第134話 誰だっけ?



お茶を飲み、少し落ち着いたようだ。

「ふぅ・・すまないテツ」

「いや、こちらこそすまなかったシルビア。 移動が速すぎたな」

「私も情けない・・まさかついていけないとはな」

シルビアが自嘲気味みに言う。


「シルビア、気にするな」

ウルダが斧を振り回して声をかける。

ウルダさん・・斧出す必要ありますか?

俺の心の声です、はい。


「申し訳ありません、ウルダ様」

シルビアが頭を下げる。

「では、出発するか」

アニム王と話をしていたルナが言った。


移動は全く問題ないだろう。

おそらく、この地球上で最強だろう人物がいる。

アニム王にして、ルナもそうだろう。

ウルダもそれに近いくらいに強いと思う。

ただ、移動速度が問題だった。

俺もかろうじてついていける程度だ。

初めはシルビアに合わせていたが、アニム王がご機嫌になって自然と速度が上がったようだ。

・・・

明石大橋が見えてきた。


「きれいな橋だな・・」

ルナが言う。

「ルナさん、あの橋は明石大橋と言う吊り橋です」

俺が答えると、ルナは微笑みつつ指摘してきた。

「テツよ・・この星の住人は、技術力だけでものを建築するのだったな。 魔素が全く感じられない。 脆弱ぜいじゃくだ」

ルナは、そのはかなさに美を感じたのかもしれない。

そのまま橋をサッと通過し、淡路島を移動していた。

!!

ウルダが突然止まる。

ルナもアニム王も一緒に立ち止まった。

皆、同じ方向を向いている。

シルビアも同じ方向を見た。


高速バスの停留所だろう。

そこに人が現れた。

若い男の人のようだ。

こちらに向かって手を振っている。

誰だ?


ウルダが俺の方に近寄って来た。

「テツ、知っている者か?」

俺は考えていた。

「う~ん・・わかりません」

そう答えつつも、俺は手を振る男に近づいて行った。

ルナやアニム王は動くことはない。


男の顔を見ると、どこかで見たような、見てないような・・誰だっけ?


「すみません。 もしかして、ここを通過されたりするかと思って、時間ができたら様子を見に来ていたのですが・・覚えていませんか?」

男は微笑みながら話しかけてくる。

・・・

俺はよくわからないので、はっきりと言った。

「すみません、誰でしたっけ?」

若い男は少し驚いた顔をした後、大笑いしていた。

いや、ギャグを言ったつもりはないのですが。


「あはは・・すみません。 私が強烈に覚えていたものですから・・あの救命会病院で助けていただいた・・」

!!

思い出した!

「澤田さんですね!」

若い男はにこっとして、はい、と返事をしてくれた。

「すみません、見たことあるような顔でしたが、思い出せずに・・」

俺は恐縮しつつ言った。


「いえいえ、こちらこそすみません。 移動中でしたか・・」

「澤田さんこそ、ご無事でなによりです」

そう言いつつも、俺は注意して澤田さんを見てみる。

レベルは16となっていた。

確か出会ったときは一桁だったような・・よく覚えていない。


「テツさんは、どちらへ向かわれているのですか?」

澤田が聞いてくる。

俺は少し警戒したが、正直に答えることにした。

「私は、あの人たちを連れて、自分の家に向かっているのです。 あ、徳島なんですけどね」

「そうですか。 私はあれから淡路島に来て、怪我をしている人などを回復して回ってます」

「そうですか・・それは良いことをされてますね。 それにしても、淡路島にも生き残ってる人がいるのですね」

俺は発言した瞬間に、しまったと思った。

生き残ってるとか、いうべきではなかったかもしれない。

「はい、この辺りもだいぶやられていたようですが、何とか少しずつ人が集まってきていますね」

澤田さんは気にすることもなく答えてくれる。


「澤田さんのおかげですね」

「いえいえ、そんなことはありません。 それよりも、テツさんに助けていただいたお礼を言ってないと思います。 本当に、ありがとうございました」

澤田はそういうと深々と頭を下げた。

俺は驚いてしまった。

「さ、澤田さん、やめてください。 そんな・・頭を上げてください」

俺は恐縮した。

別に明確な目的があって助けたわけではないはずだ。

記憶にすらほとんど残っていないのだから。

そんな俺に頭を下げられても、困ってしまう。


「テツさん、私はこの辺りで今は活動しています。 また機会があれば、是非お立ち寄りください。 移動中にも関わらず、お引止めして申し訳ありませんでした。 ただ、もしテツさんに出会うことができたら、一言お礼だけでもと思っていたものですから・・」

澤田は背中を伸ばして、俺を見つめながら話していた。

「いやいや澤田さん、そんなお気遣い・・恐縮です」

俺はペコペコと頭を下げるしかなかった。


こんなに人に謝意を向けられたことはない。

どう対処していいのかわからない。

「澤田さん・・では、またお邪魔させてもらいますね」

俺はそういうと握手をさせてもらった。

まさか人からこれだけ感謝される日が来るとは・・。

人生はわからないな。


(参考までに、澤田編です→https://kakuyomu.jp/works/1177354054915775280/episodes/1177354054916277066

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