第192話 ギルティ!


その身体にまとっている雰囲気、この斎藤という男・・尋常じゃない。

俺には勝てないという感じが、戦う前からわかる。

普通ならば、な。


「なるほど、単なるアホでもないというわけか・・」

斎藤は完全に上から目線で語ってくる。

だが、侮っている感じではない。

「ところで斎藤さん、俺たちをこの場で始末する気ですか?」

普通に会話するように俺は聞いてみた。

斎藤はフッと鼻で笑いながら話す。

「いらぬものを見てしまったからな。 そうなるだろう」

「そうですか・・仕方ないですね。 それよりも聞いてもいいですか?」

俺は話しかけてみる。

斎藤は両肩の力を抜き、いつでも戦える状態だ。

「斎藤さん、あの檻の中の女の子の目なんですが、誰が潰したのですか?」

「フフ・・聞いても無駄になる。 知る必要はあるまい」

斎藤がフッと笑う。


さて、俺も無論やられてやる気はない。

俺は一歩前に出る。

この一歩はかなり勇気が必要だった。

踏み出すと同時に斬られるんじゃないかという緊張感。

だが、斎藤は動くことはない。

斎藤と3メートルくらいの距離があるだろうか。

抜刀すれば当たる距離だ。

部屋は狭いが、仕方ない。

俺は集中していく。


俺は、ふぅ・・とゆっくりと息を吐く。

斎藤はまだ動かない。

まずは俺の動きを見ようということかな?

そんなことを思ってみたが、半歩すり足で前に出ると、斎藤がいきなり抜刀してきた。


!!!

うぉ!

まるで無駄がない動きだ。

滑らかに斎藤を中心に腕が円を描いている。

それに沿って刀が滑ってくる。


そう、見える!


普通の状態だったら、見ることもできない速度なんだろうと思う。

だが、レベルのある世界だ。

レベル差が、斎藤と俺とではかなりある。

その恩恵だろう。

斎藤の抜刀を見つつ、それに合わせて俺も抜刀する。

斎藤の刀を下から弾きあげた。


ギン!!


斎藤の刀が折れ、剣先が天井に突き刺さる。

俺は刀をまた鞘に戻した。

斎藤はかなり驚いているようだ。

「き、貴様・・やはり居合か何かを・・だが、そんな型は見たことがない」


そりゃそうでしょう。

我流ですから。

「斎藤さん、剣は持ちやすいように持てばいいって、宮本武蔵も言ってませんでした?」

俺は冗談交じりに言ってみた。

余計に斎藤を刺激したみたいだった。

顔が鬼の形相になっている。

「グッ、貴様!」


いくら斎藤が気持ちを高めたところで、身体が実力差を感じている。

無理だろう。

ただ、レベルが無ければ俺は即死だっただろうと思う。

自分が斬られたことすらわからなかったのではないか。

そう思う。

斎藤もそう思っていただろう。

「ところで斎藤さん、もう1度伺います。 この檻の中の子の目って潰れてますが、誰がこのようなことをしたのかご存知ですか?」

俺はそこが知りたかった。

「・・・」

斎藤は黙っている。


俺がゆっくりと一歩踏み出す。

斎藤が一歩下がる。

もう一歩踏み出したら、斎藤の後ろから声がした。


「いや~、まさか斎藤さんが勝てない人がいるとは思いませんでした」

斎藤に近寄りながら、微笑んでいる男がいた。

泉だ。

「え~と、テツさんでしたか。 以前、この辺りでお会いしましたね」

泉進いずみすすむ

やはりこいつがこの街を作っていたのか?

俺は直感的にそう思った。


泉を見つつ、改めてレイアのことを俺は聞く。

「泉さんでしたね。 この檻の中の子の目、明らかに何者かに潰された目です。 ご存知ないですか?」

「ええ、知ってますよ。 その子がどうしてもこちらの指示に従ってくれなくて・・我々としても、仲間を守るために仕方なかったのですよ」

!!

フレイアが立ち上がって、飛びかかろうとした。

俺が制止する。

「はなせテツ! こいつが、レイアを・・」

「フレイア、わかっている」

俺も怒りを押し殺して、あえて冷静さを装う。


「我々も、何人か仲間を失いました。 ですが、テツさんも街の外の状況はご存知でしょう。 魔物があふれる世界になって、もはや今までの世界ではありません。 ですから、我々の街に来てもらおうと思ったのですが、敵対されましてね。 どうしても仕方なかったのですよ」

は?

仕方がなかっただと!

このクソガキ・・いや、ガキじゃない、クズ野郎が。

言葉は通じたはずだ。

それをこんな・・。

俺の心の中では汚い言葉が溢れていたが、呑みこむ。

「泉さん、あなたがやったのですか?」

俺は静かに聞く。


「いえ・・」

泉がしゃべると同時に、泉の横にいた女が代わりに答えていた。

「仕方がないから、斎藤さんに戦ってもらいました」

「小野さん・・」

泉がその女の方を向いてつぶやいている。

!!

その瞬間に俺は全力で飛び出して、斎藤を斬りつけた。

飛び出したというより、勝手に身体が反応した感じだ。

斎藤の右わき腹から切り抜けて、刀を切り返し、両手で持って頭から地面に刀を振り抜く。


相手にしてみれば、何が起きたかわからないだろう。

おそらくまばたきよりも速く動いている。

泉たちにすれば、ようやく今、俺が視認できたところだろうか。

一瞬で自分たちの横に現れたと感じたに違いない。

俺はそんなことを気にするでもなく、そのままゆっくりとフレイアの方へ歩いて戻った。

前と同じような位置に戻り、泉たちの方を向く。

泉たちは言葉もなく、動くこともできずに俺を見ている。

・・・

斎藤は蒸発していた。

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