第97話 クソ! え? なんだ、あの矢は・・
結果から見れば、
左右に避けても無事ではない感じがした。
後ろに下がろうものならなおさらだ。
ただ、ミノタウロスの振り上げた腕の脇辺りに隙間があるような感じがした。
俺はそこへ飛び込んだに過ぎない。
だが、その結果はベターだと言えた。
ドッゴォーーーーン!!!
斧が振り下ろされた辺りは、トロウルの炎を
地面も揺れているのだろう。
近くにあったマンションの残骸だろうか、一緒に崩れ落ちていた。
それが、俺が振り返った時に見えた景色だ。
だが直後、その土煙の中から大きな巨体がこちらへ向かってくる。
!!
息をする暇も与えないってか?
ミノタウロスは同じような攻撃を仕掛けてくる。
また俺も同じように脇を抜けようとしたが、途中で横へ飛んだ。
!
俺が抜けようとしたところに、ミノタウロスの尻尾があった。
「こいつ! 考えてやがる!!」
牛の頭のくせに、バカじゃないんだ。
それに俺の存在がわかるんだな。
スキルがあっても、レベル差ということか。
しかし、無理に横に飛んだことで俺は壁に激突。
ガハッ!
ダメージはそれほどないが、体勢が崩れたのが痛い。
ミノタウロスがその隙を見逃すはずもなく、今度は片手で斧を振り下ろしてきた。
大きな弧を描く分、威力は先ほどとは比べものにならないくらい大きいだろう。
2回しか大きく移動していないが、俺の方がやや速く動いていると感じる。
ミノタウロスの斧が迫っている。
振り下ろされてくる斧を見つつ、ミノタウロスの腕を刀で下から斬り上げる。
そのまますれ違うようにミノタウロスの後ろへ向かって飛んだ。
真横で腕が見えたが、おそろしく太い。
そのまますり抜け、ミノタウロスの頭を足場にして飛ぶ。
「ふっ!!」
ミノタウロスの背後に出ることができた。
ドッゴォーーーーン!!!
周囲に土やら石やらが飛び散る。
これだけでかなりの威力があるだろう。
だが、ミノタウロスの前方に、先程よりも大きな土煙が舞い上がる。
だが、その巨体が障壁となり、俺に飛んでくる破片などの礫(つぶて)を防ぐことができたようだ。
その様子を見ながら、少し嫌な気持ちが沸き起こる。
頭を蹴ったその感触・・まるで岩場のようだった。
俺の刀は折れていない。
だが、俺の心が折れかかる。
俺のレベルが上がったからといって、まだ早かったのではないか?
じいちゃんの刀を持って増長した。
レベル差は、低いやつと対峙すると圧倒的に優位だが、自分よりも上位となると・・。
ネガティブな方向へと考えが浮かぶ。
!
俺は、ハッとする。
これって死亡フラグじゃねぇかよ、縁起でもねぇ。
軽く頭を振る。
ん?
ミノタウロスの動きが止まり、何やらモゾモゾしている。
ミノタウロスの右手が落ちたようだ。
俺の折れかかった心は復活。
あのすり抜け様に斬り上げた刀が効果あったんだ。
!
そうか!
絶対切断、そして空間を斬り裂いているような感覚。
直撃しなくてもその周囲を斬ってくれていたのか。
ありがたい。
そして、じいちゃん、ありがとう!!
俺は心の中で叫ぶ。
だが、油断などできはしない。
俺はすぐに気を引き締め、ミノタウロスを見る。
左手で斧を持ち換えていた。
!!
視点を動かしてみると、ミノタウロスの前方に大きな地割れが出来ていた。
マジか・・地割れって、ありえねぇ。
左手で斧を持つと、ミノタウロスは叫び声を上げる。
「グォオオオオオオオオオ!!!!!!!」
今まで聞いた咆哮とは違う。
ビリビリくる感じはあるが、硬直するのでもない。
ただ、やる気が失われる気がする。
な、なんだ?
力が抜けるような・・威圧感じゃない。
これって、相手に恐怖みたいなものを与えるのか?
「こっのぉ・・クソがぁ!!」
俺は声に出しながら両足を踏ん張り、刀にグッと力を込めて握る。
すると不思議と落ち着いて来た。
俺はかろうじて戦闘意欲を失わないで済んだようだ。
おそらくもっとレベル差があれば、それだけで動けなくなったんじゃないか?
しかも戦闘意欲までも奪われていたかもしれない。
最悪なスキルを持ってるな、ミノタウロス。
ミノタウロスは左手で斧を振り上げて迫ってくる。
俺も刀を構えることができた。
右手は斬ることができたんだ。
刀は通じる。
俺は自分に言い聞かせた。
来た!
ミノタウロスの斧が振り下ろされる。
どうする?
バックステップや横に避けても、その衝撃からは逃れられないだろう。
やはり、すり抜けながら斬る方がいい。
あの地割れだ・・死ぬ。
よし!
そう思うと、ミノタウロスの腕のない方へと抜けていく。
俺の刀がミノタウロスの身体をかすめる。
これで・・。
俺がそう思った次の瞬間。
!!
ミノタウロスの
左脇へ抜けながら、ミノタウロスの身体を刀がかすめる。
バン!!
尻尾の打撃をもろに食らう。
ちょうどカウンターでもらってしまった。
車と衝突したみたいな感じだ。
俺はミノタウロスの左横方向へ吹き飛ばされた。
瓦礫に突っ込みつつも50メートル以上は吹き飛ばされただろうか。
「ぐはぁ・・」
かは・・はぁ・・はぁ・・。
「ぅくぅ・・」
身体が痺れて動きづらい。
息も苦しい。
やばい、くそ・・やばい!
わかっているが、身体が動かない。
くそーーー!!
声もでないようだ。
クッ!
自動回復を待つ時間などあるはずがない。
回復魔法なんて覚えてないぞ。
やはり、このレベル差は無理だったのか?
それよりも、どうやって逃げる?
いや、回復できなければ無理だ。
俺は身体をゆっくりと起こしつつ、そんなことを考えた。
自動回復で少しずつは回復してきている。
だが、逃げれるほどではない。
ミノタウロスの頭が俺の方を向いて止まる。
こちらを見つけたようだ。
何か笑ったような気がした。
直後、ミノタウロスは駆け出してくる。
クソ!!
こんなところで・・調子に乗り過ぎたのか。
それに、あんな牛ごときにやられるのか?
笑いながら迫ってきてやがる。
クソ!!
嫁にもっと嫌味を言ってやりたかったのに。
旦那だろう、もっと丁寧に扱え。
クソ!!
これって、走馬灯か?
すまない・・優、颯、凛、そしてばあちゃん、じいちゃん。
・・・
!!
って、ただで死ねるかぁぁぁ!!!
突きぬいてやる!!
来い、この牛野郎が!!!
妙に怒りが込み上げてくる。
俺はその怒りと共に両手で刀を構えた。
突いてやる。
思いっきり突いてやる!
突きぬいて、貫いてやる。
それだけを考えた。
ミノタウロスが斧を振りかぶる。
その時何かが飛んで来た。
トシュ!
ミノタウロスの振り上げた左腕に矢が刺さるのが見えた。
ん?
トシュ、トシュ、トシュ!!
連続して頭と左肩に矢が刺さっていく。
な、なんだ?
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