第73話 やっぱ魔物って・・アホなのか?
ん?
あれ、俺の目って・・近眼じゃなくなってる!
回復してるんじゃないか?
戦車と魔物の戦闘を見ていて思った。
そういえば、腰の痛みもないような気がする。
今更ながら気づいたが、このシステム、ありがたい。
おっと、それどころじゃない。
・・・
さすが自衛官だな。
こんな状況なのに、余計な奇声を上げてないぞ。
だが、絶望的だと思うのだが。
!!
ありゃ?
戦車のハッチを開けてライフルか。
余計にダメだろう。
あれは・・・そうか、人が走って来てたのか?
「助けてくれ~!!」
叫びながら走ってくる人が見える。
なるほど・・あの人たちを助けようとしてるのか。
何という責任感の強さか。
・・・
しかし、無理だろう。
クッ、申し訳ない!
俺には出て行けない。
どう考えても無理だ。
・・すまない!
◇
<戦車を俯瞰できる場所で>
女の子3人がひっそりと身をかがめ、成り行きを見守っていた。
「ちょっと久美、動かないでくれる?」
「仕方ないじゃない! あの魔物に見つかったら、確実に殺されるわ」
「わかってるわよ・・でも、いったい何が起こっているのかしら・・ううん・・わかってる。 ゲームのような世界になったのよ」
「由美・・」
「そうね・・本当に、夢じゃないわよね」
「うん、昨日から何度も確認したわ」
久美子、由美、茜の3人の女の子がひそひそと話し合っていた。
「茜・・あの魔物に魔法って効果あるのかしら?」
「わからないわ・・でも、もし魔法を放って効果がなければ、私たち死ぬわよ」
・・・
みんなわかっていた。
目の前の状況を見てジッとしていられるはずもない。
だが、動けば自分たちが死ぬ可能性がある。
それもかなりの確率でだ。
「・・うん・・わかっているわ。 言葉にしたくないけど、私たちでは無理よ。 今、こうして生きているのも奇跡のようなものよ」
由美の言葉に、みんながうつ向く。
「と、とにかく・・今は見つからないようにしましょう」
目の前で人の尊厳が踏みにじられている。
助けたいが、今の彼女たちの力ではどうしようもない。
現に、今こうして生きているのが奇跡と言っていいだろう。
それは痛い程わかっていた。
だからこそ、誰も言葉にせず耐えていた。
◇
<テツ>
オークが戦車を持ち上げた。
「クッ!」
俺は目を閉じる。
ガッシャーーン・・ドッゴーーーン!
ゆっくりと目を開けると、炎が立ち上っている。
周りにいたオークたちが集まってきた。
同じように戦車を持ち上げて投げつける。
先程の自衛官と助けを求めていた人は消えていた。
クソが!
そのうち、ガーゴイルも集まってきて、戦車や車を空中に持ち上げては落としていた。
・・・
無茶苦茶だな。
チッ!
俺が奴等を余裕で倒せるくらい強ければ、速攻で仕留めるのに。
そんなことを思ってみるが、確実に無理だ。
瞬殺されるのは目に見えている。
それにしても、戦車ってあんなに軽かったか?
今度はオーガが大きな石のような棍棒で戦車を叩きつけていた。
戦車が段ボールみたいにグシャッとなる。
恐ろしいな。
このままここで居てもどうしようもない。
それに見つかったら終わりだ。
俺が移動しようと思うと、何やらオークの投げた車が他のオークの背中に当たった。
なんだ?
当てられたオークは振り向きざま、投げたオークに戦車を投げつけていた。
・・・
1体だったのが、2体、4体・・・。
まるでオークの雪合戦のような感じになってきた。
投げる車や戦車がなくなってきたら、瓦礫を投げつけ始めた。
ガーゴイルも参加して、まるで魔物たち運動会のようだ。
人がやるような枕投げや雪合戦ではない。
当たれば同族と言えども、血しぶきが舞い死傷している。
・・・・
こいつら、やっぱりアホなんだ。
オーガがこの辺りではレベルが一番高いが、オークが他のオークを倒すと稀にレベルが上がったりしていた。
なるほど・・魔物って、こうやってレベルが上がったりするのか?
俺は妙に納得する。
それなら、魔物の抗争もアリなのかもしれないな。
適当に減ってるし。
地響きを感じながら俺は見ていた。
見てるだけってのは、なにかおもしろい感じがする。
ただ、渦中にいると即死だろうな。
それはわかる。
そりゃ、街が滅ぶわけだよ。
それにしても、こいつら手加減ってものがないんだな。
全力だ。
やっぱ、アホだな。
さて、長居は無用だ、移動しよう。
俺が動こうとすると、上空から1体のオークが降ってきた。
ドーーーーーーン!
うわぁ!!
もう少しで俺は声を出すところだった。
危ない、危ない。
落下したオークはプルプルと身体を震わせながらも、起き上がろうとしている。
!!
こ、これはチャンスか?
俺は一瞬迷ったが、オークに突きを連打した。
ドドドドドドド・・・
『経験値を獲得しました』
yes!
俺はオークの赤い魔石を回収。
ありがたい。
こんな感じで経験値が手に入るなら、ラッキーすぎるぞ!
やっぱり、もう少しこの争いを見て行こう。
そして、弱ってる奴等がいたらいただいてしまおう。
そんな
適当に土埃も舞ってるので、見つかりにくいだろう。
そして、そんなチャンスは案外あるもので、オークたちの争いの外側にガーゴイルがやや多く倒れていた。
この刀はガーゴイルとは相性がいい。
ガーゴイルが落とされて倒れているところに俺は近づき、何体かを狩ることができた。
プス、プス、プス、プス・・・・。
やっぱり、軽く刺さるな。
ラッキー!!
これはかなりおいしいぞ!
『レベルが上がりました』
!!
マジか、早いな。
俺は驚いた。
しかし、ステータスを確認できるほど余裕があるわけではない。
吹き飛んでくるオーク。
落ちてくるガーゴイル。
それにしても多いな・・って、あいつか!
オーガ:レベル21。
棍棒を振り回しまくっているな。
そりゃ、ここら一帯の仲間というか、魔物はいなくなるんじゃないか?
それに、初めからレベルの低い魔物はいなかったしな。
低い魔物は郊外にでも行くのかな?
少しの間だったが、とても効率よく魔物を狩ることができた。
結構な数の魔物をいただいたし、レベルも上がった。
そろそろ行くか。
そう思っていたら、俺の身体にゾクリと寒気が走る。
忍術のスキルだろうか。
危険を察知したら感じるのか、本能なのか・・俺の目の端で、オーガがジッと立っているを
・・・
見たくないが見るしかない。
そっと、ゆっくりとその方向に顔を向けていく。
・・・
オーガが手にしていたオークをポトリとその場に落とす。
!!
間違いなく俺と目が合った。
豚ではない。
オークのような感じだと思っていたが、全然違う。
マッチョは間違いない。
牙が生えている・・口からはみ出していた。
小さな角のようなものも見える。
そこまでだった。
オーガがこちらに向かって歩いてくる。
俺の方じゃないよな?
そんな俺の希望的観測はすぐに消え去る。
俺は逃げようと思ったが、逃げた瞬間に追いつかれるような気がする。
近くで爆発でもあれば逃げれるのだが。
・・・
調子に乗り過ぎた。
サッサと移動しておけばよかったんだ。
だが今さら遅い。
って、死亡フラグを立ててどうする!!
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