第63話 ヒロキ:テツとの遭遇まで24時間前・・冒険の始まり!


「・・ヒロキはん、マジでっか?」

ユウジは、もはや恐怖を通り越して何やらおかしさが湧いてきた。

「ははは・・凄いっすね、全員っすか・・凄いっすね・・」

その言葉の繰り返しだ。

ユウジの反応を見ながらヒロキは言う。

「ユウジ・・それでな・・生き物を倒すと経験値を獲得しましたって声が聞こえるんだ。 もう言ったっけ?」

ユウジは聞いたかどうか忘れていた。

「それって、天の声ってやつっすよ。 ほんまに異世界みたいっすね・・凄いっすよ」

ユウジはそう答えつつも、少しフワフワした感じになっていた。

ヒロキの無茶苦茶とも思える行動と結果に、考えが追い付いていない。

一方ヒロキは、生まれて初めてワクワクしている自分を感じていた。 

いや、気分が高揚しているだけかもしれない。

だが、生きているというのはこういうことなんだろうと思っていた。


ヒロキはすぐにこのテンションの高さを戻し、ユウジの方を向いて聞く。

「ユウジ、異世界ものとかゲームなら、これからどうするんだ?」

ユウジはヒロキの切り替えの早さに驚きながらも答える。

「そ、そうっすねぇ・・まずは仲間でパーティ組んで、それから冒険の始まりっすね」

!!

冒険の始まり!

ヒロキは腑に落ちるものがあった。

そうだ、これだ!

「ユウジ・・お前、いいね! 冒険の始まりか・・そうだ! 俺達の冒険が始まるんだよ」

ヒロキは冒険という言葉を繰り返し、ゆっくりとうなずいていた。


ユウジには少しモヤモヤした感じが沸き起こっている。

この人についていっても大丈夫だろうか?

しかし、こんなゲームや異世界のようなことが現実に起きている。

ステータス画面なんて、ありえないことだ。

・・・

・・

やっぱ、異世界みたいな世界になったんだ。

ユウジはあまり深く考えれそうにない。


「ユウジ、パーティってどうすれば・・」

ヒロキがそう言おうとすると、ステータス画面にパーティを申請しますか? と表示されていた。

早速、ユウジにパーティを申請してみた。

「うわぁ・・ヒロキはん、頭ん中に声が聞こえたっすよ!」

ユウジは驚きつつもヒロキとパーティを組んだ。

「そういえば、ユウジ・・あいつら、したッパーズの連中呼んで一緒にパーティを組もうぜ」

ヒロキが言う。

下ッパーズ:ヒロキのチーム仲間で、いわゆるパシリ的な連中だ。

「・・それなんすけど、さっきから携帯がつながらんのですよ」

ヒロキも自分の携帯を確認してみる。

圏外。

故障してんのかな?

ヒロキがそんなことを考えていたら、突然ファミレスの電気が消えた。

どうやら停電みたいだ。

すぐに、店員が声をかけてきた。

「店内のお客様。 大変ご迷惑をおかけしております。 すぐに自家発電システムに移行しますので、しばらくお待ち下さい」

そう言い終わる前に、電気が復旧していた。


「きゃあ!!!」

店員が叫び声を上げた。

いきなりの悲鳴に店内にいた客たちもビクッとなる。

「て、店長! 窓、窓に・・・」

その声に合わせて、ヒロキとユウジ、他の客も窓を見た。

!!!

「うわぁ!」

「おお・・・」

「おわぁぁ・・」

ほとんどの人が窓から離れ、店の奥へと移動し始める。

ヒロキとユウジは自分たちのテーブルから動いていない。

窓の外には狼のような顔の背の高い、全身が毛で覆われた人みたいなものがこちらを見ていた。

ロンリーウルフ、レベル3。


だが、店内の誰一人相手のレベルはわからない。

ヒロキも盗賊になっていたが、相手のレベルや名称を知ることはない。

その犬のような大きな生き物は、ガラスに体当たりをしている。

ドン!

なかなか壊れないようだ。

頑丈なファミレスだな。

ヒロキはそんなことを思っていた。

「ヒ、ヒロキはん・・あれって・・たぶんやけど、魔物っすよ。 それで、ああいうやつらを倒しながら、レベルアップしていくんすよ」

ユウジがその場で立ち上がりながら口にした。

そう言ってるうちに、ファミレスの自動ドアが開いたようだ。

停電していたのなら開かなかっただろう。


ドアが開いたが閉まる気配がない。

ん?

誰もいない。

!!

ヒロキたちが目線を下に落とすと、レジの横を子供くらいの大きさだろうか。

小汚い服を身に着けた鼻の大きな生き物が数匹入ってきていた。

ゴブリンだ。

手にはナイフを持っている。

店員が叫んでいた。

「きゃあぁああ!」

その声に反応してゴブリンが襲いかかろうとしている。


ヒロキ達は自動ドアが開いたときから見ていた。

「・・ゴブリンっすね」

ユウジはそうつぶやきながらやや緊張する。

「ユウジ、あいつらを倒せば経験値が手に入るんだよな?」

ヒロキは聞いた。

「ええ、そうっす・・ゲームや異世界ならですけど」

ユウジの声が震えている。

そこまで聞くと、ヒロキはそのまま歩いてゴブリンに向かう。

店員の叫び声が聞こえるが、どうでもいい。

ゴブリンが店員めがけて動こうとしたところに、ヒロキのナイフがゴブリンに刺さる。

迷いはない。

続けざま、隣のゴブリンと次々に刺していく。


ほぼ、一撃で致命傷のようだ。

ヒロキの動きは戦い慣れているという感じだった。

頭の中では経験値を獲得しましたの連呼が聞こえる。

5匹のゴブリンを倒していると、入り口に先ほどの狼の顔をした大きな生き物がいた。

入ってくるようだ。

いきなりヒロキに襲いかかって行く。

ユウジが叫んでいた。

「ヒロキはん、危ない!!」

ヒロキはその声を聞きつつ、それほど速い動きでもないなと思った。

レベル差があるからだ。

だが、それを知るすべはない。

落ち着いてロンリーウルフの攻撃をかわし、そのまま胸から首にかけてナイフで斬り裂いていた。

ヒロキにすれば簡単に狩れた感じだ。

ゴブリンもそうだが、ロンリーウルフもしばらくして蒸発する。

後には石・・魔石が残っていた。

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