第164話 あんた、準備は要らないのか?


「ウルダさん、俺ってそんなひどい顔をしてました?」

「ハハハ、今にも泣きそうだったぞ」

ウルダが背中をバンバン叩いてくる。

ちょっと痛いよ、ウルダさん。


「テツ君、地上にいた審議官は何という名前だった?」

ギルマスが俺に聞いてくる。

「あ、はい。 ココって女の子なんですが、地球人に協力していくって気合入ってた感じでしたね」

俺がそう答えると、ギルマスの顔が変わる。

「ココって言ったのか? その審議官は・・」

ギルマスが驚いていた。


「ミラン、知っているのかね?」

アニム王がギルマスに聞いていた。

「いえ、私も詳しくは知りませんが、ギルドネットワークの中で名前は聞いたことがあります。 小さい女の子なんですが、神官の適性が生まれたときからあったとか・・」

「それはいいね。 神職にもってこいだな」

アニム王、もしかしてギャグを言ったのか?

誰も突っ込むことなくスルーしている。

言ったアニム王も何も気にしていない。

俺も聞かなかったことにしておこう。


「では、王様、私はギルドでまた情報収集をしてみます」

「頼むよ、ミラン。 何かあったらよろしく」

ギルマスを見送ると、アニム王が俺達の方を見る。

「さて、テツはこれからどうするのかな?」

アニム王が声をかけてくる。

「あまり先のことは考えていませんが・・とりあえず、いろいろな場所を見ていきたいと思います。 あ、まだ遺跡巡りはしませんけどね」

「そうか・・特に急ぎのことがなければお願いしたいことがあるのだが・・」

アニム王が俺の方を向いて言う。

「テツの居た場所に、新しく街が出来つつある。 先に騎士団員と政務官を派遣してあるから、地上の審議官かギルドがあればギルドマスターのところへ行って、ダンジョンの設置を一緒にしてもらいたいんだ」

「ダンジョン・・ですか」

俺はただオウム返しで言葉を繰り返す。


「うむ。 ダンジョンの役割は前に説明した通りだよ。 地上の街にも設置してもらいたいんだ。 あれば、いろいろと便利だからね。 魔素が安定して災害が起こりにくくなるし、魔石の供給源にもなるだろう。 それに、冒険者などのレベルも上げることも可能だ。 まだ、ギルド間のネットワークが確立されていないが、そのうちできるだろう。 どうだろう、行ってもらえないだろうか」

俺に断る理由はない。

俺の居た場所だし、いろいろと融通が利くだろう。

その辺のことも考えてアニム王が提案してくれたのかもしれない。

俺はありがたく、返事をさせてもらった。


「はい。 喜んで行ってきます」

「そうか、頼めるかい。 ありがとう」

アニム王は申し訳なさそうに言う。

いやいや、今の俺があるのはアニム王のおかげなんですから、気にしないでください。

「いえ、お礼には及びません。 アニム王、お気になさらずに・・」

・・・

あれ?

ダンジョンって、誰が作るんだ?

俺の頭に疑問が浮かんだ。

だが、すぐに解決した。


「ではルナ、頼めるかい?」

アニム王が言う。

そうか、ルナさんと一緒に行くのか。

しかし・・爆弾を抱えて行くようなものじゃないのか?

「うむ。 よいぞ、アニムよ。 では、テツ行くか」

ルナはスッと立ち上がる。

早速ですか!!

あんた準備はいらないのか?


時間は14時を過ぎていた。

ルナと俺は本当にすぐに出発することになった。

当然ウルダもついてくる。

シルビアは会議が終わるまで、会議室の外で待っていたようだ。


「テツ、ゲートを使うといい。 テツの家に出れるからね」

「はい、使わせていただきます」

俺は素直に返事をする。

「なんだ、アニムよ。 我々は飛べるのだ。 下の街などすぐに着くぞ」

「ルナ・・地上にいるのは普通の人間ですよ。 いきなり頭上から飛んで行ったら怯えるでしょう」

アニム王がさとすように言う。

もっともだ。

「そんなものなのか・・人間は不都合だな」

どちらの意見も合ってるな。

俺は二人を見ていた。

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