第19話 これは魔法というものですよ
「私はアニム王国の王です。 この国の総理大臣という方とお会いしたい」
王の言葉に一瞬反応できなかった。
警備員たちは後ろの仲間に目配せをして応援を呼ぶ。
どう考えても怪しいだろう。
こんな真夜中にマントを羽織り、いきなり総理に会わせろと言う。
普通じゃない。
2人の警備員がアニム王に近づいていく。
「アニム王国という国は聞かないな。 で、何用だ」
人数が増え警備員たちも安心したのか、態度も大きくなってきたようだ。
アニム王は気にすることなく微笑み、そして話し出す。
「我が国をご存じないのも仕方ない。 辺境の国ですからな。 それよりもこれから大変なことが起こるかもしれません」
!!
警備員たちに緊張が走った。
テロリストか?
誰もが思っただろう。
警備員の人数が増えてくる。
8人くらいの警備員が、アニム王を取り囲むように移動する。
アニム王はそのまま話を続ける。
「とにかく、総理大臣とお話がしたい」
やや威圧感のある、それでいて落ち着きのある一人の警備員が答える。
「総理はお休み中です。 また朝、出直されたらいいでしょう」
アニム王はゆっくりと首を振る。
「それでは遅いかもしれません」
アニム王のその言葉に警備員は警戒レベルを引き上げたようだ。
遅いだと?
どういうことだ。
こんな真夜中にコスプレの格好。
そして総理に面会したいという。
どう考えてもまともじゃない!!
警備員の共通認識だろう。
だが、妙に違和感を覚える。
警備員たちも言葉にならないが、このコスプレの人物から感じる雰囲気。
その所作に何か不自然さを感じさせるのだ。
うまく言葉にできないが、『品格』を感じる。
見た目は不審者なのだが、とてもならず者とは思えない。
確かに王と言われれば、なるほどと思ってしまう、そんな感じだ。
「・・君は何か、テロに関する情報を持っているのかね」
落ち着きのある警備員は聞いてみた。
?
「テロ・・ですか?」
アニム王はオウム返しで言葉を繰り返す。
警備員たちは、いつでも確保できるように距離を測りながらアニム王に近寄り立ち止まる。
アニム王の柔らかい会話が、安心感を与えるよりも危機感を増長したらしい。
「では、言葉を変えましょう。 危険物を見つけたとか・・そういうことなら警察へ行ってくれるとありがたいのだがね」
落ち着きのある警備員が言う。
警備員の対応はそれほど間違ってはいないだろう。
刺激してこの場で爆破されても困る。
緊張を与えずに方向をずらし、官邸から距離をとらせなければいけない。
しかし、アニム王にとっては一刻を争う事態だと感じている。
「そうですか。 だが、おそらく・・時間がない。 こちらの神がどういったものかはわからぬが、我々の神と融合すると思われるのです」
アニム王がよく通る声で話す。
神?
今、神と言ったか?
警備員たちの目つきが変わる。
アニム王としては当たり前のことを言ったのだが、この国では神を口にすれば、すなわち変な人物だと勘違いから入る。
もはやこの時点で、アニム王の望みは叶うことはないだろう。
アニム王は知る由もない。
警備員の共通認識は成立した。
「「「テロリスト関係者で間違いない!!!」」」
刺激しないように警察へ引き渡さなければならない。
やや後方で見ていた一人の男が前へ出てきた。
「私はこの警備隊の班長です。 貴殿は総理大臣にお会いしたいということですが、間違いありませんか」
アニム王はうなずく。
「では、こちらへどうぞ。 ですが、夜も遅いので少しお待ちいただくかと思いますが、よろしいですか」
班長は丁寧に対応する。
アニム王もその丁寧な対応に付き従った。
案内された部屋は6畳ほどの詰め所だ。
この国、世界のことなどまるでわからない王にとって、まずは信用することから始めねばならないと、自分に言い聞かせていた。
部屋に案内されて、班長は総理を呼んできますと言って部屋を出て行く。
交代するように、ガタイのいい男が2人部屋に入ってきた。
2人とも防弾チョッキを着ている。
王に威圧感を与えないように距離を保ちつつ、席についた。
班長は警察にすぐさま連絡を入れる。
詰め所ではお茶が出てきた。
王は遠慮なくお茶を飲ませてもらう。
「ふぅ、おいしいですな。 少し苦みがあるが飲みやすい。 それに温まります」
そう言ってゆっくりと飲んでいた。
2人の警備員のどちらとでもないが、アニム王に対して言葉を投げかけてきた。
本来なら話すことなどありえない。
だが、アニム王の雰囲気に自然と言葉が出たようだ。
「あなたはアニ・・何でしたっけ。 その国王様なのですか」
王はゆっくりとした動作でお茶を置き、その者に向き直って話し出す。
「ええ、そうです。 アニム王国、国王です」
その言葉を聞くだけで、高貴な感じを受け取る2人の警備員。
とてもテロリストとは思えない。
根拠はないが、決して悪い人ではない。
そう感じさせる何かがあった。
しかし、命令だ。
警察官が来るまで刺激せずに対応しなければならない。
「国王様は、何をなさりに来られたのですか」
ガタイのよい警備員は、最初は警戒していたがすぐにその緊張感は解けた。
王のお茶を飲む所作、会話、すべてに品位を感じずにはいられなかった。
言葉ではない。
その動きが語っていたのだ。
アニム王はゆっくりと一呼吸して、目線をやや下斜め方向へと落とした。
「ふむ、何から話して良いものやら・・おそらくはこの国の人には信じてはもらえまい」
そういって2人の警備員をゆっくりと見渡す。
警備員は背筋をシャキンと伸ばしてしまった。
相手に対して意識してではなく、身体が勝手に反応してしまうのだ。
「まずはこれを見てもらおう」
アニム王は左の手の平を上にして胸の前に出した。
手の平の上の空気が
!!
警備員2人は硬直する。
言葉を発することができない。
その火は水の玉に変わり、次にはバチバチと放電する。
水の塊が消えたかと思うと、強い風が起こり2人の警備員は壁際まで押されていた。
何が起こったかわかるはずもない。
ただ、背中を壁に押し当てて立ち尽くしていた。
アニム王は軽く微笑むと優しく言う。
「これは魔法というものです。 魔素を使いイメージでコントロールするのです」
アニム王は、お茶を飲んだ場所、椅子から少しも動いてはいない。
2人のガタイのよい警備員は動けない。
「あなたたちの世界文明では理解できないかもしれない。 先ほど、ここへ来るまでに街を見させてもらいましたが、どこにも魔素を含んだものはなかった。 逆に魔素はそこら中に多くあふれていた」
アニム王は独り言のように話す。
「あなたたちは、私が変な者にみえるのでしょうな」
アニム王は目を閉じ、軽く下を向いている。
警備員2人はまだ動いていない。
アニム王は軽く微笑むと話を続ける。
「それはいいのです。 ただ、今私が使った魔法。 これは魔素を利用して行う技術です。 そして、これが使えるということは、私の世界の神がこの世界で存在するということです。 もしかすれば、この世界の神と融合したのかもしれない。 そうすれば、今までの
アニム王は独白するように静かに話していた。
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