第179話 澤田さん、いい街づくりをしてくださいね


ギルマスは『失礼する!』といって立ち上がった。

帝都の使者の方へ行き、何やら話をしている。

俺は澤田さんの方を向いて、

「澤田さん、これからにぎやかになりそうですね」

「ええ、そうなればありがたいです」

・・・

・・

さて、後はここにいても邪魔になるだろう。


「澤田さん、俺たちはそろそろ出かけようと思います」

「そうですか・・では、また立ち寄ってくださいね」

澤田さんはそういうと、俺と握手をした。

すると、何やら女の子の会話が聞こえてきた。

「・・そうよ、絶対そうよ」

「でも違ってたら、恥ずかしいし・・」

「由美、間違いないわよ」

「久美は簡単に言うけど・・茜、あなたが声をかけなさいよ」

「な、何で私が・・」

・・

何やら騒がしいな。

俺はその声の方を向く。


女の子たちの目が大きくなった。

お互いに向き合ってうなずいていた。

「「やっぱりそうだ」」

俺は後ろを振り向いてみる。

誰もいない。

澤田さんを見ているのか?

俺がそんなことを思っていると、女の子3人がおそるおそる近寄って来る。


「あ、あの・・少し失礼します」

1人の女の子が声をかけてきた。

澤田さんを見るのではなく、俺を見ていた。

マ、マジかよ!

こんな若い女の子たちから声を掛けられるなんて、もしかしてモテ期がやってきたとか?

これもレベルアップのおかげか?


俺は少し驚きながらも返事を返す。

「は、はい」

「もしかして・・あなたは・・少し前に名古屋でオーガを倒しませんでした? 戦車とか振り回していた魔物ですが・・」

・・

俺はすぐに思い出した。

確かアニム王に会いに行った時だな。

死にかけた時だ。

「え、えぇ、確かにそんなこともあったと思います。 よく知ってますね」

俺は取りあえず無難に言葉を返す。


「ね、由美・・間違いなかったでしょ」

「う、うん」

女の子たちは少しうれしそうだ。

「それがどうかしたのですか?」

俺は聞いてみる。

「えぇ、実は・・私たちもその現場にいたのです」

俺は驚いた。

まさかあの現場にいたとは・・思わず言葉が出た。

「よく無事でいられましたね・・良かった」

「はは・・ありがとうございます。 なんていうのかな・・私たちも魔物に見つからないように、ただ隠れていただけなのですけどね・・」

女の子の声のトーンが小さくなる。

「何言ってるんですか。 生き延びただけでも凄いことですよ」


女の子たちはお互いに顔を見合わせて、俺にいきなり頭を下げてきた。

「「「ありがとうございました」」」

「え?」

俺は驚く。

「ど、どういうこと?」

「あの時、あなたがオーガを倒してくれていなければ、私たちはこの場にいなかったと思います。 ですからせめてお礼を言わせてください。 本当にありがとうございました」

「い、いや、そんな・・」

俺は返事に困る。

「あの・・もしよかったらお名前をお聞きしてもいいですか?」

女の子の1人が言う。

「あぁ・・俺はテツっていうんだ」

「テツさん、ですね」

「「テツさん、本当にありがとうございました」」

女の子たちはとてもうれしそうにはしゃいでいた。

「私たち、この街で生活するのですよ。 テツさんもまた遊びにきてくださいね」

俺は驚く。

遊びに来てくれって・・こんな若い女の子に声をかけられたら、うれしくないはずがない。


「あ、あぁ・・ありが・・うぐっ」

「ごめんねテツ、ちょっと肘が当たっちゃった」

フレイアのボディブローだ。

女の子たちには見えなかったらしい。

やっぱ、エルフって狂暴か?

「テツさん、大丈夫ですか?」

女の子が心配そうに見てくれている。

「う、うん・・大丈夫だよ。 何にしても生きているっていいことだよ」

俺は死にそうだが。

「「「はい!」」」

女の子たちは元気に返事をすると、ギルドを後にした。

え?

それだけ?

俺の名前を聞いて、リップサービスを付け加えただけ?

それで俺がフレイアに殴られたのか?


