第64話 ヒロキ:テツとの遭遇まで23時間前・・自惚れていたな


「ユウジ、なんか石みたいなものがあるぞ」

ヒロキは光る石を見つけ、ユウジが答える。

「ヒロキはん、それってたぶん魔石っすよ。 ゲームなんかじゃ、換金アイテムになるはずなんすけど・・まぁ、拾うておけばええんちゃいますか? それより、頭の中に経験値を獲得しましたって天の声が鳴りっぱなしっすよ。 あ、レベルが上がりましたっていうのも聞こえました。 ヒロキはんとパーティ組んだからっすね。 ありがとうごさいます!!」

ユウジは大喜びだった。

すでに不安さは吹き飛んでいた。


店員が震えながらヒロキの方をみて、お礼を言っていた。

「・・あ、あ、ありがとうございました・・」

ヒロキは言葉を出さずにニコッと微笑む。

そのままユウジのところへ歩いて行った。

ヒロキ達以外の客はレジと反対側の奥の方で固まっていた。

何もできないようだ。

「ヒロキはん、それにしても凄いっすね・・動きが見えやしまへん」

「・・・」

ヒロキは普通に動いていただけなんだが、周りからはそう見えるのかといろいろ考えていた。

だが、すぐに考えるのをやめた。


窓の外に大きな犬の魔物が現れた。

ワーウルフ、レベル10。


相手のレベルがわかれば、ヒロキは即逃げ出しただろう。

だが、ヒロキは自分の動きが人を超えたと自覚している。

慢心しているわけではないが、相手を見誤っても仕方がないだろう。

その場でゆっくりとワーウルフを見つめていた。

ワーウルフは体勢を低くする。

ヒロキはその違和感を感じた。

!!

吠える!

ヒロキはそう思い、急いで耳を塞ぎその場にしゃがんだ。

ワーウルフの咆哮を知っているはずもないが、そうしてしまった。

結果的には最高の選択だっただろう。


「わぉおおおおおおぉおおおおおん!!」


ワーウルフの咆哮だ。

窓が割れる。

ヒロキ以外の人がその場で動けなくなる。

ヒロキは最大級の警戒信号を身体で感じていた。

ヤバい!!

「ユウジ、ゆっくりと逃げるぞ・・おい、ユウジ・・ユウジ!」

ユウジは窓の方を見たまま目を見開いている。

どうやら動けないようだ。

ゆっくりとワーウルフが迫ってくる。


ヒロキはユウジを片手で引き寄せると、そのまま引きずりながらゆっくりと入り口付近へ向かった。

耳を塞いだと同時にしゃがんでいたので、その行動はワーウルフに見られていないようだ。

ヒロキはユウジを引きずりながら、軽いなと感じていた。

入り口へとたどり着く。

ワーウルフは奥に集まっている人たちを見つめ、焦る風でもなく、ゆっくりした歩調で近寄っている。

ヒロキは振り返ることもなく店の外へ出だ。

自動ドアも入り口のガラスも壊れている。


運が良かったとしかいいようがない。


店の外へ出て、ユウジを背中に背負うとヒロキは一気に走り出した。

とにかくファミレスから遠ざからなければ。

かなりの速度が出ていた。


ファミレスではワーウルフの食事が始まろうとしている。

店員以下お客は、動けず声も出せないまま、ただワーウルフが迫ってくるのを見ていた。


ヒロキはファミレスからかなり遠ざかっただろう、海が見える。

確か西宮駅近くのファミレスだったから、後ろに六甲山が見えるはずだ。

浜甲子園まで来たのか?

あの一瞬でもないが、そんな短時間で・・凄いな。

ヒロキは自分の身体能力に感心していた。

ユウジを背負ってなおこの能力。

やはり人を超えてる。

ワーウルフの恐怖より、自分に感動していた。

ユウジを下ろし、背中をポンポンと叩いてやった。

ユウジは動けるようになった。

「・・ぷはぁ、ヒロキはん・・おおきにです。 ほんまに・・ヤバかったっすね・・はぁ、はぁ・・」

ユウジの顔には大量の汗が流れていた。

「あぁ、ヤバかったな。 俺もうぬぼれていた。 少し強くなったからって、いきなり魔物と戦えるわけがないな」

ヒロキは自嘲気味に話す。

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