第20話 信じるとは何と難しいことか


部屋の外には警察官達が来ていた。


アニム王にはわかっていた。

魔法という概念・・この国、いやこの世界のレベルでは理解できないであろう。

そして、規律維持機関のようなところに連行されている。

これはトップとの会話はおろか、その機会すら与えられないだろうと、詰め所に入った時に感じ始めていた。

だからこそ、警備員の2人に魔法を見せ何らかの変化を期待した。


だが、無駄だったようだ。

アニム王はおとなしく警察に連行されようとしていた。

この状況では何を言っても無駄だろう。

脱出の機会はいつでもある。

時間が惜しいが、今は流れに身をゆだねよう。

アニム王はそう考え素直に従っていた。


詰め所のドアが開き、警察官達が入ってきた。

班長は警察官達の後ろで王を見つめている。

アニム王は先ほどのガタイのよい2人の男に軽く頭を下げ、警察官に囲まれて連行されていく。


2人のガタイのよい警備員は王をジッと見つめて見送っている。

小刻みに震えていたかと思うと、2人はたまらず駆け出していた。

「国王、アニム国王! 申し訳ありません!!」

「我々が・・我々がバカなばかりに・・」

2人の警備員はまるで子供が泣きじゃくるようにわめいている。

「班長、王はテロリストでも悪人でもありません!」

「そうです。 王は、我々に危機を伝えに来ただけなのです」

班長と呼ばれる男の方へ向き必死で訴えている。


班長はひどく驚いてしまった。

「ど、どうしたんだお前たち・・」

うっすらと涙までうかべている。

「・・まさか、こんな短時間で洗脳までされたのか? ありえねぇ・・」

班長は口を少し開いたままポカンとしている。

2人の警備員は身体を震わせアニム王に謝罪している。

「うぅ・・すみません、アニム王」

「ぅうぅ・・我々が、本当にバカで・・すみません」

アニム王は優しく微笑み、そのまま車へと移動した。

「一体・・どうなっているんだ?」

班長はつぶやく。

何が何だかわからなかった。


アニム王は警察官に連行され車で移動する。

アニム王は確信した。

この国のレベルでは私の言うことは理解できないようだ。

では、どうやってこの危機に直面してることを伝えることができるだろうか。

私の世界の神が一緒に転移してきている。

魔素を利用して、そのうち魔物が生まれてくるだろう。

この世界の神はどういった存在なのかわからないが、おそらく融合する。

世界に神の存在は多々あるが、基本となるシステムは1つに収束するはずだ。


神とは会話することはできない。

だが、その存在は感じとることができる。

神官職ですら、会話はできない。

イメージを具現化するだけだ。

元老長ですらも何となく表現できただけだった。

そんな言葉にならないものをどうやって伝えることができるのか?

・・無理だろう。


だからこそ、トップにその危機を知らせなければならない。

少なくとも被害は最小限に抑えることができるだろうと思っていた。

しかし、異世界人の私の言うことなど信じるものがいるはずもない。

そして、それを受け入れるだけの器も、この世界では完成していないようだ。

王はそこまで考えると自嘲した。

王の両隣に座っている警察官は一瞬身構えてしまったが、すぐに前を向いた。

さて、一体どこへ連れて行ってくれるのだろうか。

王は静かに目を閉じる。

・・・・

・・

車が到着したようだ。

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