第159話 それにしても、市長の演説は長い


生きてたんだ、あの市長。

そう思って見ていると、拡声器を持ち出した。

「え~、ここにお集まりの市民の皆様、ご無事で何よりです」

市長は集まっている人たちを見渡して、話を続ける。


「皆様、もうご存知だと思いますが、今の状況は昨日までのものとは全く違っております。 そんな中、本当によく生き延びてくださいました。 実は今朝、私どもが市庁舎周辺を検査しておりますと、見慣れない服装の集団の人たちと出会いました。 話かけてみますと言葉が通じるので会話しました。 すると、にわかに信じがたいことなのですが、異世界からやってきたということを言っておりました」

・・・・・

・・・・

市長は、異世界人と出会い、今の世界状況についていろいろ情報交換をしたようだ。


異世界人と今朝から5~6時間ほど協議をしていたという。

そして現在の置かれている状況がまるでわからない。

国や県の機関などとも連絡が取れない。

つまり、今の日本という国はどうなっているのかわからない。

わからないことだらけだが、異世界人との話の中から少しずつ今の状況を把握することができたと言う。

一言でいえば、まるでゲームのような世界になっているらしい。

そして現実に魔法なども使えることがわかった。

そんな中、常に他機関との連絡は取りつつも、この市は独立的な街としてやっていこうという考えになったらしい。


大丈夫か?


異世界人の魔法で建物などは瞬間的に建つし、異世界人の方がレベルも高い。

今朝からの協議の中での結果。

異世界人と言えども、その人格、ものの考え方などは十分信用に値するという結論に達したそうだ。

もし嘘をつかれていたらどうするのか。

今のような状態で、そんな嘘をついてまで丁寧に情報を交換するメリットはないだろうという。

そりゃ、その通りだ。

また、騙されているとしても、自分たちの建物の修復や怪我人の回復など、いろんな手助けをしてくれたという。

・・・

しかし、市長の話は余計なことも含めて長いな。


でも、この決断をしたのは市長ではないだろう。

俺はそう思いながら聞いていた。

あの人ができるとも思えない。

いや、もしかして危機に反応して目覚めたのかもしれないが、どうなんだろう。

そんな疑念を抱いていたが、市長の横に一人の市議が現れた。

なるほど、あの市議なら市長と一緒にできるだろうな。


市議は前の選挙で当選したところだった。

東京の商社から、実家の都合で帰郷し、少しして市議に立候補した人だ。

何でもかなりのやり手だという噂があった。

俺は政治に興味ないしなぁ。

ま、どうでもいい。

とにかく、これで少しはマシな状況になるだろうと思った。


市長の話がようやく終わって、異世界人の紹介が行われた。

ゾロゾロと現れて並んでいく。

20名ほどだろうか。

市長の話では、どうやら一部の人たちらしいが、代表ということになるだろう。

俺はすぐさまレベルを鑑定してみた。

注意深く見てみる。


なるほど、大体がレベル20前後。

1人レベル22っていうのもいるが、そんなものか。

そのレベル22の男? 女? がこちらを見た。

!?

まさか、俺のことがわかったのか?

いや、どうだろう、一瞬だったからな。

俺も油断していた。

俺は急いで目を逸らしたが、気づかれただろうか?

案外上から見ると、下に並んでいる人の動きは良く見えるからな。

う~ん・・ま、気にしても仕方ないか。


市長の話を簡単に説明すると、異世界人の社会システムを取り入れつつ、街を運営していきたいと言っている。

市民全員にライセンスカードを発行して、状況を把握したいという。

それに今の市の境界当たりに壁を作り、関所を作る。

ライセンスカードなんかは聞いていると、アニム王の帝都と同じような感じだな。

市役所周辺にいろんな公的施設と異世界人の住居を作るそうだ。

・・・

・・

まぁ、初めはそんな感じだろう。

そして、試しに異世界人が広場に降りてきて、建物を一瞬で作ってみせる。


「「「「おお~!!」」」」


と、皆驚いて声をあげていた。

・・・・

・・

「皆さん、これから大変な状況が続くと思いますが、よろしくご協力お願いします」

市長がそういって、とりあえず話は終わった。


田原さんが、少し興奮している。

「町田さん! 異世界人の魔法ってすごいですね。 それに、見た目は私たちと変わらないし・・言葉が通じてたのがすごいですね」


いろいろと疑問が湧いてくるようだ。

俺もあまり詳しいことは言えないので、

「そうですね・・言葉とかは、ラノベなんかにある言語変換の魔法なんじゃないですかね?」

などと、軽く答えてみた。


「なるほど。 そうかもしれませんね。 町田さんは、よくご存知ですね」

「い、いや・・オタクなだけですよ」

俺も笑いながらごまかした。

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