第186話 やるしかないようだ


・・

・・テ・・ツ・・テツ!

気がつくと、フレイアが俺の腕をつかみ呼んでいた。

心配そうに俺を見ている。

「テツ、大丈夫? 呼んでも返事もしないし・・」

「え? 今、辺りが暗くなってなかったっけ?」

「は? 何言ってるの? テツがほんの少しボーッとしてたから、心配したのよ」

フレイアが俺を覗き込むように見る。


「俺がボーッとしてたって?」

「うん。 あのフェニックスを見てから少しの間だけど・・」

フレイアが不安そうに答える。

今、確かに目の前にフェニックスがいた。

そして、俺に語り掛けてきていた。

幻影?

いや違う。

そうか・・あの映像は、フェニックスと俺の念話というか、固有世界の出来事だったのか。

なるほど・・俺はゆっくりと前を向く。


「フレイア、どうやらあのフェニックスは、俺と戦いたいようだ」

俺は説明するのが面倒なので、とりあえず起こるであろう出来事だけを伝えた。

!!

「え? テツ、フェニックスと戦うの? 冗談でしょ?」

フレイアは少し焦ってる感じだった。

「冗談ではないのだが・・さっき、フェニックスがお前の力を見せてみろと言ったんだ」

俺は先ほど起こった出来事をフレイアに伝える。

「なるほど・・それでボォーッとしてたのね」

フレイア、理解早いな。

俺はうなずいて、フェニックスをみつめる。


サラマンダーがフェニックスから離れていった。

ある程度距離をおいて待機している。

よくしつけられてるな。

そんなことを思いつつも、俺もフェニックスに向かった歩いて行こうとした。

フレイアが俺の腕を軽くつかむ。

「テツ・・」

「フレイア、たぶん大丈夫だと思うよ」

なんとなくだが、一方的に命を奪われるような感じはしない。


「私も一緒に戦った方がいいのかな?」

フレイアがつぶやくように言う。

「いや、それはダメじゃないかな・・そんな気がする。 俺が動けなくなったら、回復を頼むよ」

俺はフレイアにそう言って、フェニックスに向かって歩いて行った。


フェニックスの前に立つ。

改めてフェニックスを見ると、確かにきれいだ。

その姿が揺らめいている。

熱くはない。

真紅になったり、淡いオレンジ色になったりと炎が揺れ動いている。


クェェェ!!!!

突然、フェニックスが吠える。

言葉がわかるわけじゃない。

でも、先ほどの出来事は夢ではないだろう。

とにかく、戦わなきゃいけないと思う。


フェニックスは、来いと言っているようだ。

俺は、遠慮なくダッシュした。

ダッ!!

一気にフェニックスの真下に到達する。

そのままの勢いで、刀を抜いて横薙ぎ。

フェニックスが急いで上空へ羽ばたきながら俺の刀をかわす。

だが、その尻尾の部分はかわせなかったようで、尻尾の先を少し切り落とした。

フェニックスはやや驚いたようだ。


俺の目の前でゆっくりと羽ばたきながら滞空していたが、一振り大きく羽ばたいた。

その羽ばたきに乗って、火の塊が向かってくる。

まるでフェニックスの身体が迫ってくるようだ。

どこに飛んでも避けれそうにない。

俺は刀でその火の塊を斬ってみた。

スパッ!

手ごたえはない。

だが、火の塊は二つに分かれて、俺の後ろに着地したようだ。

同時に火の柱が出来上がっていた。

俺の後ろから、ものすごい熱風を感じる。

まるで竜巻のような圧力風だ。


フェニックスが先ほどよりも高く上空へ舞い上がる。

俺の上でぐるりと一回りすると、またも大きく羽ばたいた。

キラッと光ったものが見えたかと思うと、火の矢のようなものが無数に落下してくる。

!!

避けれる場所はない。

俺は目の前に迫っている矢だけに対処した。

何本かは俺の腕や足をかすめて行く。

「グッ!」

痛いというより、熱い感じを受ける。

だが、直撃だけは免れることができたようだ。

火の矢が全部地上へ落ちてきて、俺の後ろの炎のような竜巻と相乗効果だろうか、

大きく熱爆発を起こした。


ドッゴォォォォオオーーン!!


俺の周りは、炎の激流のような感じになっている。

動けば巻き込まれるだろう。

ただ、俺の立っている位置は竜巻の中心付近にいるような感じだと思う。

・・・

しばらくすると、その爆裂の余波も消えていった。

まだ、煙などは残っているが。

サラマンダーがいる辺りまで、半径100メートルくらいだろうか。

地面を穿うがちつつ、キラキラと光っているところがたくさんあった。

熱で土の部分がガラス化したようだ。


フレイアは後方へ下がっていて、魔法で防御していて無事みたいだ。


俺も自分のいる位置だけは爆発の中、無事とはいかないが、どうにか存在できた。

爆発が起こった時に、自分の周りに向かって刀で円を描いていた。

じいちゃんの付与能力、絶対切断にかけるしかない。

そう思って、ぐるりと刀を振ってみたのだが。

これは大成功だったようだ。

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