澤田さんが近寄ってきて言う。

「彼女たちもフラフラでこの街にやってきたのです。 今ではしっかりとした戦力ですけどね」

「そ、そうなんですね」

「何か、テツさんに助けてもらった人ばかりが集まっている街ってイメージですね」

俺は慌てて否定する。

「ま、まさか・・たまたま偶然が重なっただけですよ」

俺の言葉に澤田さんは微笑んでいるだけだ。


さて、ここでの用も済んだようだ。

「フ、フレイア、行こうか」

フレイアは笑顔でうなずく。

怖い奴だな。

帝都からの使者に軽く会釈し、建物の外へ出る。

外にはワイバーンと騎士団の人だろうか、がいた。

その横を通って、俺たちは街の入口の方まで来た。

澤田さんが最後まで見送ってくれる。

「では、町田さん、お気を付けて」

「ありがとうございます。 澤田さんこそ無理をなさらないように」

俺たちはまた握手を交わし街を後にする。


フレイアと俺は東京の方へ向かう。

移動は高速道路を伝っている。

フレイアはポーン、ポーンと軽く跳ねながら移動。

いつみても、羽のようだ。

だが、俺と同じくらいの速度で移動している。


時間は10時を過ぎていた。

澤田さんのところを出て名古屋辺りを経由だな。

以前の移動と同じルートでいいだろう。

もう、レベルの低い・・といっても、レベル20くらいの魔物は無視している。

また、俺のスキルで魔物には見つかりにくい。

戦闘になればバレるだろうが、単に移動なら問題ない。

フレイアは元々敵には見つかりにくいそうだ。


すぐに名古屋駅付近に到着した。

少し歩いて、名古屋駅辺りを回ってみる。

人のいる気配はない。

そんなに都合よく街ができるわけはないか。

そう考えながらも索敵を行ってみた。


ピピ・・。

レベルのある魔物が2体引っかかった。

栄町方面に1体、レベル38:ミノタウロス

近くに1体、レベル40:サイクロプス。

サイクロプス、何だそれ?

ミノタウロスは以前戦ったことあるが、サイクロプスは初めてだな。

そう思うとともに、フレイアに相談してみた。

「フレイア、レベルの高い魔物が2体いる。 俺としては両方倒したいと思っているが、どうだろう」

「どのみち倒すんでしょ? 大丈夫じゃない」

「そ、そうか・・ありがとう」

フレイア、軽いな。

フレイアにサイクロプスのことを聞いてみたが、あまり知性の高い魔物じゃないという。

力任せに迫ってくるらしく、破壊力はすさまじいが脅威ではないと平気な顔をしていた。

・・

本当に大丈夫か?

俺は念を押そうかと思ったが、フレイアの軽い表情を見ると言葉が出せない。

案外、何とかなるものかもしれない。

だが、レベルがレベルだ。

フレイアもわかっているはずだが・・。

う~ん・・考えてもわからないし、どうせ戦うんだ。

そう思うと、俺は考えるのをやめた。


「じゃあフレイア、ミノタウロスから倒そうと思うが、戦ってる最中にサイクロプスに気づかれるかな?」

俺は懸念を伝えてみる。

「おそらく、気づかれるわね」

・・軽いな。

「そ、そうか、なるべく早く倒さなきゃいけないな」

フレイアにそういいつつも、大事なことを思いだした。

そうだ!

フレイアとパーティを組んでいなかった。

そりゃ、ソロの方が経験値は入るだろうが、フレイアとなら分けあっても嫌じゃない。

問題はフレイアの方がどうかだが。


「フレイア、俺とパーティ組んだ方がよくない?」

「いいわよ、パーティ」

フレイアは軽く答えてくれる。

「いいのか、フレイア。 得られる経験値を分けることになるけど・・」

「別に問題ないわよ。 それよりもテツが嫌なんじゃないかって思ってたから」

「そうか・・それは悪かったな。 せっかく相棒になってもらったのに、失礼なことをしていたな。 ごめん」

俺は素直にフレイアに謝った。


「べ、別にいいわよ、テツ! そんなの気にしてないし! いちいち謝ってたら時間がもったいないでしょ!」

フレイアはプイッと背中を向ける。

かわいいなぁ、フレイア。

さて、気を引き締めてミノタウロスの討伐だ。

フレイアとパーティを組んでもらった。


俺たちはミノタウロスの近くまで移動する。

相手は気づいていない。

だが、前もこいつは気づかないふりをしていたからな。

そう考えたら、俺は堂々とミノタウロスに向かって歩いて行く。

フレイアは俺のやや後ろの方から一緒に移動してくれている。


ミノタウロスはやはり気づかないような感じで、斧を両手で持ちゆっくり歩いていた。

そのところへフレイアが弓で矢を放つ!

ヒュン!

俺の顔の横で風を切る音が聞こえたかと思うと、ミノタウロスの右腕に3本の矢が刺さった。

さすがに相手も気づかないふりはできないだろう。

こちらを向いて凝視した。


斧を両手で持ち上げて、大きく叫ぶ!

「ウオォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」

叫び終えると、こちらに向かって一気に走って来た。

それほど速くないが、その威圧感は半端ない。

感じ的にはトレーラーがこちらにまっすぐ向かってる迫力だ。

やはり、いきなり矢を放たれたら怒るよな。


俺もミノタウロスに向かって走りだす。

フレイアは即座にミノタウロスの矢の刺さった方向へ、円を描くように移動する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る