第62話 ヒロキ:テツとの遭遇まで24時間前・・英雄ってこういう気分だろうな


「・・チッ、で?」

支部長はますます面倒そうな顔をして女の胸に顔をうずめる。

「はい、実は支部長にお貸ししている負債の全部・・お返しいただこうかと思って参りました」

ヒロキは静かに言う。

支部長はヒロキが何を言ってるのかわからなかった。

「はぁ? 何言うてんのや?」

そう言ってムクッと起き上がってみると、拳銃を自分に向けて立っているヒロキがいた。

「お、お前、こんなことしてタダで済むと・・」

パン!

パン、パン!

ヒロキは迷わず引き金を引いた。

支部長と女が撃たれる。

「・・だから、こうやって返済してもらったんですよ・・経験値としてね」

ヒロキはゆっくりと頭を下げる。


『経験値を獲得しました』

天の声が聞こえた。

女と支部長は消えた。


ドバン!!

入り口のドアが勢いよく開かれる。

「支部長! 失礼します!」

「「「大丈夫でっかぁ!!!!」」」

怒声とともに男どもがなだれ込んでくる。

それぞれに銃やナイフを持っている。

ヒロキは迷わず移動して、次々に男どもを片づけて行った。

相手にならなかった。

ヒロキの移動速度は、通常の人間に目視できるものではない。

止まるときに一瞬、その姿が見えたかと思うとフッと消える。

その繰り返しでバタバタと人が倒れていく。

廊下にいたであろう8人が、ほんの一瞬と呼べる時間で倒れた。


ボディガード達の銃声もいくらか響いたが、当たるはずもない。

ヒロキのナイフと銃で蹂躙されていく。

奥から兵隊が次々と現れてきた。

だが、どこに敵がいるのかわからない。

見えない。

キョロキョロしているうちに音もなく横の仲間が倒れていく。

何が起こっているのか理解できない。


ヒロキが門をくぐってから10分ほど経過した頃だろうか。

静かになった。

家の入口からヒロキが出てくる。

そのまま門へ向かって歩き、軽く飛び越えた。

ヒロキは門を背中に遠ざかって行く。

・・・

・・

少しして門の前にはパトカーが集まってきていた。

1台のパトカーから警官が降りてきて、インターホンを押す。

応答がない。

もう一度インターホンを押して一方的にしゃべっている。

「失礼します! こちらで銃声がしたとかで通報があったもんですから・・」

・・・・

・・・

ヒロキはユウジのいるであろう、ファミレスに向かっていた。


ユウジは中で休憩している。

ユウジは少し、いやかなりおびえていた。

まさか、ヒロキが猫だけではなく、警察官も殺害してしまうとは思ってもいなかった。

拳銃を持ってどこへ行ったのだろう。

どこかで試し撃ちでもしているのだろうか?

そんなことを考えながら、ソフトドリンクをおかわりに行く。

オレンジ炭酸を入れて席に戻ってくると、ヒロキが入ってくるのが見えた。


「いらっしゃいませ~」

店員の声がする。

ヒロキは、ゆっくりとした足取りでユウジの席のところに座った。

時間は5時頃だろう。

ユウジはオレンジ炭酸を一口飲むと、ヒロキがどこに行っていたのか聞いてみる。

「ヒロキはん、どこ行ってはったんすか?」

ヒロキはニヤッとして口を開く。

「あぁ、連合支部に行ってきたよ。 もう、これからは無理な仕事はないだろう」

ヒロキは店員にフレンチトーストを注文。

ユウジは、連合支部に行って無茶なことをしただろうとは思ったが、まさか全滅させているとは思っていなかった。

「ほんまでっか? 連合支部から許可が下りたんすか?」

「いや、奴ら全滅したんだ」

ヒロキは普通に会話するように答える。


ユウジは動けなくなった。

今、なんて言ったんだ?

全滅・・どういうことだ?

「ヒロキはん・・全滅って・・なんでっか?」

ユウジはおそるおそる言葉を出した。

「言葉通りだよ。 この世界のどこにも奴らはいない。 しかも支部にいた全員だ」

ヒロキは、こみ上げてくる喜びが我慢できそうになかった。

「クックックック・・ユウジ・・死体が残らないんだぞ。 それに、俺はいいことをしたんだ。 世の中のクズどもを掃除したんだからな」

ヒロキは満足そうだった。

英雄って、こういう気分なんだろうな・・そう思っていた。

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