第29話 店長だったのか、この人



若い男の人と会話をしていて、俺は迷っていた。

ステータス画面のことを伝えていいものかどうか。

優は、ただ横で静かに立っている。

う~ん・・言ってみようか。

いや、しかし・・この後、面倒事に巻き込まれるんじゃないか?

でも、命がかかっているしなぁ。

見殺しにするわけにもいくまい。

・・ステータス画面のことがわかっても、個人の問題だし能力だよな。

よし!!


「あの店員さん! 食料は買ってもいいですか?」

俺はそう言って優の方をみた。

優がやや拍子抜けな顔をして俺を見る。

「ええ、大丈夫ですよ。 どうぞ自由に選んでください」

若い男の店員は気軽に答えてくれたが、まさか世界事情が変わったなどとは思ってもいまい。

そういえば、警察などには連絡をしたのだろうか?

「店員さん、警察には連絡したのですか?」

俺は思わず聞いてみた。

「えぇ、もちろんです。 でも、電話がつながらないんですよ」

そうなのだ。

停電だけではなく、電話もつながらない状態になっているのだ。

「そうですか・・」

俺は意を決して言ってみた。

「それよりも、店員さんって異世界ものとかゲームとか好きですか?」

??

そらな。

やっぱり変な目でみられた。

というか、俺の振り方がまずかったな。


逆に警戒されたんじゃないか?

「い、いきなりですか。 異世界ものって・・ラノベとかにある異世界転生ものですか」

お、よく知ってるな。

男の店員は困惑しながらも、素直に答えてくれる。

「ええ、そうです」

俺が軽く返事をすると、店員は困ったような顔をしていた。

「知ってはいますが、あまり読まないんですよ。 それがどうかしましたか?」

「えぇ、そ、それでですね。 おっさんがこんなこと言うのもなんですが、だまされたと思ってステータスオープンって、言ってみてください」

俺は真剣だ。

「え? 何ですか? ステータス・・オープンですか?」

!!

「うわぁ! びっくりしたぁ。 何だこれは・・」

男の店員が言葉を口にしながら驚いている。

店員の後ろにいた人たちも、ザワザワしだした。

「どうしたのです、店長?」

店長?

この若い男の人って、店長だったのか。

「ああ、あのですね・・画面が現れて・・」

店長は困惑しているようだ。

「? 画面って、何です?」

店長の後ろの店員たちが問いかける。

俺が横から割って入った。


「その画面、人には見えないんです。 自分だけが見えるんです」

「しかし、ほんとに・・こんなことが・・」

「ええ、現実だと思います」

俺は店長に向き直って話す。

「そのステータス画面は自分の状態を見せてくれているようです。 よくわからないのですが、たぶんここを襲ってきた犬のような生き物・・そういったたぐいの、魔物と呼んでますが、それを倒すとレベルが上がっていくようなんです。 まぁぶっちゃけ、ゲームのような世界になったみたいな・・」

俺は一応は伝えたぞ。

後はどうするかは、知らん!


「これって、どうやるんですか」

そらきた!

「いや、俺もよくわからんのですよ、ほんとに・・それよりも、買い物させてくださいね」

俺はこの場所を離れようとした。

「こんな、こんなことって・・どうしたらいいんでしょうか?」

だから知らんと言ってるだろ!

心の中の声です、はい。

とはいえ無下にするわけにもいかず、俺は軽く説明をする。

「本当にわからんのですよ。 俺たちもほんの1、2時間くらい前に気づいたくらいで・・後はもう、ゲームの世界だなって・・それでやってます」

俺はそれだけを伝えると、乾きものとかを陳列している列へと移動した。


店長と呼ばれる男と従業員たちはいろいろ話をしているようだ。

きっと、店長がステータス画面を伝えたのだろう。

だが、あの店長、案外適応早いな。

しかし、実際は俺だってどうなっているかわからないのだ。

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