第190話 レイア?


やや大きな、体育館のような建物の前でフレイアが止まった。

「ここなのか?」

フレイアは無言でうなずいていたが、顔が真剣な表情になっている。

「どうしたんだ、フレイア?」

フレイアのあまりにも真剣な顔に、俺は驚いている。


「うん・・この魔素・・なんか知ってる感じがするのね。 だけど、弱々しくてはっきりわからないの」

フレイアはおそるおそる俺に言ってくる。

とにかく中に入ればわかるだろう。

俺はそう思い、建物の中に入って行く。

!!

入った瞬間にわかった。

奴隷を扱ってる店のようだ。

変な匂いはしない。

だが、気持ちのいいものではない。

なるほど、アニム王の国とは違うわけだ。

こういった建物はなかった。

街を作った連中は、こういった施設を許容しているということか。

そりゃ、妙な違和感を感じるわけだ。

俺はそう思いながら、建物の中を見渡す。


受付の男が、こちらをジロッと見る。

「何か御用ですか?」

受付の男が低い声で聞いてくる。

「え? あ、はい、こちらは何の店なんです?」

俺は少し返答が遅れたが、聞いてみた。


男はふぅ、と息を吐きだしながら、面倒くさそうに答える。

「旦那、食堂に見えますかい?」

俺は一瞬ピクッとなる。

明らかになめてるな。

そう感じたが、無視することにした。

「いや、俺の感覚が間違えてなければ、奴隷商に見えるんだが・・」

「へい、その通りです」

受付の男は憮然とした態度で答える。

この空間だけでも、檻に入れられていて首輪をされているものがいる。

隠そうともしていない。


「そうか・・俺の感覚は間違えてないな」

まさか、こんな異世界テンプレの施設があるとは。

とはいえ、別に驚くこともない。

ラノベは俺に耐性をつけてくれたらしい。

ただ・・さっきから奴隷商の男が俺を見つめている。

男に見つめられてもうれしくないんだが。

「旦那・・人間ですよね?」

はぁ?

何言ってるんだ、こいつ!

!!

俺はすぐにわかった。

俺を鑑定していたんだな。


「人間だが、何か見えたか?」

俺はニヤッとしながら返答。

男はやや驚いたような顔をしつつ、

「い、いえ、なんでもありません」

「俺を鑑定できなかったか」

俺は試してみる。

図星だったようだ。

男は明らかに焦っている。

「おっさんはレベル23なんだな」

俺がそう言うと、受付の男は驚いた表情をする。

顔に汗が浮かんできていた。


おっと、忘れていた。

こんなおっさんに構っているところじゃない。

フレイアに向き直った。

「で、フレイア・・その弱々しい魔素はどこだ?」

俺はフレイアに聞く。


フレイアが震える手で建物の奥の方を指さした。

「おっさん、あの奥の部屋を見せてもらっていいか?」

受付の男は引きつったような顔をしている。

「いえ・・あの部屋はちょっと・・」

どうも見せたくないらしい。

「おっさん、見せてくれ。 別に減るものでもないだろう」

俺は男を見つつ言ってみた。

こんな場合はきんでもあれば渡してやるんだが、持ってないしな。

男は少し震えているようだった。

あの部屋に何かあるのか?

余計に見たくなってきた。


「おっさん、あの部屋に何かあるのか?」

俺はさらに聞いてみる。

「いえ、捕まえられた奴隷がいるのですが・・汚れていて、その・・売り物にならないんです」

受付の男は答える。

「そうか、だったら見ても問題ないだろう」

俺は遠慮なく奥の部屋へ向かう。

フレイアも一緒についてきた。

フレイアが先ほどからしゃべらなくなっている。

何かあの部屋にあるのか?

そう思いつつも、部屋の前に来た。


受付の男が、旦那困りますなどと言っているが、無視だ。

俺はゆっくりと扉を開ける。

それほど広い部屋ではないが、檻が1つ隅の方に見える。

檻の中の人? 

まるで死んでいるようだ。

俺が部屋に入って見渡してみる。

それほど汚い部屋でもないなと思った。

檻の前でフレイアが立ち止まっている。


フレイアが震えていた。

「フレイ・・・」

俺は声をかけようとしたが、やめた。

フレイアが片手で口を押えて、震えながら小さな声でつぶやいているのが聞こえる。

「・・うそ・・」

フレイアの目線の先、檻の中に優と同じくらいの大きさの子だろうか。

首輪をした子が横になっていた。

かろうじて息をしている感じだ。


フレイアは檻の前で膝をついて座ってしまった。

身体は震えている。

俺はようやく声をかけることができた。

「フレイア、どうしたんだ?」

俺はできるだけ優しく話しかけた。


「レイア・・」

フレイアが弱々しくつぶやく。

??

「何?」

俺にはよく聞き取れなかった。

「レイア」

また同じようにつぶやいている。


「レイア?」

俺はフレイアの言葉をオウム返しに口にした。

フレイアがうなずく。

俺にはまだ状況がよくわからない。

「フレイア、レイアって・・」

フレイアの横に片膝をつき、聞いてみた。

「妹なの・・でもどうして・・」

!!

「フレイアの妹さんなのか!!」

俺は、やや大きな声を出したようだ。

檻の中の子が、動いたような気がした。

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