第61話 ヒロキ:テツとの遭遇まで25時間前・・お礼をしないとな



一方、外では尋問は終わり、ユウジはその場に座っていた。

何気なしに入り口を見ていると、ヒロキが1人で現れた。

!!

警察官は驚く。

同時に妙な不安が頭の中をよぎる。

相棒はどうした?

まだ何か捜索でもしているのか?

それとも・・。

まさか・・そんなはずはない。

あいつがやられるなんて。

この地区の剣道大会優勝者だぞ!!


そんなことを考えていたが、相棒は現れる気配はない。

最悪の想像が頭の中を駆け巡る。

「おい・・お前、入って行った警官はどこ行ったんや?」

声がやや震えていた。

「あ、すみません。 床に開いた穴に足を落とし込んで、そのまま倒れて動かないので、僕が呼びに来たんですよ」

ヒロキは軽く答える。


最悪の状況を想像していただけに、この言葉にホッとしてしまった。

警察官は疑うでもなく無防備に中へ入ろうとした。

ヒロキも一歩下がって中へ招き入れるように移動する。

次の瞬間、先の警察官と同じように前方から心臓へバタフライナイフを刺し、すぐに引き抜き首を掻き切った。

警察官はその場へ無言で倒れる。

少しバタバタしていたが、しばらくして制服だけを残して消えた。


『経験値を獲得しました』


ヒロキは、この警察官の制服からも拳銃をいただく。

これはいい!!

死体が残らない。

それにこんなに暗くても俺にはよく見える。

動きも普通じゃない。 

凄く速く動ける。

最初の一人の警察官を殺した後、職を選び盗賊となった。

ヒロキはそこで動きなどを確認してみた。

ありえない動きだった。

しかも音がしない。

俺は、今この瞬間に人を超えたんだ。

そう思った。


やることは一つ。

人を超えた俺が、人を倒して経験値を得る。

当然じゃないか。

「ヒロキはん・・まさか・・やっちまいましたか」

ユウジは恐ろしくなった。

ヒロキはニヤッとしながら言う。

「なぁ、ユウジ。 俺、人を超えたよ」

そういうと、ユウジに動いて見せた。


!!

ユウジは目で追えなかった。

「・・・・」

「どうだ、驚いたかユウジ。 これもユウジのおかげだ」

ヒロキはそういうと、ユウジの肩にポンと手をおいてお礼を言ってきた。

「ありがとう、ユウジ」

もうユウジにはわけがわからなかった。

「・・い、いえ、別にお礼なんかいいっすよ」

ヒロキは微笑む。


「そうだ、ユウジ・・俺はこれから少し行かなきゃいけないところがある。 今日は、本当にありがとうな。 また、連絡するよ」

ヒロキはそういうと、拳銃を2丁ポケットにしまって歩いて行く。

「ヒロキはん・・俺またファミレスに戻って、しばらく休憩してます」

ユウジはそう言葉を出すだけで精いっぱいだった。

ヒロキは背中越しに片手を挙げてそのまま歩いて行った。

ユウジはヒロキの後ろ姿をしばらく見つめていた。


ヒロキの行く場所は決まっていた。

関西連合の支部だ。

無論、全滅させるつもりだ。

そして、できる自信があった。

今までさんざんこき使ってくれたからな・・お礼をしないといけない。

そう思いながらヒロキは歩いて行く。


ヒロキは頑丈な石造りの門の前に来ていた。

時間は4時過ぎくらいだろう。

壁は高く有刺鉄線が張り巡らされている。

監視カメラも数えきれないくらいある。

中には戦闘員が20名以上はいるだろう。

だが、問題ない。

ヒロキはそう確信していた。

門に近づき、インターホンを押す。

しばらくして応答があった。


「どちら様?」

若い男の声だ。

「ヒロキです。 至急支部長へご報告したいことがありまして、伺いました」

「なんやヒロキか、こんな時間に・・ちょっと待ってろ」

ヒロキは門の前で待ちながら、見上げてみる。

3メートルくらいか・・軽く飛び越えれるな。

だが、今はまだだ。

「支部長、会うってよ・・入れ!」

門が開く。


門を通り玄関に向かう。

家の中に入り長い廊下を案内される。

廊下の随所にガタイのいい男たちがいる。

ヒロキはその真ん中を案内人に付き従って歩いていく。

廊下には8名か・・ヒロキは数えていた。


突き当りを曲がってすぐの部屋に案内される。

入り口が開いて中に入る。


支部長と呼ばれる男が、ベッドで女と一緒に横になっていた。

「失礼します」

ヒロキは頭を下げながら入って行く。

入り口が閉じられた。


拳銃はふくらはぎのあたりに隠してある。

ヒロキは、入り口のドアが閉まるとすぐに拳銃を腰の後ろへと移動させていた。

金属探知機を身体に当てられたが、ヒロキはふくらはぎのあたりが来ると、ササッと足を捻じったりしてごまかしていた。

それに相手もそれほど厳重に検査していなかった。

バレたら戦闘が始まるだけだと、ヒロキは覚悟を決めていた。

どうやら動きが見えなかったようだが。


「ヒロキ・・こんな朝っぱらから何の用や、いったい何があったんや」

支部長は面倒くさそうに顔だけをこちらに向ける。

「支部長、すみません。 どうしても時間がなかったものですから・・」

ヒロキは頭を下げつつ、拳銃を抜き取る。

腰の後ろで手を組み、拳銃の安全装置をそっと解除した。

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