第22話 私はただ、危機を伝えに来ただけなのですよ


壮年の男はやや呆然としながら口を開く。

「・・マジックなのか」

マジックというのが何かよくわからないが、微笑みながら王は答える。

「魔法ですよ」

メカニズムなど説明しても理解できないだろう。

それよりも体感して理解してもらおうと王は考えたのだ。


部屋のドアが勢いよく開き、4人ほどの男たちが飛び込んできた。

「大丈夫か!!」

そう声を出しながら倒れている男、高橋を起こそうとしている。

他の連中も王を囲んでいく。

「お前、一体何をしたんだ!」

怒気を含んだ声を出すものもいた。

風で壁際まで寄せられた壮年の男が即座に叫んだ。

「その男に触るんじゃないぞ!!」

王は椅子に座ったままの状態で見ている。


壮年の男は、ようやく王の前まで戻ってくると椅子を逆向きにして座り直した。

「どういうことか、教えてくれ」

部屋は誰もいないかのように静かになる。

王は優しく口を開いた。

「先ほども言いましたが、魔法ですよ」

そんなバカな!

誰ともなく声が出る。

外からも見ていたが、まるで映画のワンシーンのようだった。

それを魔法という言葉で置き換えている。

信じられないが、目の前で起こったことは事実だ。

皆、妙な不安感で溢れていた。

壮年の男が無言で声の方を向くと静かになる。


「で、お前はいったい何をしたいんだ」

背もたれに両手を置き、壮年の男は王を見据えて聞く。

「これから起こるであろうことを伝えたかったのです」

王は壮年の男を見つめて答える。

「何が起こるというのだ」

「それは私にもわからない」

!!

王のその回答に場の全員が一瞬殺気立つ。

「ふざけるなよ」


「ただ、今私が行使した魔法・・このエネルギーを利用したものが、善悪を問わずあふれる世界が始まるということを伝えたかったのです」

王が優しく微笑み話す。

魔法を見ていなければ誰も信じなかっただろう。

だが、見てしまっている。

信じないわけにはいかない。

・・・

「先ほどのようなことが起こるというのか・・だがどうやって・・」

壮年の男は何とか言葉を出すが、みな呆然としている。

その時、部屋に一人の女の人が駆け込んできた。

「部長! た、大変です。 新宿都庁付近で見たこともない動物があふれているそうです! 他にも似たような報告で殺到しています」

始まったか。

王はそう思い軽く目を閉じた。


時間は3時30分を過ぎ。

王以外の者たちはすぐに部屋から出て行った。

部長と呼ばれる、王を尋問していた壮年の男もいなくなった。

一人の若い男だけが残されている。


王はステータス画面を出して確認していた。

若い男がそれを見て王に声をかけてくる。

「何をしているのです?」

若い男は王の不審な動きに反応する。

他人のステータス画面は見えないのだ。

!!

王は瞬時に悟った。

そうか!

ステータス画面は当たり前だと思っていたが、この世界にはないのかもしれない。

この画面が確認できれば対応の仕方もあるだろう。

王は若い男の方へ向き直ると即座に言う。

「君、ステータスオープンと言ってみてくれ」


若い男は不審な顔をしながらも、王の言葉に素直に従ってしまった。

言われるままにつぶやくと、若い男は驚いた!

!!

こ、これは・・漫画などにある異世界転生じゃないか!

先程の王の魔法を見ていたのもあるのだろう。

若い男は即座に理解した。

同時に夢なのかとも疑う。

王は優しく微笑みながら、若い男に話しかけていた。

・・・

・・

王は若い男にステータス画面、レベルなどについて基本的なことを教え、これを素早く多くの人へと伝えてくれるように言う。

若い男は興奮していた。

王に礼を言ってすぐさま駆け出していく。


部長は若い男から報告を受けると、すぐさま情報を共有しこれを全部署、全警察署、行政機関などへ伝えるように指示を飛ばした。

少しして、若い男が尋問室へ戻ると王は消えていた。

・・・・・

・・・

・・

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