第21話 この危機をどうやって伝えればよいのだ


王は乱暴に扱われるでもなく建物の一室へ案内された。

殺風景な部屋だ。

先ほどまでいた部屋と変わらない。

椅子と机があり、椅子へ座るようにうながされた。

ゆっくりと王は椅子へ腰かける。

連行していた職員たちが違和感を感じていた。

王の動作。

車から降りて歩く動きもそうだが、椅子に座る動きでさえ品を感じずにはいられなかった。

真似をしろと言われてもできない。

時間さえゆっくり流れているようだ。


王と机を隔てて一人の壮年の男が腰かける。

王から2歩ほど離れて若い男が壁を背に立っている。

少し離れてもう一つ机があり、若い女の人がノートに何かを書いているようだ。


王の真正面の壮年の男が面倒くさそうに話し始める。

「君は、何かね・・どこかの国王だということだが、間違いないかね」

「その通りです」

王は静かに答える。

その返答する声に妙に安心感を与えられるようだった。

壮年の男は一瞬驚いてしまった。

ただの返答だけなのに、何だ?


壮年の男は真剣な顔をして気を引き締める。

これは油断できない。

そう直感が騒いでいた。

「どこの国の国王なのかね」

壮年の男は覗き込むように聞く。

「アニム王国の王です」

「ふむ。 そういう国は、世界中にない・・いや、俺が知らないだけかもしれないな」

壮年の男はそう答えるが、妙にザワザワする。

何故こちらが焦ってしまうのだ。

こんなことは初めてだ。

人を尋問して、初めからこんな気持ちになったことはない。

まるでセミが木に止まって鳴いているような感じだ。

木に対して勝負を挑んでいるセミ。

最初から次元の違う勝負をしているような感覚。

なんなんだ?

男は気を取り直して咳ばらいをする。


「えへん、そ、それはいいでしょう。 で、首相に会って何をしたかったのかね」

壮年の男は聞く。

「・・・」

王は迷っていた。

もはやこの国のトップに会うことはできそうもない。

しかし、これから起こるであろう危機を伝えないわけにはいかない。

だが、この世界のレベルでは理解できないだろう。

どうするか・・。


「君ねぇ・・黙っていたら・・」

壮年の男が口を開くと、その言葉にかぶせるように王は話始めた。

「あなたは目の前で起こることを信じられるかね」

王は静かに言う。

その部屋の空気が一瞬凍りついたようだった。

ノートに書きものをしていた女の人も動きを止める。

壁際の男も一瞬息をするのを忘れたかのようだ。


「な、何を・・言ってるんだ? お前・・」

壮年の男がチラっと壁際の男たちを見る。

爆発物の危険をその場の3人が共有した。

だが、ここまで移動する最中に金属探知機は通過させたはずだ。

反応はなかった。

王は軽く息を吐き、微笑んだ。

「ふぅ・・いや、言葉を間違えてしまったようだ。 危険なことはしないので安心してほしい」

王は魔法のことを言っていたのだが、警察官達は爆発物と勘違いしたようだ。

その言葉で少し緊張が解けた。


「これから見せることを信じられるかどうかということだ」

王が落ち着いた口調で言う。

その言葉を聞き、やはり少し緊張感が増した。

王がゆっくりと両手の平を上に向け机の上に置く。

警察官達はただ黙ってその動きを見ている。


王の手の上に火が現れた。

ローソクのような火だ。

!!

「うわ、火だ」

誰ともなく言葉を出していた。

壁際の男も王の近くまで寄ってくる。

「おい!」

王の肩に触れようとする。

「君、私に強く触れないように。 このマントは自動防衛が備わっていて、危害を加えられそうになると・・」

遅かったようだ。

男は、王の肩にグッと力を入れ触れた瞬間、痺れてその場に倒れた。

「高橋!!」

机の前の壮年の男が立ち上がり、思わず叫んだ。


「大丈夫です。 死んではいませんよ。 痺れているだけです」

王はそのまま続ける。

そのうち火は炎となり、水の塊となり、バチバチと雷が発生したりする。

警備隊の詰め所で行ったのと同じことをした。

そして最後には強烈な風が部屋の中で吹き荒れる。

王の前の壮年の男は息もしづらそうだ。

そのまま王の前の壮年の男だけを壁際まで押しやり、風はおさまった。


王以外の人間は放心状態だ。

部屋の中で起きたことを受け入れられるはずもない。

閉じられた部屋。

その空間で火が起こり、水が発生し、雷のようなものまでが現れた。

そして、最後には大きな風が吹き荒れる。

夢といってくれれば救われただろう。


王は椅子から一歩も動いていない。

座ったままだ。

高橋と呼ばれる若い男は痺れて気絶したままだった。

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