアが転移してきてどれくらい時間が経過しているんだろうね?」

アニム王が笑いながら答える。

!!

「レイアが転移してきたのって、私たちよりも随分後だわね。 帝都の住人が移動してきた時くらいかしら・・なるほど」

フレイアはホッとしたようだった。


その時、俺たちのいる部屋の扉がゆっくりと開かれていく。

俺たちはその扉の方を見た。

フレイアにそっくりな、美人の女の子が立っていた。

横にいた女の人が一礼をして、後ずさる。

「姉さん・・」

レイアの声だ。

フレイアはレイアの方を見つめながら、わずかに震えていた。

左手を口に当てて、しっかりとその声の方を見つめている。

・・・

フレイアの頬に大粒の涙が流れていた。


レイアはゆっくりとそしてしっかりとした足取りで、俺たちの方へ歩いて来る。

アニム王の近くまで行くと、アニム王をしっかりと見て深々とお辞儀をしていた。

「アニム様、本当にお世話になりました。 ありがとうございます」

アニム王は微笑んで軽くうなずく。

「レイア、気にすることはないよ」


レイアは元の状態に戻ると、フレイアの目を見つめて震えていた。

「姉さん・・」

フレイアは言葉を発することなく、何度もうなずいている。

自然とフレイアはレイアをギュッと抱きしめていた。


本当に良かった。

完全に目を潰されていたからな。

刀傷で横一文字に斬られていた。

見てるだけで痛そうだった。

しかし、斎藤だっけ?

あいつらのいる集団は、ロクなものじゃないだろう。

俺はそんなことを思いつつも、レイアとフレイアの喜びあってる姿を見ると、素直に今を喜ぼうと思えた。


「テツ・・」

アニム王が親指で合図し、俺たちは外へ出た。

「姉妹で積もる話もあるだろう」

「そうですね。 アニム王、本当にありがとうございました」

俺は心からお礼を言う。

「テツ、当然のことをしたまでだよ。 気にすることはない」

アニム王は普通に答える。


「テツ、後はよろしく頼むよ。 私はまた公務に戻らないといけないからね。 あ、そうそう、また後でギルドに寄ってもらっていいかな。 今回の報酬とミランから何か話があると聞いているよ」

アニム王はそういうと、公務に戻っていった。

報酬って・・俺、そんなに仕事をしたのかな?

そう思いつつも、ギルマスの呼び出しの方が気になった。

誰かに呼ばれるって、何か俺のトラウマでもあるのか?

良い方向へ考えれないんだよな。

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